筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!
「筋肉を大きくするには、週に何回くらい筋トレをすれば良いでしょうか?」
「筋トレを週に2回より3回したほうが筋肉が大きくなるのでしょうか?」
これらの問いに、現代のスポーツ科学はこのように答えています。
筋トレによる筋肥大の効果は、頻度ではなく「週のトレーニングの量(総負荷量)」によって決まる。
筋トレの効果は主に、筋力を強くする筋力増強と、筋肉を大きくする筋肥大の二つに分けられます。近年の研究報告では、筋力増強の効果が週のトレーニングの総負荷量によって決まることがエビデンスとして示されています。
そして最新の研究では、筋肥大の効果もまた、週のトレーニングの総負荷量によって決まることが示唆されているのです。
今回は、筋トレによる筋肥大の効果と週単位のトレーニング量に関する最新の研究報告をご紹介しましょう。
◆ 週の総負荷量が筋肥大の効果の指標になる!
トレーニングの総負荷量(Training Volume)とは、トレーニングの強度(重量)と回数、セット数をかけ合わせた負荷の総量のことをいいます。
総負荷量 = トレーニング強度 × 回数 × セット数
アームカールを10kgの重量(強度)で10回、これを3セット行ったときの総負荷量は「300kg(10×10×3)」になります。
これまで、筋肥大の効果は、高強度(高重量)トレーニングが有効とされてきました。しかし、近年では中強度や低強度であっても、疲労困憊になるまで回数やセット数を増やして総負荷量を高めれば、高強度のトレーニングと同じような筋肥大の効果が得られると報告されています。
なぜ総負荷量によって筋肥大の効果が決まるのかというと、総負荷量を高めるほど、筋タンパク質の合成が促進されるからです。
筋肉はその大きさに応じて、数千から数十万本の筋線維から構成されています。筋タンパク質の合成は一本一本の筋線維の収縮によって促進されるため、筋肥大を最大化するためには、なるべく多くの(できれば全ての)筋線維を収縮させることが必要です。そのための指標が「トレーニングの総負荷量」であり、総負荷量が高まるほど、動員される筋線維の数が増えるとされています。そのため、多くの筋線維を収縮させるためには、疲労困憊になるまで総負荷量を高めることがポイントです。
そして、最新の研究報告では、筋肥大の効果は、1回のトレーニングの総負荷量ではなく「週の総負荷量」によって決まるとされています。
筋肥大の効果と週の総負荷量に関する初のエビデンスを報告したのはニューヨーク市立大学のシェーンフェルドらです。
2016年、シェーンフェルドらは、過去に報告された筋肥大の効果と週の頻度について検証した7つの研究報告をメタアナリシスしました。
メタアナリシスとは、複数の研究結果を統計的手法によって総合的に分析し、全体の傾向を解析するもので、エビデンスレベルが最も高い研究デザインです。
その結果、週1回のトレーニングよりも2回や3回の頻度で行った方が筋肥大の効果が高いことが示されました。この結果は、週1回のトレーニングだけでは筋肥大の効果を最大にするには不十分であり、週2回以上のトレーニングを行い、週の総負荷量を高めることが必要であることを示唆しています(Schoenfeld BJ, 2016)。
では、週の総負荷量が同じであれば、頻度が2回であろうと3回であろうと筋肥大の効果は同じなのでしょうか?
◆ 週の総負荷量が同じであれば頻度は関係ない!
「筋肥大の効果は、週のトレーニングの総負荷量で決まる」
そうであれば、週のトレーニングの総負荷量が同じ場合、週の頻度が2回でも3回でも筋肥大の効果は変わらないのでしょうか?
