「佐賀のトップランナー。常に先頭を走り続ける人」 一般社団法人アスリートリンク 代表 段林大地さん
「足が速くなりたい」をかなえる陸上スクール、一般社団法人アスリートリンク。その創設者である段林大地さんは、陸上競技を通して子どもたちの人生を変えることを目標に掲げる。
2016年、地元の関西から佐賀に移住し、アスリートリンクを設立した。佐賀で1カ所目の陸上スクールを開設した後、福岡、熊本でも陸上スクールを開き、現在九州3県13拠点で活動を進めている。会員数は1500人、日本最大規模の陸上スクールである。
学生時代、陸上に明け暮れたという段林さんは、大会で結果を残していく中で、陸上の魅力にほれ込んでいったという。その成功体験を基に、「陸上での成功体験を経て、自信を持ってもらい、子どもたちの人生を変えたい!」と思うようになった。
そんな段林さんが考える陸上競技の魅力とは何なのか。段林さんを突き動かす原動力とは、一体何なのだろうか。
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始まり:陸上競技を仕事にする
(梶原)――最初に段林さんの経歴を教えてください。
(段林)関西出身で20歳くらいまで関西に住んでいました。関西で結婚しましたが、妻が佐賀出身だったので、「佐賀で起業するぞ」と意気込んで移住しました。
関西では元々、陸上競技を教えるスポーツ指導の会社に勤めていました。私自身陸上が本当に大好きなので、将来自分でも「陸上競技を教える事業をしてみたい」と思っていたんです。
起業するために、いろいろとリサーチをしてみると、関西だと既に競合相手がたくさん存在することがわかりました。一方、九州を見渡してみると、競合が少なく、さらに陸上競技が関西や関東に比べて盛り上がっていないため陸上のレベルそのものも高くない、という状態であることがわかり、「九州の陸上界を盛り上げていきたい」という気持ちが芽生えてきたのです。そこで7年前に佐賀に来て、陸上競技のアスリートリンクを立ち上げました。
――関西にいたときから陸上のお仕事をされていたとのことなのですが、学生の時から、陸上の仕事をしたいと考えていたのですか?
(段林)そもそも陸上競技を仕事にしている人ってすごく少なくて、陸上チームの9割以上はボランティアで成り立っているんです。自分も、そういうものだと思っていたので、陸上競技を教える仕事なんてこの世には存在しないと考えていました。ところが偶然、求人サイトで陸上を教える仕事があることを知り、ものすごい衝撃を受けました。すぐに応募して、採用してもらって働き始めました。
(段林)だから、最初から「陸上競技を教える人」になりたかったというよりは、求人サイトを見て「なんやこれは!? そんな世界があるのか!?」みたいな感じで、陸上の仕事ができることを初めて知った、というのが正しいですね。
転機:佐賀で起業、周りからの抑圧
――関西で陸上の仕事を始めて、その後、佐賀に移住して起業したとのことですが、起業するきっかけってなんだったんですか?
(段林)起業を考え始めたきっかけとしては、自分のやりたいことと勤めていた会社の理念の方向性の違いに気づいたことが一番大きかったです。勤めていた会社では、子どもたちを陸上の試合にあまり出さなかったんです。勝ち負けじゃなくて、“楽しむこと”に重きを置いていたからです。でも僕は、子どもたちを大会や試合にどんどん出して、いろいろな経験をさせてあげたいと思っていました。
あとは、その会社がベンチャー企業だったので残業もめちゃくちゃ多くて、労働環境が結構きつかった、というのも多少ありますね。
――佐賀で起業されたのには、なにか理由があるんですか?
(段林)「佐賀だったら勝てる」と思ったからです。妻が佐賀出身だったので、お盆や年末年始は一緒に帰ってきていました。その時に佐賀の競技場を回って、「ここで陸上のスクールをやりたいんです」って話をしたり、佐賀にどういう陸上のチームがあるか調べたり。佐賀にいる間は、毎日陸上競技場に通ってリサーチをして、「この事業は佐賀でいける!」という確信を得てから、移住を決めました。
――佐賀に移住してきて、突然、有料の陸上のスクールを作って、お金を取るビジネスを始めたわけですよね。親御さんにお金を払わせることに抵抗を感じたりはしなかったですか?
(段林)それはまったく感じなかったですね。子どものクラブ活動にお金を払うことに抵抗を感じる人はボランティアのチームに行けばいいと思いますし、狙っている層が違う気がします。本当にいい指導者から、いい指導を受けたいと思う人は、そこに価値を感じてお金を払ってくれるのかな、というのはありますね。
――そうすると、起業するにあたっての障壁というのは、あまりなかったのでしょうか?
(段林)一つあるとすれば、ボランティアチームからの嫉妬みたいなものはありました。自分たちは無料でやっているのに、できたばかりのチームがお金を取って指導をしている、というのが面白くなかったのだと思います。競技場の管理人に「あのチームには競技場を使わせるな」と耳打ちする、というような嫌がらせは数えきれないくらいありましたね。
――外からの圧力があったんですね。それで実際に競技場が使えなくなったことはあったのですか?
