Refine(リファイン) Project〜視覚に障がいのある生徒の将来の選択肢を広げるプロジェクト〜活動記録 Vol.1 「始動」
「Refine(リファイン) Project」が描く未来
視覚に障がいのある生徒たちが、自分の可能性を信じ、夢に向かって羽ばたくために。「Refine(リファイン) Project」は、そんな生徒たちの未来を応援し、将来の選択肢を広げる有志による取り組みです。教員、社会人が生徒たちと共に成長し合うなかで、それぞれの魅力や強みを活かした進学や就職ができるよう、生徒の側からも社会の側からも変容を働きかけていきます。
はじめまして。
フリーライターの長島ともこと申します。
本プロジェクトを進めていく上で起こる発展や成果などを発信していきます。この活動記録を通じて、多くの方々にプロジェクトを知ってもらい、共に未来を創っていきたいと考えています。どうぞおつきあいください。
まずは、本プロジェエクトのメンバー構成から。
事務局は、一般社団法人「ダイアローグ・ラーニング」。
「誰もが自分らしく生きられる世界を、対話の力で実現する」を理念に、「子ども時代からのリベラルアーツ」と「大人のまなびほぐし」を軸に、小学生対象のラーニング・コミュニティ「Co-musubi」、教育にまつわるモヤモヤをオンラインで語り合う大人の学び場「タキビバ」を運営しています。
本プロジェクトのリーダーは、同法人代表理事の井上真祈子さんがつとめています。
共催は、筑波大学附属視覚特別支援学校(東京都文京区目白台3-27-6)。1875年に発足し、盲学校では全国一の幼児・児童・生徒数を誇る学校です。
協賛に「公益社団法人ベネッセこども基金」、アドバイザーに「一般社団法人ダイアローグ ジャパン ソサエティ」が名を連ねています。
さらに、井上さんのよびかけにより、以下のメンバーが加わりました。
井上 淳也さん
株式会社ミライト・ワン常務執行役員CDO
上田 雅美さん
株式会社アネゴ企画 代表取締役
安井 直子さん
三井化学株式会社 人事部 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョングループ グループリーダー
米澤 勝彦さん
サントリーホールディングス株式会社 ピープル&カルチャー本部 キャリア推進センター専任部長
林 充宏さん
一般財団法人 ニューメディア開発協会 新情報技術企画グループ グループ長
永島宏子さん
教育コーディネーター
長島ともこ
フリーライター
さまざまなバックグラウンドを持つ社会人が集まり、多角的な視点からプロジェクトに関わっていきます。
プロジェクト始動〜筑波大学附属視覚特別支援学校で
キックオフミーティング
2024年7月31日。
プロジェクトメンバーで、筑波大学附属視覚特別支援学校を訪ね、同校の山口崇(たかし)副校長先生、中学部教諭で自立活動を担当する佐藤北斗先生、栄養教諭の金居有香子先生、寄宿舎指導員の又吉武美先生、現在はICU(国際基督教大学3年次)に通う同校卒業生・坂本奈々美さんをまじえてキックオフミーティングを開催しました。
最初に、山口副校長先生が、筑波大学附属視覚特別支援学校の概要をお話くださいました。
筑波大学附属視覚特別支援学校は、長年の歴史を誇り、現在155名の幼児(幼稚部)・児童(小学部)・生徒(中学部、高等部)が通う日本を代表する視覚障害特別支援学校です。少子化やインクルーシブ教育の推進など教育環境が変化する中で、同校は、視覚障害を持つ子どもたちが専門的な教育を受け、一人ひとりが最大限に能力を発揮できるよう、質の高い教育を提供し続けています。
同校は、
・ 鍼灸手技療法科、理学療法科など専門性の高い教育過程を設置
・ インドなどアジアを中心に海外との教育交流や教育支援
・ スポーツの振興(2024年パリパラリンピックでは、卒業生13名が日本代表として出場!)
