新居の電話が鳴ったのは、まだ寒い2月の雨が降る日だった。 受話器を取ると、懐かしい声が聞こえた。息を呑んで思わず電話を切る。 またすぐに鳴った。 「彩耶、切らないで!」 「……。」 「今日はね、報告があるんだ」 やっぱりカレだった。心臓がズキっとする。きっと、結婚の報告だ。 「オレね、婚約したよ。」 鋭利な刃物で突き刺されたようなショック。 「そうなんだ……。良かったね。おめでとう!」 受話器を耳に押しあてて、カレの返事を待つ。そう言えば、よくこうやって夜
元夫との間には、2人の子供がいる。 でも、あなたとの間にはいない。 元夫と離婚に至り、ようやくあなたと結婚できた頃には、子供を産める歳をだいぶ過ぎてしまっていた。 あなたは元夫との子供を、まるで自分の子供のように愛してくれた。 本当にありがとう。 でも、あなたの子を産みたかった。 あなたとの子供を育てたかった。 でも、全ては自業自得。20代にあなたを振って、元夫との結婚を選んだのは他でもない私自身だったのだから。 私をDVから救い、私を支え続け、子供を養育して
15年ぶりに、君と唇を重ねた。 まさか自分が不倫する日が来るなんて思ってもみなかったけど、でも、もし今日抱かれなかったら、ずっと後悔する気がする。 不器用な手つきで、ブラウスのボタンを外していく君。神妙な面持ちで一生懸命にボタンと外す姿が、なんだかかわいい。 %%% 20代の頃、君のすべてが好きだった。でも、高卒で建設作業員の君との結婚は許されなかった。プロポーズしてくれる君と、頑なに反対する両親。板挟みになった私は、君を振ることで決着をつけた。別れを匂わせたら、君は
店内が暗く、すすり泣きやガラスの割れる音があちこちから聞こえ、暗視ゴーグルをつけたウェイターが無言で料理をテーブルに置いていく。 それなのに、今までに味わったことがないほど美味しい料理。 そんなレストランがあったら行ってみたい。
あなたの腕の中で静かに目を閉じる。 今日のこの日のためだけに、辛い毎日をやり過ごしてきた。 腕の中に抱かれるだけで十分。 %%% そう思っていたはずなのに、 あなたにキスされただけで、もっともっと近づきたくなる。 若くもない私を可愛いと言ってくれ、丁寧に抱いてくれる。それだけで救われる。だから、応じてしまう。 あなたには、大切な家庭があるって知っているのにね。 %%% 肌が触れ合う。あなたの指が、唇が、私の肌を滑っていく。張り詰めていた緊張が解けていく。時に
美術部にヒロシが入部してきたのは、私が高3の時だった。 美術部に入ってくる男子は普通色白のオタクなのに、この子は妙にとんがってた。美術部よりもサッカー部のほうが似合いそうだった。本人にそう伝えると「オレ、先輩にペコペコしたり、みんなと仲良くやるの苦手なんで」と、にべもない返事だった。 ヒロシは部活を休んでばかりいたが、たまに来て絵を描くと、驚くほど上手かった。「ガキの頃から絵を描くのが好きだったんすよ」と恥ずかしそうに答える彼の横顔が妙に可愛かった。 気がつくと、ヒロシ
明夫は彩耶のパジャマの下とショーツを乱暴に引き摺り下ろすと、手に唾をつけて敏感な部分をこね回した。そして、体を重ねてきた。 夫のセックスは、言わば排泄行為だ。自分がしたくなると体調も聞かずに下だけを脱がせ、強引に入ってくる。そして果てると、すぐにイビキをかいて眠ってしまう。コンドームをつけると気持ちよくないという理由で中に射精した。仕方がなく、私は日頃からピルを飲んで自衛した。 最後に、男性に抱かれて幸せを感じたのはいつだろう? それ考えると、いつも切なくなる。思い浮かぶ
清恵はいつも学校を休んでばかりいる、ちょっと謎めいた子だった。重い病気を患っているとの噂だったが、本当のことは誰も知らなかった。さらさらの黒髪と端正な顔立ちが、日本人形のように美しかった。 そんな彼女と僕が初めて話したのは、中学3年の夏だった。体操部のマネージャーだった彼女とはなぜか気があって、なんとなく打ち解けた。かといって、好きだったわけでもなければ、付き合ったわけでもない。彼女は最後まで僕を「先輩」としか呼ばなかったし、僕も彼女を、苗字でしか呼ばなかった。 ただ、一
あなたは、白シャツが一番よく似合っていた。 童顔にアンバランスな太い二の腕。 器械体操で鍛えた体を覆う白シャツが、あなたをとてもセクシーに見せた。 それなのにあなたは自分のセクシーさに少しも気付かず、いつも冗談ばかり言ってたっけ。 %%% あなたと私の関係は、控えめに言って最高だった。あなたは私のことをいつも大切に思ってくれていたし、私もあなたが大好きだった。いつも支えてくれて、私は安心だった。 だから、卒業したらきっと結婚するって思ってた。 でも就職してしばら