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その1 アフリカ出身 の“ミセスR”に出会う

 コロナ禍3年目の今年、ぼくはある目標を立てました。
 ひとつでも多くの国のひとに会いたい!

 海外旅行のハードルは高いけれど、ぼくたちの近所にはどうやら多様なルーツを持つひとたちが暮らしているらしい。そんなひとたちに会って、彼らの人生や故郷のことを教えてもらおうと思ったのです。

 そんなとき、耳にしたのが「難民・移民フェス」。

 さまざまな事情で祖国を離れ、日本で暮らしているひとたちが、大好きなものや得意なこと、いまハマっているものを持ち寄って一堂に集まる。

 アイデアを聞いただけでワクワクしてきて、ボランティアに名乗りを上げていました。しかもフェスに参加するひとたちに会いに行くという、願ってもない役目を任されることになったのです。ヤッホー!

 こうして始まった難民・移民探訪記。第1弾はアフリカからやって来た、ミセスRさんご一家の登場です。

アフリカ出身のミセスR

 いま、この紹介を見て多くのひとが「それじゃ、どこのだれかわからないよ」と思ったのではないでしょうか。ぼくだって、もちろん彼女の名前を書いてみたい。しかし名前はおろか、出身国すら明かすことができないのは深いわけがあります。

 彼女がそうであるように、難民には戦争、さらには政治や宗教、民族を理由とした迫害によって祖国を追われたひとが多く、命を狙われているひともいるからです。彼らがどこでなにをしているかが明らかになることで、祖国や第三国にいる家族や親類、知人が狙われることもある。

 ぼくたちの近所に、罪を犯したわけではないのに公の場で名乗ることもできず、ひっそりと生きるしかないひとがいる。このフェスには、彼らが置かれた厳しい状況に思いを馳せてもらいたいという願いも込められているのです。

子どもたちがキャラクターを製作中

 ミセスRさんのご自宅には子どもたちもいて、「お母さん、フェスでお店を出すんだよ」というとノリノリでアイデアを出してくれました。

 「お店を出すなら名前を決めないとね」

 「じゃあ、“ミセスRの店”っていうのは?」

 「なんでRなの?」

 「だって、ウチらの頭文字がRだから」

 「でもママはRじゃないよ」

 「名前の中にRがあるからいいんじゃない?」

  あっという間に名前が決まり、今度は「ミセスRのキャラクターもつくろう!」。

 このスピード感、発想のやわらかさはすごい!

 早くも子どもたち、すらすらとノートにペンを走らせています。

  「ワンポイントはお団子ヘア。ママ、いつも頭にお団子のせてるから」

 気がつけば、お団子ひとつバージョンとふたつバージョンのミセスRが誕生。

子どもたちが描いたミセスR

 「これ、まだ完成じゃないから。もうちょっとがんばってみます!」

 大好きなママのことだから、子どもたちもこだわっているのです。果たして、どんなミセスRが登場するのか、当日がますます楽しみになってきました。

インドから伝わった屋台の人気メニュー

 さて、肝心の出品物は子どもたちが大好きなママの味、パンケーキとチャパティに決まりました。

パンケーキ(本人提供)
チャパティ(本人提供)

 でも、チャパティってインドの食べものじゃなかったっけ? 小麦粉を水でこねてクレープみたいに丸く焼いたチャパティ、インドではカレーと一緒に食べたけど。

 調べてみたら、インド料理には海を越えてアフリカに根づいたものが少なくないのだとか。長い人類の歴史から考えれば、国境が引かれたのはつい最近のようなもの。太古の昔からひとが動くたびに、食べものも広がっていったんですね。

 ミセスRが、チャパティについて教えてくれました。
 「チャパティはそのまま食べてもおいしいし、カレーにつけてもおいしい。紅茶にもすごく合う。私の祖国ではチャパティを出す屋台が大人気で、溶き卵に細かく切ったトマトやニンジン、タマネギやトウガラシを混ぜてプレートで焼き、チャパティに巻いて食べるスタイルが大人気なんですよ」

 子どもたちも太鼓判を押す、インド由来のアフリカの味。頭にお団子を乗せたミセスRが、あなたの来店を待っています。

熊崎敬(くまざき・たかし)1971年生まれ、岐阜県出身のフリーライター。スポーツ、とくにサッカーを中心に取材を行ない、訪れた国は50を超える。主な著書に『日本サッカーなぜシュートを撃たないのか』(文春文庫)、『サッカーことばランド』(ころから)など。昨年、コンゴ民主共和国出身の難民申請者と出会ったことから、リンガラ語の学習を始める。

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