心に残ることばの「序」
ひとつの試み
これまでの読書を通じて私の心に残ったことばの数々を、ここで取り上げてみたいと思う。
ひとつの作品は、その全体を読み通し、総体として把握してこそ真に読んだことになるという考えに、もとより私は異論を差し挟むつもりはない。
それでも、摘み取ってみてなお輝きを失わないばかりか、一輪の生け花のように、その存在自身の力において、ますます光彩を放つことばの断片が、たしかに存在する。
記憶力には限りがあるのだから、せめてそうした強く美しいことばだけでも、手元においておき、折にふれて味わいたいものだ。
それはさながら、深い山に分け入って、目に留まった美しい草花を持ち帰り愛でるようなものだと思っている。
そうして、美しいと感じる対象が人それぞれであるように、私が摘み取ってきたことばたちには、私の好みや美意識が強く反映されているに違いない。
そこにはまた、時の流れとともに、私自身の精神の移りゆくさまが反映されることになるかもしれない。
そのことばの一つ一つが、いまのあなたの好みに合うかどうかはわからない。
けれども、真に強く美しいことばには、万人に訴えかけるだけの力が宿されているものであり、その意味において、私が取り上げる一片は、いまのあなたの心にも響くのかもしれない。
あるいはさらに、それらのことばを契機として、作品そのものにあなたを導いてくれるかもしれない。
もしもそんなことが叶うとすれば、私の試みは十分に報われたと言えると思う。
なぜなら、同じことばを愛でる仲間がひとり増えたことになるのだから。