見出し画像

電気シェーバー


男は毎朝電気シェーバーでヒゲを剃る。

剛毛なヒゲを安物の電気シェーバーで剃るとシェーバーは悲鳴を上げる。

「ウィん、ウィん…、ジョリジョリ……ゴーゴゴゴゴゴ…」

苦しい!キツっい…なんだこの剛毛なヒゲは…、毎日だぞ!もう勘弁してくれ…そんな声が電気シェーバーから聞こえてきそうだ。

というか、実際そうだと思う。
あの軋むような轟音と、モーターが硬いヒゲにより弱まる感じと、刃音のカッターサウンドを聴く限り、おおよそ推測できる。

剃り具合もかなり悪くなった。余計に時間も掛かるし、肌にも良くない。が、男はお構いなしに毎日ひげ剃る。

もう5年以上も使っている。バッテリーを充電してもすぐ弱まってしまう。

でも何とか頑張って俺のヒゲを剃ってくれている。だが壊れそうで壊れない電気シェーバー。性能が良いのか…、意地なのかは分からないが、まるで要求に応えるかのように俺を支えてくれる。

そろそろ引退してもいいのかもしれない。
引退したら即家電ゴミとして、ビニールの袋に入れられゴミ処理所へ行き廃棄処理される。

それを考えると何だか虚しい。

もうこうなったら壊れるまで使い続けるしかない、電気シェーバーの最期を迎えるまでは…。モーターが動かなくなるその日まで。

嗚呼、なんて献身的なのだろう…。



男はそっと電気シェーバーを抱きしめたのである…。



         了



いいなと思ったら応援しよう!