なぜ、漫才は面白いのか。/パンクブーブーさんの漫才「万引き」から
皆さんこんにちは。たじーです。
今日もまた、言葉の海を泳いでいきます。
今回は、漫才と社会言語学の話。
これ、ほんっとに面白いんですよ。
私は学生時代、言語学を専攻していました。"ことば"のことをもっともっと真相深く学びたいと思っていたからです。ことばってば、本当に奥が深いんです。
実際に、言語の歴史や構造、音や意味など、沢山の分野に触れることができたのですが、その中でも印象に残っているのが、「社会言語学」という領域。
社会言語学、字面だけだと仰々しく感じるかもしれませんが、実はとてもキャッチーで親しみやすい学問なのです。
平たく言うと、「人間社会におけることばのやりとり」そのものが研究対象で、ようは、なんでもアリ、な分野です。
例えば、「AくんとBくんとCさんがカフェで会話をしていた時、とっさにBくんが○○と話した。それはなぜだろうか。」というような問いがあるとします。その解を導いたりするのも、研究の一部なのですが、単純にクイズみたいに考えるのではなく、彼らが会話をしていた場所や年齢、職業、経歴などなど、思いつくありとあらゆる因子をヒントに想像しながら、大胆に日常のワンシーンを紐解いていく、そんな研究も社会言語学です。
学生時代に受講していた社会言語学の授業はとても面白くて、夢中で授業を受けていた事を覚えています。その中でも、今でも記憶に残っている授業を、少し紹介したいなあと。
その授業では、「漫才」がテーマに取り上げられました。その時の先生からの課題はこうです。
「今から漫才を観てもらいます。その漫才はとても面白い漫才なのですが、なぜ面白いかを、言語学的に分析して下さい。」
さて、今から実際にその時使われた漫才のテキストを書いていきます。もし宜しければ、一緒に、「なぜ面白いのか」を分析してみましょう。
漫才師は、賞レースの覇者「パンクブーブー」さんで
タイトルは【万引き】です。
〈登場人物〉※カッコ内はセリフ数
佐藤さん(38)ボケ
黒瀬さん(38)ツッコミ
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佐藤「いやー最近思うんだよ、日本も物騒な世の中になってきたなって」
黒瀬「怖いね〜ほんとにね」
佐藤「実は僕もこないだね、コンビニで犯罪に巻き込まれたんだよ」
黒瀬「え!?犯罪に!?何があったの?」
佐藤「最初ね、本を立ち読みしてたのよ。したらあれ…プだったかな、ペだったかな……あ、思い出したパだ。パッて見たら…」
黒瀬「それ忘れる!?いよいよだなお前!」
佐藤「プじゃないと思う。たぶんパだよね」
黒瀬「まぁプでもいいんだけどね」
佐藤「いいんだけどね、でもそん時はパだったね!」
黒瀬「まぁな、相場だもんな」
佐藤「パッて見たら、若い兄ちゃんが万引きしてたんだよ」
黒瀬「うわ!それはよくない!」
佐藤「よくないでしょ?ひどいでしょ?
だから俺は、「おい!なにやってんだ!!」って思ったんだよ」
黒瀬「あ、言ってないんだ!」
佐藤「言ってない言ってない!」
黒瀬「思ったんだ、なにやってんだ!って」
佐藤「そそ。そしたらそれに気づいた兄ちゃんがよ、「テメーさっきから何ジロジロ見てんだよ!」…っていう表情を浮かべてきたのね?」
黒瀬「言ってないの?」
佐藤「言ってないよ?もちろん」
黒瀬「表情を浮かべてきたんだ!」
佐藤「浮かべてきた!だから俺もそれで完全にブッチーンって言ったんだよ」
黒瀬「あ、言ったんだそれは!?」
佐藤「うん言ったんだよ?これは。」
黒瀬「完全にブッチーンって?」
佐藤「そう完全にブッチーン!って言ったんだよ。そしたらその兄ちゃんがよ?
