システム思考はコロナからの復興に使えるか?
こんにちは、リープ共創基金の加藤徹生です。
我々は今回、休眠預金等活用事業の採択を受け、約1億7000万円という資金をコロナ禍で職を失った若者の支援に提供しようとしています。
約1年強の期間で2億円近くの資金を使いこなすというのは、日本の非営利セクターの中でも非常に大きなチャレンジです。私自身が最終責任者なのですが、東日本大震災の際に比べ、支援規模が約10倍に成長しているので、まるで「トラックの運転」をするような心持ちでいました。
そこで、思い出したのが「システム思考」というアプローチでした。システム思考なら、先の読めないこの状況下の中で冷静な判断を可能にしてくれるのでは?と。
システム思考とは?ー繰り返されるパターンから未来を予測する
システム思考は現象ではなく、「繰り返されるパターン」や「構造」を見ながら、問題の解決や次なる社会システムの姿を対話の中で考えていくアプローチだと言われます。
例えば、報道などで繰り返されている出来事ですが、コロナの感染拡大は感染者が増えれば増えるほど感染機会が増えるので、感染者数や感染機会を抑制しないと、指数的な勢いで感染者数が増えることがわかっています。だからこそ、新しい生活様式の普及や、感染者の隔離、ワクチンの開発などへの投資が急がれました。
システム思考的な捉え方をするならば、まず、「感染者が増えれば増えるほど感染機会が増える」という、自己強化のループに着目することになります。このループの強さ=コロナの感染の再生産数なのですが、冬季に再拡大するというパターンを見誤ったおかげで、空にマシンガンを打ち放すように多くの施策が消えて行きました。
システム思考のレンズでコロナ禍を捉えてみる
さて、今回、我々がアプローチしている生活困窮下の若年者の状況をしてシステム思考的な視点で捉えなおしてみると、いくつかの発見がありました。
1つ目は、コロナウイルスの感染拡大のループがそう簡単には止まらないだろうということ。本質的な解決策はワクチンの開発ですが、開発から普及には遅れが伴い、また、感染力が強化されたウイルスは英国から持ち込まれ、おそらく、国内でも蔓延していくことになるでしょう。(R1:コロナウイルス感染拡大の自己強化ループ)。
2つ目は、コロナウイルスの感染拡大の結果として産業や雇用の打撃が大きく、雇用ができないから産業が転換できず、産業に転換の余裕がないから、雇用もできないという状況が発生しているということ。これは、各地の団体のヒアリングから理解できたことです。(R2:雇用の悪循環の自己強化ループ)
独立行政法人労働政策研究・研修機構
完全失業者数(原数値)(対前年同月増減)
データ出所:総務省 労働力調査(基本集計)
雇用調整助成金を通じて、他の先進国に比べて失業率は低い水準でとどまっており、多くの方々の生活が守られたことは素晴らしいことですが、産業や雇用の転換のインセンティブには至りませんでした。
3つ目は、失業自体が引き起こす悪循環のサイクルです。これは、就労支援やホームレス支援のNPOから学んだことですが、失業は多くの場合、更に深刻な問題の始まりにすぎません。失業をきっかけに家族関係が悪化したり、住環境を失うことは少なからず起きることです。日本ではいったん住環境を失った方が再雇用されることは非常に難しく、さらには、失業が長期化すると職歴に空白期間が生じることになります。本人に職業能力に瑕疵がなかったとしても、それだけで労働市場から排除されてしまうのです。失業と自殺率は相関することも知られています。(R3:失業のもたらす悪循環)
最後の4つ目はシステム思考のレンズで思考を重ねていた帰結でもあるのですが、コロナウイルスの感染拡大を簡単には乗り越えられない場合、雇用が元の水準に戻ることはないだろうという予測が現れました。だから、失業を食い止めるのではく、新しい雇用をつくる必要がある。ニューノーマルが求められるのは働き方だったのです。
システム思考で社会を変えることはできるか?
さて、システム思考というアプローチに私自身が向き合おうと思ったのは、システムの全体性を記述する必要性に駆られたからです。自分自身の社会的責任が大きくなってきたこともありますが、個別の成功事例をいいように切り取るだけでは、社会の進化はありえないのではないか?であれば、ヘタ絵でも構わないので、全体システムを描写するところから初めてみようと思ったのでした。
さて、この1億7000万円という資金を使いながら、我々がどんな社会的インパクトを生み出すことができるか?また、これまでの非営利セクターの中で類を見ない規模の資金を扱う中でどのようなプロセスを事例として残していけるかは引き続き書き記していこうと思っています。ご応援頂けるかは、ぜひ、この助成ノートをフォロー頂ければ。
表面的なシステム変化と深層的なシステム変化
最後になりますが、システム思考の太祖ドネラ・メドウズは以下のようにシステムの変え方の難易度を示します。このリストは数字の大きなものから、変えやすい順で並んでいるのですが、シンプルに量的な課題の解決が困難であることに対し、時間の問題ややステークホルダーの関係性の更新を伴うもシステムへの介入は難しく、さらには、システムそのものを再生産させる我々の認識や考え方、さらにはそれを作り出している無意識の規範への介入は更なる困難を極めると言います。
世界はシステムで動く、ドネラ・メドウズ著、枝広淳子訳より抜粋
実は私自身がこの助成事業でもっとも驚いたことは、多くの日本人は失業したということを周囲の人に告げることができないという小さな事実でした。たしかに私自身も病やリハビリの中で働けないことや、働けないことを自認させられる機会が何度がありましたが、自分自身やまた周囲の恥の意識との葛藤を経験したことがあります。
何が言いたいかというと、ひょっとすると、日本の変革を阻んでいるのは我々の中にある恥の感覚やそれをつくり出している文化かもしれないということです。
引き続きコロナ禍での苦境を受け入れ、自らの転機として動きはじめた方々のご支援に尽力しつつ、その過程を書き記すことも続けて行きたいと思っています。
ご応援頂ける方はこのnoteのフォローや財団の賛助会員としてご応援頂ければ、嬉しく思います。ヘタなシステム図を一緒に書いてくれる仲間も募集しています。
2021.1.8
書き手・加藤徹生
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