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短編小説:帰り道のふたり

放課後の空は茜色に染まり、通学路を歩く私たちの影は長く伸びていた。

「今日の数学、難しかったな。」

隣を歩く優斗が、何気なくつぶやく。私は笑ってうなずいた。

「うん、すごく。でも、優斗は解けてたよね。」

「まあね。でも、あれはちょっと考えれば誰でも、、」

「私は考えても解けなかったよ。」

「そっか。でも、そういうときは聞いてくれればよかったのに。」

「……次は聞くね。」

そんな簡単に頼れないのに。彼の隣にいるときは、いつも余計なことを考えてしまう。

「そういえば、もうすぐ文化祭だな。」

「うん、楽しみ。」

「俺、バンドやることになったんだ。」

「え、すごい!」

「まあ、軽音のやつに引っ張られてさ。でも、せっかくだし頑張るよ。」

「うん、楽しみにしてるね。」

そう言いながら、胸の奥が少しずつ冷えていくのを感じた。彼の視線が、いつも誰かを探していることを知っているから。

「文化祭、誘いたい人がいるんだ。」

ほら、やっぱり。

「そっか。」

それ以上、何も言えなくなった。

駅が見えてくる。あと少しで、この帰り道が終わる。

「優斗、がんばってね。」

「ん? 何を?」

「バンドも、文化祭も……あと、それも。」

「それ?」

私は少し笑って、前を向いた。

「じゃあね。」

水たまりに映る自分の顔を見て、気づいた。

ああ、泣きそうだ。

でも、帰り道だけは、彼の隣にいられた。だから、それでいい。

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