などの特徴をもち、国内外の教育機関からの視察があとをたちません。寄宿舎もあり、約70名の生徒が寮生活を送りながら通学しています。
ちなみに、世界で最初に盲学校ができたのはフランス・パリで、1784年。しかし日本はその100年以上も前から視覚障害者への職業教育が行われており、その伝統は、日本各地の視覚特別支援学校(盲学校)で引き継がれています。
その後、山口副校長先生による導きで、プロジェクトメンバー全員で点図(=紙などに凸点を並べて描いた絵や図)を読解する体験をさせていただきました。
「下のほうに、左右にまっすぐにのびる直線があります」
「中央部分にブツブツの集合があります。いちばん上にあるのは四角形?」
点字のドットをさわり、それぞれが感じるイメージを言葉に出しながら、描かれているものを探っていきます。
「私たち人間が受け取る情報のうち、約8割は視覚からの情報だといわれています。しかし、触覚をはじめさまざまな感覚を使って豊かな感性を磨くことで、物事を認識できるようになるのです」と、副校長先生。
同校では、幼稚部から高等部まで、発達段階に応じた“さわる授業”を継続して行っています。
(参考記事:中学部理科の「骨をさわる授業」)
プロジェクトメンバーの永島宏子さんは、点図体験の感想を、こう述べています。
「両手で紙の上の点字のドットをさわりながら読み取るのは、なかなか難しかったです。生徒さんたちは、指先の感覚を鍛錬して読み取るとのことでしたが、これを瞬時に読み取るみなさんはすごいなぁと。
まずは何か立体的なものを手でさわって名前を覚え、それを2次元で表現したものと結びつけて理解していくプロセス。視覚が無い場合、言葉と触覚で認知するプロセスは認知機能を理解する上でなるほどと思いました。
こうした専門性のある教育の一つ一つが、視覚に障がいがある生徒さんたちにとってどれだけ大切な事なのか、そしてそれが彼らの学びとなり、スキルとなり自信になっている事を感じました」
障害者雇用とインクルーシブ教育
続いて、同校を卒業し現在はICU(国際基督教大学)3年生の坂本奈々美さんが、大学生活や就職活動について語り、同校の先生・参加者たちと、障害者雇用やインクルーシブ教育について対話しました。
坂本さんは、大学では「ジェンダーセクシュアリティ」を専攻。大学入学当初は「見える人との心理的な壁を感じました」といいますが、徐々に打ち解け、授業資料のデータ化をはじめ合理的配慮を受けながら学んでいます。大学3年になり就職活動を始めた坂本さん。大企業、ベンチャー企業に関わらずダイバーシティ推進に関わる仕事に興味を抱いています。
坂本さんが発する言葉は、いわゆる“曖昧”な表現が非常に少なく、論理的・構造的かつ明快でした。そのおかげで、私たちも発言ひとつひとつに腹落ちでき、解像度が上がりました。
視覚以外の感性を研ぎ澄ましながら「言葉」のあらゆる可能性を磨き続け、自身のスキルとされたこれまでの努力と才能に尊敬の念を抱きました。
坂本さんとのやりとりを通して浮かび上がってきた、障害者雇用やインクルーシブ教育の現状や課題について、以下一部列記します。
⚫障害者雇用について
・ (障害者の立場からすると)障害者雇用を積極的に行っているのは大企業が多い。ベンチャー企業にも関心があるが、合理的配慮など働く環境については未知の部分が多い。
・ 企業側からすると、大企業は組織や部署として障害者雇用についてある程度の戦略をもって取り組めるが、中小企業は「一緒に働きたい」という思いがあっても人材育成や合理的配慮に取り組む余裕がないのが現状。
・ 障害者雇用を中小企業に広げていくには、公的サービスをはじめ知識を持っている学校や障害者本人がつながることが最初の一歩なのではないか。
・ 職場におけるコミュニケーションの課題解決、情報共有には、「ビジュアルベース」でなく「テキストベース」の考え方が必要。
・ AIやBe My Eyes(視覚障がい者や低視力者のために作られたアプリ)の活用による可能性を検討したい。
⚫インクルーシブ教育について
・ 参加者から坂本さんへの問い「『子ども時代、もっとこんな環境だったら良かったな』『こんな教育があったらいな』などと思うことはありますか?」に対する坂本さんの回答:
「通常の学校では、理解度が異なる中で授業を受けることが難しく、疎外感を感じたことがありました。同年齢の、障害がある子とない子がいっしょの空間で学ぶ場合、障害がない子にとっては良い経験・必要な経験だと思いますが、障害がある子は他の子にとって、“友達”というよりも“教材”で、真の意味での『共に学ぶ』ということにつながりにくいように思います。私自身を振り返ると、障害の有無に関わらず皆がまざりあって学ぶよりも、専門性が高い先生たちにエンパワーメントしていただいたことにメリットを感じています」
・参加者の声「学びと遊びが入り混じる学校では、これまでに出会ったことのない人(マイノリティ)との接点があることで、相手のことを想像して新しいものを生み出したり、柔軟に対応したりなどの力が育めるようになるのではないか。心理的安全性が確保された『多様な子どもが集う場』が必要ではないだろうか」
・ 参加者からの意見:「企業人事部に所属しています。過去に、小学校から大学まで通常の学校で過ごした障害者が採用試験を受けにきましたが、パソコンを始めとする“企業人”としてのスキルがなく、採用には至りませんでした。一般教育を受け続け、周りに助けてもらう環境の中で育ち、その方の障害にマッチした知識や技能を身につけることができなかったことが要因としてあげられます。インクルーシブ教育の難しさを感じます」
・ 参加者からの意見:「不登校がこれだけ増え、今学校は、『子どもたちから拒絶されている状態』ともいえます。全員が同じ速度で同じものを勉強するスタイルを一度全部こわして作り変えないと、そもそも多様な子どもたちを受け受け入れることができないのではないか」
・ 参加者からの意見:「交流学習として、障害のある子が地域の学校に出向くのではなく、地域の子どもたちに特別支援学校に来てもらうようなアプローチも必要なのではないか」
あっという間の2時間。対話はとまりません。
キッフオフミーティング終了後、プロジェクトメンバーで、竹芝にある「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」へ。その時の様子は、次回レポートします。
「Refine Project」は、まだ始まったばかり。多くの関係者の協力のもと、視覚障害を持つ生徒たちが、より豊かな人生を送れるよう活動を続けていきます。
今後の活動記録にご期待ください!