見出し画像

筋トレとエネルギー摂取の科学①:安静時代謝量を知ることから始めよう!


 私たちの身体は、基本的に1日に消費したエネルギー量を基準にして、それより多くのエネルギー量を摂取すると体重が増加し(太る)、少ないエネルギー量を摂取すると体重が減少する(痩せる)仕組みが備わっています。

 1日のエネルギー摂取量 > 1日のエネルギー消費量 = 体重増加(太る)
 1日のエネルギー摂取量 < 1日のエネルギー消費量 = 体重減少(痩せる)

 筋トレを行う際は、筋肉を増やす(筋肥大)ためには適切なエネルギー量の摂取が不可欠です。エネルギー摂取量が不足していると、筋肥大効果が得られにくくなるからです。

 一方、必要以上に多くのエネルギーを摂取すると、筋肉だけでなく脂肪も増えるリスクがあります。

 そのため、不必要な脂肪を増やさず筋肥大を最大限に引き出すためには、自分のエネルギー消費量に合った適切なエネルギー摂取量を把握することが重要です。

 ここで重要なのは、「筋トレを行った日の1日のエネルギー消費量」を知ることです。これをもとに適切なエネルギー摂取量を計画できます。

 今回から2回に分けて、筋トレしたときの1日のエネルギー消費量を把握するための最新の研究報告をご紹介しましょう。


◆ 筋トレをした日のエネルギー消費量の内容とは?


 筋トレを行った日のエネルギー消費量は、主に以下の3つの要素で構成されます:

①安静時代謝量
②活動時代謝量
③筋トレによる消費量

 安静時代謝量とは、身体が休息しているとき(寝ているときやじっと座っているとき)に消費するエネルギーの量です。これには、呼吸や血液循環など生命維持のために必要なエネルギーが含まれます。

 活動時代謝量は、日常生活の活動で消費されるエネルギーの量を指します。例えば、歩行や階段の昇降、仕事などによるエネルギー消費がこれに該当します。

 筋トレを行った日は、これらに加えて筋トレによるエネルギー消費が加わります。

 筋トレを行った日の1日のエネルギー消費量は主にこれら3つから構成され、そのうち約60~75%を安静時代謝量が占めるとされています(Poehlman ET. 1989)。

 しかし、安静時代謝量を正確に把握するためには、専門的な機器による測定が必要になります。そこで代わりに用いられているのが「予測式」です。

 安静時代謝量を予測する方程式で有名なのがハリス-ベネディクト(Harris-Benedict)やカニンガム(Cunningham)の式です(Thomas DT, 2016)。

 その他にもOwen、Mifflin-St. Jeor、Nelson、De Lorenzo、Henry、Ten Haaf and Weijs、Jagim、Tinsley、Wang、Watsonなどの方程式が使用されています。

 では、これらの方程式の中で、トレーニーに最適なのはどれでしょうか?


◆ まずは、自分の安静時代謝量を知っておこう!


 その答えを見つけたのがダブリン大学のO'Neillらによる2023年の研究です。彼らは24の研究報告をメタアナリシスし、1430名の被験者データを用いて100の予測式を解析しました。

 その結果、アスリートの安静時代謝量をもっとも正確に予測できる式として「テンハーフ(Ten-Haaf)の予測式」が挙げられました。この式はアスリートの80%を測定値の±10%以内で予測できるとされています。

 テンハーフの予測式は以下のようになります(ten Haaf T, 2014)。

安静時代謝量=11.936 × 体重(kg) + 587.728 × 身長(m) - 8.129 × 年齢 + 191.027 × 性別(男性なら1, 女性なら0)+ 29.279

ten Haaf T, 2014より引用

 体重70kg、身長175cm、年齢30の男性を例にすると、、

 安静時代謝量
 =11.936 × 70kg + 587.728 × 1.75m - 8.129 × 30 + 191.027 × 1 + 29.279
 =835.52 + 1028.524 - 243.87 + 191.027 + 29.279

 となり、この男性の安静時代謝量は「1840kcal」であることが予測されます。

 計算は少し大変ですが、まずは、自分の安静時代謝量を把握するために、テンハーフの予測式を使って計算をしてみましょう(途中のマイナスに注意してください)。

 しかしながら、テンハーフの予測式には体重が68kg〜84kg、身長が1.73m〜1.91mの範囲であるときに正確性と精度が高くなるという制限があります。

 体重が90kgを超えるなど、この適応範囲から外れる場合は、アメリカンスポーツ医学会(ACSM)や栄養と食事のアカデミー(AND)などが推奨しているハリス-ベネディクト(Harris-Benedict)やカニンガム(Cunningham)の予測式を使用するのが良いかもしれません(Thomas et al, 2016)。

ハリス-ベネディクト(Harris-Benedict)の予測式
男性:66.5 +(13.75 × 体重kg)+(5.003 × 身長cm)−(6.755 × 年齢)
女性:655.1 +(9.563 × 体重kg)+(1.850 × 身長cm)−(4.676 × 年齢)

カニンガム(Cunningham)の予測式
500 +(22 × 除脂肪体重kg)


 筋肉量が多いトレーニーの場合は、カニンガムの予測式が適しています。ジムなどで除脂肪体重が計測できる場合は、この式で安静時代謝量を算出すると良いでしょう。

 これで、現時点でもっとも正確とされる予測式を用いて自分の安静時代謝量を知ることができます。次回は残りの活動時代謝量と筋トレによる消費量の把握方法についての近年の研究報告をご紹介します。




◆ 筋トレの科学シリーズ


シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!

シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ

シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ

シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!

シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス

シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!

シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス

シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス

シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!

シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデン

シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス

シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない

シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?

シリーズ15:科学が明らかにした「モテるボディの絶対条件」を知っておこう!

シリーズ16:筋トレによる筋肥大と脂肪の減少効果を最大にする「プロテインの摂取タイミング」を知っておこう!

シリーズ17:ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!

シリーズ18:筋トレで筋肥大の効果を最大化するには疲労困憊まで追い込むべきか?

シリーズ19:筋トレ前の炭水化物(糖質)の摂取は必要ない?

シリーズ20:タンパク質の摂取は「筋トレの前と後」のどちらが効果的?

シリーズ21:筋トレのトレーニング強度と筋肥大の関係について知っておこう!

シリーズ22:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!

シリーズ23:筋トレに役立つ「オメガ3」の効果と摂取タイミングを知っておこう!

シリーズ24:筋力を増強させる最低限のトレーニング量を知っておこう!

シリーズ25:筋トレ後の吐き気やその他の消化管症状のメカニズムと対処法を知っておこう!

シリーズ26:筋トレとエネルギー摂取の科学①:安静時代謝量を知ることから始めよう!


◆ 参考文献


Poehlman ET. A review: exercise and its influence on resting energy metabolism in man. Med Sci Sports Exerc. 1989 Oct;21(5):515-25. 

Thomas DT, et al. Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance. J Acad Nutr Diet. 2016 Mar;116(3):501-528.

O'Neill JER, et al. Accuracy of Resting Metabolic Rate Prediction Equations in Athletes: A Systematic Review with Meta-analysis. Sports Med. 2023 Dec;53(12):2373-2398.

ten Haaf T, et al. Resting energy expenditure prediction in recreational athletes of 18-35 years: confirmation of Cunningham equation and an improved weight-based alternative. PLoS One. 2014 Oct 2;9(9):e108460.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?