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筋トレに役立つ「オメガ3」の効果と摂取タイミングを知っておこう!【最新エビデンス】


 脂質には、牛肉や豚肉の脂のような「飽和脂肪酸」と、オリーブオイルや魚油のような「不飽和脂肪酸」の2つがあります。

 不飽和脂肪酸には、オレイン酸のような「一価不飽和脂肪酸」と、リノール酸やアラキドン酸のような「多価不飽和脂肪酸」の2つがあります。

 多価不飽和脂肪酸には、リノレン酸やEPA、DHAのような「n-3系多価不飽和脂肪酸(いわゆるオメガ3)」と、リノール酸やアラキドン酸のような「n-6系多価不飽和脂肪酸(いわゆるオメガ6)」の2つがあります。これは、不飽和の二重結合の位置の違いによる呼び方です。

 オメガ3は体の中で作ることができないので、魚油や亜麻仁油から食べる必要があります。

 最近の研究では、オメガ3を摂取すると、運動後の疲労回復や持久力の向上、免疫機能の維持などが報告されています(Żebrowska A, 2015)。そして、近年では筋トレへの効果についての研究報告も増えており、これらをまとめて解析した最新のシステマティックレビューが報告されました。

 今回は、オメガ3の筋トレへの効果について考察していきましょう。




◆ オメガ3は筋肉量の減少を抑えてくれる


  オメガ3による筋トレ後の筋肥大の効果に与える影響についてのシステマティックレビューを報告したのがポリテクニカ・デ・マドリード大学のLópez-Seoaneらです。

 2021年、López-Seoaneらは461人を対象とした15件の研究報告をもとに、オメガ3の摂取が筋トレによる筋肥大の効果に与える影響について解析しました。

 その結果、オメガ3の摂取は「筋トレによる筋タンパク質の合成や筋肥大を高める効果は期待できない」ことが示唆されました。

 解析の対象になった研究報告の数が少ないこともありますが、現時点では、オメガ3の摂取は筋トレ後の筋肥大の効果に寄与しないというエビデンスが示されたのです。

 この結果を得たLópez-Seoaneらは、オメガ3の摂取による別の効果についても解析を行いました。

 それが「オメガ3が筋肉量の減少を抑える効果」です。

 2022年、López-Seoaneらは、192人を対象とした7件の研究報告をもとに、オメガ3の摂取による筋肉量の減少に与える影響について解析しました。

 その結果、オメガ3の摂取は「筋肉量の減少を抑える効果が期待できる」ことが示唆されました。

 この解析も対象となる研究報告が少ないこともありますが、現時点では、オメガ3の摂取が筋肉量の減少を抑える効果があるというエビデンスが示されたのです。

 これらの結果から、López-Seoaneらはこのようにまとめています。

 「オメガ3の摂取は、筋トレによる筋肥大の効果は高めないが、筋トレをしないときの筋肉量の減少を抑える効果が期待できる」

 では、なぜオメガ3にはこのような効果があるのでしょうか?


◆ オメガ3が筋肉量の減少を防ぐメカニズム


 筋肉は筋タンパク質からできています。筋タンパク質は常に合成と分解を繰り返していて、そのバランスが筋肉量を決めています。

 筋トレをすると、筋タンパク質の合成が増えて分解を上回るため、筋肥大が起こります。筋トレで筋タンパク質の合成が増える簡単なメカニズムは以下の通りです。

①バーベルを持ち上げると筋収縮が起こる
②IGF-1などの筋肥大を促進するホルモンが出る
③AKTが活性化し、筋タンパク質合成のスイッチであるmTORをオンにする ④mTORがp70s6kを活性化し、筋タンパク質の合成を増やす

 このように、筋トレによる筋肥大には「AKTーmTORーp70s6k」の活性化が重要になります。

 一方、筋肉量が減るときは、筋タンパク質の分解が合成を上回ります。分解に関わるのがユビキチン-プロテアソーム系です。

 魚の油や亜麻仁油からオメガ3を摂取すると、AKT-mTOR-p70s6kの活性化は起こるものの、筋肥大の効果は限定的とされています。一方で、筋肉量の減少に関わるユビキチン-プロテアソームの活性化を抑えることが示唆されているのです。

 このようなメカニズムから、オメガ3は筋トレによる筋肥大の効果を促進させる作用は弱いですが、筋トレをしていないオフの日の筋肉量の減少を防ぐ効果が期待できる、と考えられているのです。


 オメガ3を多く含む食品には、えごま油や亜麻仁油などがありますが、オススメなのはやはり魚です。とくにマグロやサーモンはEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)が多いだけでなく、タンパク質やビタミンDも豊富なのでトレーニーに最適な食品といえるでしょう。

López-Seoane J, 2021より筆者作成

 オメガ3の摂取は減量にも効果的です。減量のためにエネルギー摂取量を制限すると脂肪量だけでなく、筋肉量も減ってしまいます。オメガ3には筋肉量の減少を防ぐ効果があるので、エネルギー制限による不必要な筋肉量の減少を回避できる可能性もあります。

 筋トレがオフの日や、減量期には、オメガ3を効果的に摂取する絶好のタイミングとなります。そうした時には、オメガ3が豊富なマグロやサーモン、亜麻仁油を積極的に食事に取り入れ、効率的なコンディショニングや健康的な身体作りを役立てていきましょう。




◆ 筋トレの科学シリーズ


シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!

シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ

シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ

シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!

シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス

シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!

シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス

シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス

シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!

シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデン

シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス

シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない

シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?

シリーズ15:科学が明らかにした「モテるボディの絶対条件」を知っておこう!

シリーズ16:筋トレによる筋肥大と脂肪の減少効果を最大にする「プロテインの摂取タイミング」を知っておこう!

シリーズ17:ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!

シリーズ18:筋トレで筋肥大の効果を最大化するには疲労困憊まで追い込むべきか?

シリーズ19:筋トレ前の炭水化物(糖質)の摂取は必要ない?

シリーズ20:タンパク質の摂取は「筋トレの前と後」のどちらが効果的?

シリーズ21:筋トレのトレーニング強度と筋肥大の関係について知っておこう!

シリーズ22:筋トレによる筋肥大の効果は「週のトレーニング量」で決まる!

シリーズ23:筋トレに役立つ「オメガ3」の効果と摂取タイミングを知っておこう!


◆ 参考文献


Jiao J, et al. Effect of n-3 PUFA supplementation on cognitive function throughout the life span from infancy to old age: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Clin Nutr. 2014 Dec;100(6):1422-36.

Żebrowska A, et al. Omega-3 fatty acids supplementation improves endothelial function and maximal oxygen uptake in endurance-trained athletes. Eur J Sport Sci. 2015;15(4):305-14.

López-Seoane J, et al. N-3 PUFA as an ergogenic supplement modulating muscle hypertrophy and strength: a systematic review. Crit Rev Food Sci Nutr. 2021 Jun 15;1-21.

López-Seoane J, et al. Muscle hypertrophy induced by N-3 PUFA supplementation in absence of exercise: a systematic review of randomized controlled trials. Crit Rev Food Sci Nutr. 2022 Feb 3;1-11.

Noreen EE, et al. Effects of supplemental fish oil on resting metabolic rate, body composition, and salivary cortisol in healthy adults. J Int Soc Sports Nutr. 2010 Oct 8;7:31.


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