波長導通
久々に落語が出来ました。 お題は (波長同通)です。
嫁: お母さん、もう嫌やわ。
母: どないしたん?
嫁: あの人、ぐだぐだになるまで飲んで、帰ってきたのが三時、お母さん三時です
よ。いつものことだから寝ようと思ったんやけど、心配で寝れへんのです。
もう、ほとほと疲れましたわ。
母: もう、どないなってるんやろうな。ぐだぐだになるまで飲んでも家にはちゃんと
帰ってくる。普通の酔いかたとちゃうな。もしかしたら、もしかしたらやで、何か
変なものが付いているのとちゃうやろか?
嫁: お母さん、変なものって何ですか?
母: 幽霊や。
嫁: ひぇ~、幽霊、あの人に幽霊が付いているのですか?
母: もうそれしか考えられへんわ。飲みすぎるのにも程があるやろ。幽霊はな、自
分が飲みたいから人の身体に取り付いて飲ませるんや。訳が解らん程飲ませ
て、無事に家に帰ってもらうんや。次からも飲みたいからな。何かあったら幽
霊は困るんや。ず~っと取り付いて酒飲みたいからな。
嫁: 何であの人なん?他の人に取り付いたらいいのに。
母: そんな変なこと言わんとき、あんたの気持ちは解るけど。
嫁: お母さん、どうすればいいのですか?その幽霊を追い出すのは。
母: う~ん。お祓いかな、お祓いしかないと思うで。
嫁: お祓いで追い出せるのですか?
母: 一回、あの子とお祓いに行ってくるわ。悪いけど、もうちょっと辛抱してな。
それから4~5日して母と息子は神社に行き、お祓いをしてもらいました。
一ヵ月後、嫁からの電話です。
嫁: お母さん、ほんまに幽霊っているんですね。
母、 幽霊に会ったんか?
嫁: 違いますよ。 つい、先日、また飲み会があって、いつものように飲んでいた
ら、(もっと飲め、もっと飲め)と男の人の声が聞こえてきて、怖くなって飲むの
を止めたそうですよ。 最初はほんまかいなと思ったんやけど、真剣に言って
くるもんやから、ほんまに聞こえたんやと思います。
母: へぇ~、お祓いが効いたんか。ほんまに効いたんや。神様、仏さま、ご先祖
様、ありがとうございます。祓いたまえ、清めたまえ、祓いたまえ、清めたまえ
それから一年ほどはお祓いのおかげで大したこともなく、平穏無事に過ごしていま
したが、ある日のこと
嫁: お母さん、きれたみたい
母: 電球か?買ったらええやんか
嫁: そうやったらいいですけど、お祓いですよ。
母: もう、きれたんか、あれからまだ一年しか経ってないやんか。
嫁: 夕べ、またぐだぐだになるまで飲んで、帰ってきたらすぐにお風呂場に行き
服を着たままシャワーしているのですよ。もう、情けないやら、悔しいやら。
母: 完全にきれたわ。えらいこっちゃや。何とかせんと身の破滅や。
嫁: お母さん、あの人はお酒だけがだめなんです。ほかのことは完璧に近いぐら
いいいパパなんです。家のことも手伝ってくれるし、子供の面倒も見てくれる
し、お酒だけ、お酒に飲まれてしまうんです。
母: 解った。近々、あの子に会って話をするわ。
母の独り言・・・母子家庭だからあかんかったんやろか。
一生懸命育てたのに、育て方、間違ってしまったのやろか。
そして4~5日後、母は息子と会いました。
母: あんたのおとんと別れた理由はお酒やった。お酒飲んだら、今のあんたみた
いにお酒に飲まれて、訳がわからんようになったんやで。いつになったら帰っ
てくるかわからんし、、色々、酒では失敗しているんや。おかんはなぁ、あんた
がおとんみたいになるのが怖いんや。嫁ちゃんが言ってたで、あんたはな、お
酒以外はいいパパだって。可愛い子供が三人もいて、仕事もうまく行っていて
、この前、家も買ったとこやんか。このままだったら、おかんみたいに別れるは
めになるかもしれんのやで。あんた、小さいとき、苦労したやろう、そんな思い
を子供たちにさせてもいいんか、嫁ちゃんも苦労するで。
息子: おかん、それ言われるのが俺は一番つらいわ。酒飲むときな、気つけて飲
んでるのに、途中から、覚えてないねん。自分でもわからへんのや。
母: 一年ほど前にお祓いしてもらったやん、きれたみたいやで。また、酒好きな幽
霊があんたに付いている気がするんや。
息子: またか、俺に取り付いているんか?
