腱板断裂の保存療法-文献から読み解く治療方針-
こんにちは桑原です。
Instagram→@kei_6918
皆さん腱板断裂保存の症例を担当する際に、基本的な方針はどの様に立てているでしょうか?
もちろん主訴に対してが一番かと思いますが、文献を読み解いていくと治療方針は自ずと決まってきます。
今回はそんな腱板断裂保存療法の文献・疫学の観点から治療方針を読み解いていきたいと思います。
1)腱板断裂の保存療法の目的
では、腱板断裂の保存療法の目的は何か?
結論から述べると腱断裂の治癒は目指さずに無症候性の腱板断裂をつくることです。
えっ治癒は目指さなくて良いの?
となる方もいるかもしれません。
そうです治癒は目指しません。断裂した腱は基本的に回復しないからです。
多くの報告では断裂サイズが減少した症例は一例もなかったと報告しています。断裂部が回復したとする文献も数件ありますがこれは正常な組織か?瘢痕組織なのかの検討はされていません。
今のところ腱板断裂の断裂部は回復しないという認識で良いかと思います。
そもそも腱板断裂を起こす部分はcritical zoneと呼ばれ血行がほとんど無い部分とされています。半月板のWhite zoneに似ていますね。血行が無ければ当然回復は難しいと考えるのが妥当です。
では治癒は目指さず何を目指すのか?
主に疼痛と機能障害の原因に対する介入なります。
リハビリを段階的に進めていく上でも負荷設定は損傷部位の治癒過程を考慮せず(そもそも治癒しない)疼痛を基準として進めていくことが重要になります。
皆さんも経験があるかと思いますが、
完全断裂で痛みがなく日常生活で困っていない方は沢山います。
このことから
腱板断裂の組織損傷自体が必ずしも痛みの原因にはならないことがわかります。
これらが治癒を目指す必要がない根拠です。
2)無症候性の腱板断裂の有病率
腱板断裂の所見はあるものの症状がない場合を無症候性の腱板断裂と呼びます。我々と患者さんが目指すべきポイントになります。
この有病率を調査した文献がいくつかあります。
Yamamotoら1)は日本のある山村の住民を対象に健康診断を実施し683名(計1,366肩)を調査したところ現在症状のある被験者の36%に腱板断裂があり、症状のない被験者でも16.9%に腱板断裂があったと報告している。
Minagawaら2)はある村の住民664名(人口の21.3%)を対象に両肩の超音波検査は全員に対して行った。腱板断裂の有病率は22.1%であり20代から40代が0%、50代が10.7%、60代が15.2%、70代が26.5%、80代が36.6%であった。腱板断裂郡の中でも症候性腱板断裂は全体の34.7%、無症候性断裂は65.3%を占めたと報告している。
無症候性腱板断裂の有病率は、50歳代では腱板断裂全体の2分の1であったが、60歳以上では3分の2を占めたと報告しています。2)
この様に無症候性の腱板断裂の割合は想像よりも多く、そして組織の損傷程度と臨床症状が必ずしもイコールしないこともこれらの文献から読み取れます。
3)臨床への落とし込み
これらの情報をまとめていきます。
・腱板断裂の断裂部は血行が乏しく基本的に回復しない。
・腱断裂の治癒は目指さずに無症候性の腱板断裂をつくることが保存療法では重要になる。
・無症候性腱板断裂はの有病率は、50歳代では腱板断裂全体の2分の1であったが、60歳以上では3分の2を占める。
・腱板断裂の組織損傷自体が必ずしも痛みの原因にはならない。
・保存療法は疼痛の機能障害に対する介入が主になる。
患者さんは「腱板断裂」という病名がついた時、不安や恐怖があります。これは当然のことです。断裂というワードはどうも痛みの拡大解釈に繋がり絶望感を強め肩に意識が向き思考が反芻します。そうです破局的思考ですね。これらの文献達はそんな方々の意識を前へ向けてくれます。断裂していても無症状な人の存在や発症率の高さも自分だけなのかという気持ちを少し軽減するかと思います。そうして気持ちが前へ向いた時に信頼関係が構築できると考えています。
本日は以上でです。
参考文献
1)Yamamoto A, Takagishi K, Osawa T, Yanagawa T, Nakajima D, Shitara H, Kobayashi T. Prevalence and risk factors of a rotator cuff tear in the general population. J Shoulder Elbow Surg. 2010 Jan;19(1):116-20. doi: 10.1016/j.jse.2009.04.006. PMID: 19540777.
2)BMinagawa H, Yamamoto N, Abe H, Fukuda M, Seki N, Kikuchi K, Kijima H, Itoi E. Prevalence of symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears in the general population: From mass-screening in one village. J Orthop. 2013 Feb 26;10(1):8-12. doi: 10.1016/j.jor.2013.01.008. PMID: 24403741; PMCID: PMC3768248.