いきなり振り返って、俺の顔面をボッコーン!って殴ってくる可能性もあるじゃない?」
黒瀬「あ……ま、まぁあるね!うん!」
佐藤「だから俺もどうしようかなーと思ったんだけど」
黒瀬「ちょっと悩むところだね」
佐藤「ここで俺がやらなきゃ誰がやるんだ。っていう本を棚に戻して」
黒瀬「あ、本のタイトルか!お前が立ち読みしてたやつ!?」
佐藤「読んでたやつ、うん!そしてその兄ちゃんを睨みながら、ゆっっくりとその本屋を出て兄ちゃんのいるコンビニへと入って行ったわけよ」
黒瀬「別々の店なの!?」
佐藤「あ、俺がいたのは別の店だよ?」
黒瀬「どういう状況…ちょっとよく分かんな…」
佐藤「分かんない?兄ちゃんのいるコンビニの向かいの本屋から、俺はガラス越しにずっと見てたんだよ」
黒瀬「あ、そういうことね。じゃあ今んとこはあれか、お前が本屋で独りで「完全にブッチーン」って言っただけか」
佐藤「あ、ここまではそれだけ!こっからこっから!もうコンビニに行きましたから!」
黒瀬「おおコンビニ行った!そしたら!?」
佐藤「コンビニに入った俺は、もう決死の覚悟で、その兄ちゃんに立ち向かってくれそうな人を探した!」
黒瀬「あ、お前行かねーんだ!」
佐藤「自分では行かないよ怖いから!」
黒瀬「怖いかぁ!確かになー」
佐藤「で、そこで見つけたのがよ、もうね、見るからにメッチャメチャ強そ〜な酒を飲んでるジジイなんだけど」
黒瀬「酒が強えんだ!ジジイが飲んでんの?」
佐藤「もうベロンベロンに酔っ払っちゃってんの」
黒瀬「あー寝転がっちゃってんだ。しょうがねぇな〜」
佐藤「もうこうなったらしょうがない。俺も男だよ」
黒瀬「おおそりゃそうだ」
佐藤「自分の力でなんとかやってやろうじゃねーか!って一人で言ってんのよ」
黒瀬「あ、ジジイが言ったのね!?」
佐藤「ジジイが言ってんだよー!もうこんな奴アテになんないから俺もう覚悟決めて、さっきの兄ちゃんに向かって「おい!ふざけんじゃねーぞ!」って言ったんだよ」
黒瀬「あ、言ったんだ!!ついに言ったね!」
佐藤「そしたらよ、もうニヤニヤしながら「テメーこそふざけんじゃねーぞ」って言ってくるから、俺もうあったまきて!胸ぐらをガッと掴んで、「お前に言ったんじゃねーよジジイ!」と。」
黒瀬「え、あ、ジジイが言ってきたんだ!なんだよそれ!」
佐藤「おお、ホントよくこんなんでコンビニの店員が務まるよな!」
黒瀬「店員なんだ!?なにやってんだジジイ!」
佐藤「で、そんな事をしてる間によ?さっきの兄ちゃんが逃げようとしてたから」
黒瀬「逃げようとした!」
佐藤「俺はその前にバッと立ちふさがって、「おい待て兄ちゃん!自分がやったこと分かってんのか。いいか?万引きってのはな、立派な犯罪なんだよ」と、言おうとしたその時だよ」
黒瀬「うんまだ言ってないんだな??」
佐藤「言ってねぇよ〜?」
黒瀬「はい言いませんよーなかなか〜!」
佐藤「兄ちゃんがいきなり「上等だコラー!」と叫ぶことなく!」
黒瀬「おお!」
佐藤「俺の髪の毛をガッと掴んで来るかと思いきや!」
黒瀬「おお!おお!」
佐藤「俺の腹に蹴りを入れてきてもおかしくないぐらいの勢いで佇んでたんだよ」
黒瀬「何も起きてないね?!ゼロとゼロのぶつかり合いだー!」
佐藤「兄ちゃんがそんな態度だったら、弟の俺も…」
黒瀬「お前の兄ちゃんかよ!!」
佐藤「俺の兄ちゃんに決まってんだろ、俺兄ちゃんって呼んでんだから〜」
黒瀬「止めろよお前!」
佐藤「止めた止めた!」
黒瀬「止めた!?どこで巻き込まれるの?事件に」
佐藤「そんな事をしてる間に、俺のチャリが盗まれたって事件なんですよ」
黒瀬「ああなるほどね!いい加減にしろこのバカチンが!」
…以上です。いかがでしたでしょうか。
テキストだけでも面白いですよね。
それは、ことばの構造を巧く使われているからです。
この漫才の面白さの、
言語学的な見解については、また次回に。
ここまで読んでいただき、有難うございました。
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