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【ダークファンタジー】樹氷/スノー・モンスター


「樹氷って将来見れなくなるの?」

「まあ、その可能性は無きにしもあらず。アオモリトドマツ(オオシラビソ)が蛾にやられ枯れた木々が多いんだ」

「へぇ、だと枯れた木には樹氷が出来ないのか」

「いや、そうでもないみたい。枯れた木にも枝さえ残ってれば枝に霜と雪が付着し、それなりに樹氷が出来るんだ」

アキラとさとみは、蔵王温泉スキー場のロープウェイから樹氷を見下ろした。

「近くで見ると迫力あるね」

「樹氷、それは雪のモンスター!地元ではそう言われている」

「アイスモンスターじゃないの?」

「そういう呼び方もあるよ」

「その名の通り樹氷の化け物みたいだからね」

「そう…」

2人はロープウェイのゴンドラを降りて、地蔵岳山頂へ降りっ立った。

「今日はゲレンデ日和ね、青い空に樹氷原コース」

ハイシーズンの1月の蔵王。

アキラとさとみは透き通るような青い空の下、太陽に照らされ燦々と輝く樹氷の姿を目にしていた。

2人はボードのバインディングにブーツを装着した。

2人はこれからザンゲ坂を滑走するからだった。

「ビンディング大丈夫?昨日調整したんだけど…」

「うん調子いい、板がよく滑るね」

「ああ、蔵王スペシャルだ!俺の特製ワックスが効いてるだろ?ザンゲ坂は途中でフラットになるから…ワックスが重要なんだ」

「さすがだね、地元民。都会育ちの私には分からないよ…」

「危ない!」

さとみは急に割り込んで来たスノーボーダーをかわしたが、コースから外れてしまった。

それを察知したアキラはさとみを追ってコース外へと侵入した。

さとみはそのまま数メートル滑走したが、樹氷の木にぶつかって転倒した。

「大丈夫か?」

すぐにアキラが来てさとみを抱えた。

「うん、大丈夫」

幸い怪我はしていなかった。

「だいぶ流されたな、コースに戻るにはボードを外して歩かなきゃならない。そうするとかえって危険だ」

「どうして?」

「樹木の下はすり鉢状になってる、つまり深い蟻地獄のような感じだから、落ちたら危険なんだ」

「じゃ、どうするの?」

「このままゆっくり樹木を避けながら下るしかないな」

「大丈夫なの?」

「ああ、俺についてこればね」

2人はコース外のバックカントリーを滑り、麓まで下りることにした。

「気をつけて、ゆっくりでいいから」

アキラはさとみをリードしボードを滑らせた。

「吹き溜まりには近づかないようにね、落ちたら大変だから」

「分かった!」

2人は麓を目指してスノーボードで滑走した。


ところが、行けども行けども同じ景色ばかりで一向に麓が見えてこなかった。

そうこうしている間に、雲行きが怪しくなってきたのだ。

さっきまであんなに青空だったのにいつの間にか辺りには白いガスが掛かり始めていた。




         続く





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