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【ラーメン】物語#3『つけ麺探偵M氏の割りスープ』

第3話 つけ麺探偵M氏の割りスープ


地方都市某所、私立探偵事務所『skyscraper』の玄関前だ。

探偵M「あなたでしたか、先程うちに電話なさった摩天楼さんですね」

摩天楼「はい、そうです。お忙しいところすみません、よろしくお願いいたします」

M「まあ、入って」

私は、探偵という職業の方からラーメンにまつわる逸話や依頼された仕事で過去にあったラーメンに関する事を聞きたく田舎の繁華街にある私立探偵所の所長M氏のもとを訪れた。所長は探偵歴37年というベテラン探偵だ。

応接室。ガラステーブルを真ん中に、向かい合ってソファーに座る2人。

M「すると、今日は相談ではなく仕事でラーメンに関する、出来事があったか?を聞きに来た訳だね」

摩天楼「ええ、是非お聞かせ願いたくてやってきまして、ささいな事でも構わないのですが」

M氏は嫌な顔ひとつせず応じてくれた


M「長年、私立探偵をやっているとね様々な人と関わるもんだ。たいていは浮気調査がほとんどなんだが、失踪者を捜すとなると意外と厄介なんだよ。身元調査にはそれなりのルートやK組織やらY組織からの非公式ルートを使わなきゃならないし、何よりも金がかかる。
だから依頼者にはそれなりのまとまった資金が必要だと説得しなきゃならないし、まあ納得してくれればいいんだけど、相手の都合が悪けりゃ今度は、遠回しに正規のルートを使うしかないんだけども、これがまた面倒でね。どんな依頼かは守秘義務ってのがあるからあんまり言えないんだが、なんでもある人物を見つけ、その人物の身辺を調査し教えてほしい、とかで引き受ける事になっちまったんだが…、まあ要はスパイ活動に近いよ、探偵ってのは顔が売れちゃいけないんでね、特に地元じゃあまり仕事はできないし、なので探偵ってのは同士のネットワークや協力がどうしても必要でね、つまりよそへ出張することもよくあるってことだ…。その時の話しなんだけど、私はあるターゲットを追っていてたんだが、その前に尾行で気をつけなければならないのは、まずいかに悟られないかが重要なんだけど、こっちが尾行しているなんてほとんどの人間は気づかないんだよ。だから覚えておくといいよ浮気相手に会いにいく時は、同じ道ををぐるぐる回るとか、たまに止まってみるとか、急に逆方向へ転回してみるとか、常に誰かに追けられている事を意識して行動するればいいだろう」(笑)

摩天楼は小さく吐くような声で
「いいえ私は…」

M「何?浮気なんかしないから必要ない?」

摩天楼「いえ、私独身なので」

M「そうか余計なことだったな。
で、そしたらそのターゲットも同じ道をぐるぐると周り始めちゃってな、そういう時はもう追跡は出来ない。他の仲間に追わせるのよ、だから複数で追うこともある。厄介な相手だよ、一筋縄じゃいかなくなる。当時は携帯なんてなかったから余計に大変だったな」

コーヒーを一口飲むM氏

M「それで、ホテルから出てくるところを望遠レンズで撮影し、2人は車で移動したんだ。行った先はラーメン屋だったんだ。私も店内へ入っていったよ、2人が頼んだメニューは覚えているよ、あれはそう愛人の方は辛子みそラーメンで、その店の名物で、にんにくを沢山入れてたよ。男の方はただのラーメンだった。餃子も頼んでたぜ、一皿を2人で分けて食べてたよ。スープまで飲んで完食していたんだ。さぞかし美味かったんだろうな、ただ帰りの車ン中はにんにく臭くてたまらんかったやろな。そうそう、俺は静かにつけ麺を食べていたんだ。つけ麺だと熱くないから、2人が店を出てもすぐあとを追えるから。だけど、つけ麺っていうのはたべ終わっても割りスープで汁を飲む楽しみがあるからいいのよ。それはラーメンだって同じじゃないかって、いやそれとはまた別ものでさ、割りスープで飲むつけ汁は、そばつゆを飲む感覚だから、あのつけ麺の食べたあとスープが美味いんだ…」

「まあ、話せるのはここくらいまでだし、ラーメンにまつわる話しはそのくらいかな。本当はこういう事も話しちゃダメなんだよ」

摩天楼「貴重なお話しありがとうございました、あのつけ麺の割りスープわかります、私も割りスープの割具合も考えていれてますからね、入れ過ぎると薄まってしまいますから」

M「そうそう、ちょうどいいところは人それぞれだから」


摩天楼「店によっては刻みネギが置いてあるところとありますから、私は最後に刻みネギをちょっと入れてます。味変しますから、またラー油とか、酢とか、魚粉ふりかけで更に味変して楽しんでました」

M「お、いいね〜とにかくつけ麺は割りスープまで楽しみがあるということだね」

摩天楼「そういう事にしますか」

M「そうしよう」

2人「はっはっはっ…」(笑)


2人はラーメンとつけ麺の割りスープの話しで盛り上がった。えっ、割りスープごときで?と思うでしょう。ま、いいじゃないですか。

私はM氏からラーメンの話しを聞いたあと、事務所をあとにした。自転車に乗り、帰宅途中に急な雨に見舞われた。夕暮れの道をひたすらペダルを漕いで家路へと急いだ。


         終






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