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筋トレで筋肥大の効果を最大化するには疲労困憊まで追い込むべきか?【最新エビデンス】


 筋トレで筋肥大の効果を最大化するために、本当に疲労困憊まで追い込む必要があるのでしょうか?

 現代のスポーツ科学はその答えを「あなたのトレーニング経験によります」としています。

 筋肥大の効果は、トレーニングの強度、回数、セット数の組み合わせによる総負荷量で決まります。

 トレーニングの総負荷量=強度 × 回数 × セット数

 これから、低強度でも多くの回数とセット数で総負荷量を増やせば、高強度のトレーニングと同じ効果が期待できることがわかります。

 そのため、これまでは疲労困憊まで追い込むことで総負荷量を増加させることが、筋肥大の効果を高めると言われてきました。しかし、最新のメタアナリシスはこのように示唆しています。

 『疲労困憊まで追い込むかどうかは「トレーニングの経験」による』

 今回は、この新しいメタアナリシスの研究報告とそのメカニズムをご紹介しましょう。




◆ 疲労困憊まで追い込むか否かは「経験」によって異なる


 2022年、ビクトリア大学のGrgicらは、疲労困憊まで追い込むことによる筋トレの効果について調査した15の研究をまとめたメタアナリシスの結果を報告しました。

 解析には、394人の若年成人(男性265人、女性129人)を対象とし、トレーニング未経験者と経験者が含まれました。被験者は、トレーニングを疲労困憊まで行うグループと行わないグループに分かれました。

 トレーニングは6週間から14週間(平均10週間)行われ、週に2〜3回の頻度で行われました。筋肥大の効果は、主に大腿四頭筋の筋断面積または筋厚で評価されました。

 その結果、トレーニングを疲労困憊まで行っても行わなくても、筋肥大の効果に差がないことが明らかになりました。

 さらに、サブグループの分析では、効果が「トレーニングの経験」によって異なることが示されました。トレーニング未経験者は、疲労困憊まで追い込んでも、追い込まなくても同等の効果がありますが、経験者は疲労困憊まで行うことで効果が高まることが示されたのです。

Grgic J, 2022より筆者作成


 このメタアナリシスの結果から、筋肥大の効果は疲労困憊まで行っても行わなくても同等の効果が得られる可能性が示唆されました。また、トレーニング経験者は疲労困憊まで追い込むことが効果的であり、トレーニング未経験者は追い込まなくても同等の効果が得られる可能性があることも示唆されました。

 では、なぜこのような結果が得られたのでしょうか?その理由やメカニズムについて見ていきましょう。


◆ 経験者は筋肥大の効果が未経験者より低くなる?


 筋肥大の効果を高めるためには、筋肉の主成分である筋タンパク質の合成を促進することが鍵になります。

 しかし、トレーニング経験者は、未経験者や初心者に比べて筋タンパク質の合成反応が低下することが報告されています。

 サンパウロ大学の研究によれば、経験者は同じ強度のトレーニングを行っても、筋タンパク質の合成率のピークが速く、持続時間が短いため、経験者の合成反応全体は未経験者よりも約1/3低下する可能性が示唆されています(Damas F, 2015)。

Damas F, 2015より筆者作成


 実際、同じトレーニングを行っても、トレーニング経験者は筋肥大の効果が未経験者よりも低いことが報告されています(Ahtiainen JP, 2003)。

 これらの知見をもとに、Grgicらは経験者は筋タンパク質の合成反応が生じづらく、筋肥大の効果を高めるためには、疲労困憊まで筋肉を収縮させ、筋タンパク質の合成を促す必要があると推測しています。

 一方、トレーニング未経験者や初心者は、疲労困憊まで追い込むことにはリスクがあるとしています。

 筋肥大の効果はトレーニングの総負荷量に依存しますが、週単位で見ると、週単位でみると、筋肥大の効果は週の頻度をかけ合わせた「週単位のトレーニングの総負荷量」で決まることが報告されています。

 週の総負荷量 = 強度(負荷量)× 回数 × セット数 × 週の頻度

 ただし、未経験者や初心者が極限まで追い込むと、筋肉痛や筋疲労が生じやすく、次回のトレーニングのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。また、疲労困憊までのトレーニングを継続することは、怪我のリスクを高める可能性があります(Davies T, 2016)。

 このため、未経験者や初心者は、疲労困憊まで追い込まずに、毎回のトレーニングパフォーマンスを向上させることで週の総負荷量を増やし、心理的ストレスや怪我のリスクを最小限に抑え、筋肥大の効果を最大化することが重要になります。


 まとめると、筋肥大の効果は、追い込むか追い込まないかにかかわらず、経験者と未経験者の間で有意な差がある可能性が示唆されています。
 
 経験者は極限まで追い込むことで筋肥大の効果を高められる可能性があるとされています。

 未経験者や初心者は、疲労困憊まで追い込まないことでコンディションの不良、心理的ストレス、怪我のリスクを最小限に抑えつつ、週の総負荷量を増やすことで筋肥大の効果を最大化しやすくなるでしょう。



◆ 筋トレの科学シリーズ


シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!
シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ
シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ
シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!
シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス
シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!
シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス
シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス
シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!
シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデン
シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス
シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない
シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?
シリーズ15:科学が明らかにした「モテるボディの絶対条件」を知っておこう!
シリーズ16:筋トレによる筋肥大と脂肪の減少効果を最大にする「プロテインの摂取タイミング」を知っておこう!
シリーズ17:ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!
シリーズ18:筋トレで筋肥大の効果を最大化するには疲労困憊まで追い込むべきか?


◆ 参考文献


Grgic J, et al. Effects of resistance training performed to repetition failure or non-failure on muscular strength and hypertrophy: A systematic review and meta-analysis. J Sport Health Sci. 2022 Mar;11(2):202-211.

Damas F, et al. A review of resistance training-induced changes in skeletal muscle protein synthesis and their contribution to hypertrophy. Sports Med. 2015 Jun;45(6):801-7.

Ahtiainen JP, et al. Muscle hypertrophy, hormonal adaptations and strength development during strength training in strength-trained and untrained men. Eur J Appl Physiol. 2003 Aug;89(6):555-63.

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