この問いに答えたのも、ニューヨーク市立大学のシェーンフェルドらです。
2018年、シェーンフェルドらは、前回よりもさらに多い25の研究報告をもとにしたメタアナリシスを報告しました。
その結果、週の総負荷量が同じ場合、週の頻度は筋肥大の効果に影響を与えないことが示唆されました。週の総負荷量が同じであれば、週の頻度は2回でも3回でも筋肥大の効果は同じであるということです。
また、サブグループ解析では、トレーニング経験の有無や上半身、下半身といった部位に関係なく週の総負荷量によって筋肥大の効果が得られることも示唆されています。
これらの結果から、シェーンフェルドらは「週の総負荷量を決めておけば、週の頻度は好みに応じて選択できる」と述べています。
僕たちは、いつも体調が良かったり、時間があるわけではありません。筋肉に痛みが残っていたり、仕事に追われているときもあります。そのときは、いつもよりトレーニングで追い込むことができず、総負荷量が少なくなります。このような場合でも、週の頻度を調整することによって筋肥大の効果をリカバーできる可能性があるのです。
例えば、いつも週2回、火曜日と土曜日にそれぞれアームカールを10kgの重量で10回、3セットを行っていたとします。この場合の週の総負荷量は「600kg(300kg×2)」になります。
しかし、別の週では火曜日に体調を崩してしまったため、1セットのみでトレーニングを終えました(総負荷量100kg)。体調が回復した木曜日に残りの2セットを行い(総負荷量200kg)、土曜日はいつもどおり3セットを行いました(総負荷量300kg)。この場合の週の総負荷量も「600kg(100kg+200kg+300kg)」になります。
シェーンフェルドらのエビデンスをもとに考えると、このように週のトレーニング頻度を調整しても週の総負荷量が同じであれば、得られる筋肥大の効果も同じになるのです。
シェーンフェルドらのメタアナリシスでは、対象が上腕と大腿の筋肉のみに限られていること、アームカールのような単関節トレーニングとスクワットのような多関節トレーニングによるそれぞれの影響を引き出すことができなかったことなど、今後もさらなる検証が必要です。しかしながら、研究間の異質性(バラツキ)も低く、筋肥大の効果が週の総負荷量に決まることを示した現時点でのエビデンスとして捉えて良いでしょう。
さいごに、筋肥大の効果と週の総負荷量との関係についてまとめておきましょう。
・筋肥大の効果は、週1回よりも週2回以上のトレーニングの総負荷量で高まりやすい。
・週の総負荷量が同じであれば、週の頻度は好みに応じて選択できる。
今回の報告により、筋力増強の効果だけでなく、筋肥大の効果も週のトレーニングの総負荷量によって決まることが現在のところのエビデンスとして示されました。週の総負荷量を把握しておけば、そのときのコンディションに合わせてトレーニング量や週の頻度を調整してみても良いかもしれませんね。
◆ 筋トレの科学シリーズ
シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!
シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ
シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ
シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!
シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス
シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!
シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス
シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス
シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!
シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデンス
シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス
シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない
シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?
シリーズ15:科学が明らかにした「モテるボディの絶対条件」を知っておこう!
シリーズ16:筋トレによる筋肥大と脂肪の減少効果を最大にする「プロテインの摂取タイミング」を知っておこう!
シリーズ17:ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!
シリーズ18:筋トレで筋肥大の効果を最大化するには疲労困憊まで追い込むべきか?
シリーズ19:筋トレ前の炭水化物(糖質)の摂取は必要ない?
シリーズ20:タンパク質の摂取は「筋トレの前と後」のどちらが効果的?
シリーズ21:筋トレのトレーニング強度と筋肥大の関係について知っておこう!
シリーズ22:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!
◆ 参考文献
Schoenfeld BJ, et al. Effects of Resistance Training Frequency on Measures of Muscle Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2016 Nov;46(11):1689-1697.
Schoenfeld BJ, et al. How many times per week should a muscle be trained to maximize muscle hypertrophy? A systematic review and meta-analysis of studies examining the effects of resistance training frequency. J Sports Sci. 2018 Dec 17:1-10.
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