(段林)使えなくなりそうになったことはありますね。ボランティアチームの多くは昔から存在するので、その競技場で顔が利く、というようなことは結構あるんです。でも、市民みんなのためにある競技場で「この人たちは使えない」というのは通用しないじゃないですか。そういう時は市の教育機関とかに直接、「『アスリートリンクには競技場を使わせるな!』って他のチームの関係者から邪魔されているんです」って言いに行ってました。
それから、目立った行動には出なくても、「あそこはお金を取ってやってる、あんなところは絶対うまくいかない」って陰で言われているのが耳に入ってくることもありました。そういうのは、最初はかなり多かったですね。
原動力:好きなこと、ぶれない軸があるから突き抜けられる
――今では裏で陰口を言われることもなくなって、周りからも認められているという感じなんですか?
(段林)そうですね。結果を出すようになってから、そういう声も聞かなくなりました。人数が増えて規模が大きくなったのもそうですが、大会の上位をアスリートリンクの子が占めるようになって、また、実業団でもうちのコーチのチームがリレーで佐賀県記録を作ったりして、結果を出しているので、周囲の見方も180度変わりました。かつて陰口を言っていた人たちも、今では純粋に応援してくれています。
――裏で陰口を言われたり、たたかれたりしたからこそ、それをバネに頑張れたという部分もあるのでしょうか?
(段林)そうですね、なにくそ!って思ってやっていた部分はあります。ただ、そういう時に強い原動力がないと折れちゃうのかなとも思うんです。実際、そういうのが嫌で、せっかく始めたのにフェードアウトしてしまった同業者もいたので。自分が何を成し遂げたくてやっているのかっていうのは、すごく大事だと思いますね。僕はそこがぶれることがないので、何があっても、他人に何を言われても、折れない。自分が成し遂げたいことを達成するために事業をやってるだけです。
――段林さんが事業を続ける上で一番の原動力ってなんですか?
(段林)一番の原動力は“陸上が好き”って部分ですね。ただ、事業の軸は二つあって、「たくさんの子どもたちに僕が大好きな陸上競技の素晴らしさを伝えていきたい、足が速くなってもらいたい、自信をつけさせたい」っていう子どもたちが起点になっている原動力。それと、「陸上競技をやっていた競技者が大人や社会人になってからの受け皿を作り、その人たちの雇用を増やしたい」という原動力。この二つが絶対ぶれない、原動力ですね。
――段林さんの考える陸上の魅力ってなんですか?
(段林)陸上ってごまかしの利かないスポーツで、自分の体一つ鍛えて、それを表現するっていう競技じゃないですか。だから、子供たちの人間力も上がるのだと思います。本当にいいスポーツ、最高のスポーツだと思いますね。
――段林さんが陸上をやっていて、「最高の瞬間」ってどういうときですか?
(段林)1番でゴールする瞬間。ゴールテープを自分が最初に切る瞬間が最高ですね。
地方でビジネスをする:社長になっても、会社が大きくなっても、行動力は失わない
――事業を展開していく中で、大切にしていることってありますか?
(段林)前職が本当にベンチャー企業みたいなところだったので、労働時間も長かったし、自分の足を動かすっていう行動力が必要な部分が多かったんですよ。なので、今の仕事でも行動力を失わないっていうことは実践しています。うまくいって軌道に乗り出すと効率化を考えたくなるじゃないですか。もちろん、それは大事なんですけど、効率化ばかりを気にして行動力を失ってしまうのは良くないなと思っています。だから社長になっても社員よりも働きますし、当たり前のこととか、泥臭いこともしっかりやる、ということを意識してますね。
――今後のアスリートリンクの野望、目標があればお願いします。
(段林)まずは、佐賀、福岡、熊本の九州3県でやってるのを九州全域に広げるのと、その先には中国地方、四国地方、なんなら西日本、くらいの感じで展望としては考えています。それが野望ですね。
――段林さん自身の野望ってあったりしますか?
(段林)いつまでも“足の速い人”でいることですね。「あのおっさん足速いよなー」って言われる人であり続けたいと思っています。
アドバイス:好きなことだからこそ、稼ぐことから逃げない
――これから地方で仕事をしようと考えている読者にアドバイスをお願いします。
(段林)今ってスマホとかSNSが広まって、遠くにいる人にもサービスが提供できる時代じゃないですか。AIとかも増えてきている中で、人間の温かみを感じることのできる仕事って傾向的に減ってるのかなって感じがする。でも田舎には、そういう人間味を感じられる仕事がマッチしてるのかなって思います。「AI化」「IT化」「効率化」って言われる中で、人間味のある仕事、人を大事にする仕事、「人対人」を大事にする仕事が、地方には向いてるんじゃないですかね。
――段林さんにとっての陸上のように、自分の「好き」を仕事にするにはどうしたらいいんでしょうか?
(段林)一言で言うと、「稼ぐことから逃げない、目をそらさない」ことだと思います。「好きなことがやれているのだから、このくらいでいいや。自分はお金のためにやっているわけではないし」というように、ビジネス視点で中途半端になってしまっている人も多く見かけます。好きなことでとことん社会に貢献するためには、事業を持続可能にしなければいけないと思います。そのためには利益が必須になるので、この考えを忘れないようにしています。
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