母: あんな、よう聞きや、あんたに取りついている幽霊な、あんたと波長が合うか
ら付いているんや。波長同通って言ってな、同じ波長の者同士が引き合うん
や。生きている者もそうやし、死んで幽霊になっているものもそうや。あんた、
仕事でもそうやろう、この人とは何となくうまが合うとか、まったく合わないとか
覚えがあるやろう、自分の中に同じものがあるから反応するんやで。
息子: 波長同通って初めて聞いたわ。同じもの同士は引き合う、何となく解るよう
な気がするわ。俺に付いている酒飲みな幽霊、俺と似ているんか。ちょっ
とショックやな、おとんの話もショックやったけど。
母: 今、あんたに解れと言っても無理があると思うんや。目に見えへん世界の事
やから、色々な霊能者に相談しても、たぶん解決せぇへんと思うで。ほら、
あんたも知っている安倍さんな、あっちの霊能者、こっちの霊能者に行って
しまいには、頭おかしくなったやろ。霊能者に相談せんと、あんたは自分で
解決できるんや。
息子: 俺が自分で解決できる。俺、ほんまにできるんやろか。
母: あんたな、信じるか信じへんか解らんけどな、あんたにはな、生まれた時か
ら守護霊さんが付いているんや。この守護霊さんがあんたを守ってくれてい
るんやで。
息子: おかん、そんな話、作ったらあかんやん。今どき、守護霊さんっているんか
?
母: おかんもな、あんたと同じ普通人やから、見えたり聞こえたりはせぇへんけど
何回か助けてもらったことがあるんやで。初めて話すけど。
息子: 何や、今日は初めての話ばかりやな。
母: まぁ、あんたとこうやって話すことがなかったからな。
助けてもらった話はな、おかんが自転車に乗って走っていた時、前からすご
い勢いで車がおかんめがけて突っ込んでくるんや、あぁ死んでしまうと思っ
時にな、ス~ッと何かに持ち上げられ別の場所にいたんや。他にもまだある
で、
息子: おかん、解ったわ、死にそうになった時に助けてもらったんやな、おかんの
話もショックや。もし、おかんが死んでいたら、俺たち、今頃どうなっていた
のかわからんもんな。
母: 助けてくれた人な、あの時はわからんかったけど、今、考えれば守護霊さん
だったと思う。
息子: おかんの話がほんまやったら、もしかしたらその守護霊さんっているかもな。
母、: あんたに嘘ついてどないするんや。ほんまにあったことや。誰にも話してい
ないけどな。 こんな話、人は信じへんやろ。
息子: そうやなぁ、信じへんな。
母: な、人間に一番大事なものは何やと思う?
息子: また、急に変なこと聞くな。一番大事なもの・・子供と嫁や。
母: そうや、子供たちや嫁ちゃんに感謝することやと思うで。今、幸せやろう、今
の幸せも家族がいるからや、あんたに付いている幽霊は自分が酒飲めたら
それだけでいい。自分勝手なんよ。あんたの心の中に感謝の気持ちが生ま
れたら、その幽霊な、居心地が悪うなって、あんたの身体から出て行くと思う
で。
息子: ようよう考えたら俺には感謝が足らんかったような気がする。だから、自分
勝手な幽霊に取り付かれたんや。おかんの話がスーッと入ってくるわ、感
謝、考えたこともなかったけど、大事なことやと思うわ。 そして守護霊さん
にも、感謝やな、守護霊さんはもひとつ解らんけどな。
今まで深く考えたことがなかった感謝の意味、幽霊に取り付かれた災いが、彼を
感謝の方向に変えてくれ、今は前よりも幸せに暮らしているようです。 終わ