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短編小説:昼休みの廊下

 昼休みの廊下は、いつもより少しだけ賑やかだった。
 教室のドアを開けると、向かい側の窓から吹き込む風は身を刺すようにつめたいが、廊下に差し込む陽射しがキラキラと床を照らしている。

 ──そんな中、私は立ち尽くしていた。

 「進めない……!」

 いや、物理的には進める。だけど、精神的に進めない。

 理由は簡単だ。
 私の行く先に、高坂先輩がいるから。

 ──高坂先輩。
 三年生で、バスケ部の副キャプテン。明るくて、よく笑って、誰にでも気さくに話しかける人。私は彼と話したことなんてほとんどない。ただ、体育祭の準備で一度だけ言葉を交わしたことがあった。それだけなのに、いつの間にか彼の姿を目で追うようになっていた。

 そして今、その先輩が、私の前をゆっくりと歩いている。

(このまま歩いたら、絶対にすぐ後ろになる……!)

 人の気配って、意外と敏感に察知するものだ。もし至近距離でついて歩くことになったら、私が「ストーカー」っぽく見えないだろうか? いや、そんなはずないんだけど! でも!

 「行くしかない……!」

 意を決して歩き出す。

 ……と思ったら、ちょうどその時。

「──っと」

 先輩が急に振り向いた。

 「えっ……!!」

 私は完全に不意を突かれて、止まるタイミングを失い、そのまま勢いよく先輩の横をすり抜けた。

 「えっ、ご、ごめんなさい!」

 慌てて立ち止まって、ぺこりと頭を下げる。
 でも、先輩は驚くどころか、なんだかちょっとおかしそうに笑っていた。

「いや、俺が急に止まったからな。びっくりさせた?」

「あ、えっと……だ、大丈夫です!」

 大丈夫って何が!? でも、もう何を言えばいいかわからない!

「そっか。……あれ?」

 先輩が、じっと私の顔を見た。

「もしかしてさ、この前の体育祭の……」

「えっ」

「やっぱそうだよな! バレーのネット直してくれた子!」

 先輩はそう言うと、嬉しそうに笑った。

「ありがとな、あの時。助かったわ」

 そんな、ほんの何気ない言葉。
 それだけなのに、胸がぎゅっとなるくらい嬉しかった。

 先輩は「じゃあな」と手を軽く上げて、また歩いていく。
 私はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

(覚えててくれたんだ……)

 たったそれだけのこと。
 でも、それが私にとっては、ほんの少しだけ、特別な出来事だった。


こめんと

人がたくさんいる廊下をサムネイルにしたかったのですが、良い画像が見つからず(顔があるので当然ですが、、)エンジニアらしく流行りのChat-GPTで出力してみました!

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