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弁護士に聞いてみたーNPOはリスクをどうマネジメントすべきか?

現場の支援活動に忙しいNPO団体は、起こりうるリスクをどうマネジメントすべきなのでしょうか?

経営者やスタッフの不祥事、様々なリスクに囲まれた当事者への支援活動の中で当事者自身が傷つくことや、結果として、NPO自身が加害行為を起こしてしまうこと。NPOにはさまざまなリスクがあります。もちろん、規模の小さいNPOには法務スタッフはいません。経営者も忙しく”何がリスクかもわからない”状態での自転車操業だったり、リスク対応が後手に回ってしまうケースもよく見られます。

リープ共創基金では、2022年12月にBLP-Network(以下BLPN)と共催でオンラインの「リスクマネジメント研修」を、2021年度の休眠預金等活用事業の資金提供先団体11団体へ実施しました。

資金提供の中で見えてくる生々しいリスク

もともと、休眠預金等活用事業では、すべての資金提供先に対して1−2名の伴走支援スタッフをつけて、月に1度の面談を行っています。

そこで上がってくる話は、必ずしもいいものばかりではありません。「初めての大きな助成事業で資金の管理が難しい」という話もあれば、「困難を抱える若者とトラブルが起きたが、どう対応すべきか」というような相談もあります。

また資金提供先団体には、組織を運営する上で様々なトラブルや綻びが起きているものの、目の前の課題の対処に時間をとられており、今後起きうる長期的なリスクにまできちんと向き合えないといった状況もありました。

こうしたさまざまなリスクに対して、先手を打って向き合っていけるようになるにはどうしたらいいのか。そんなことを考えている時に、「NPOがリスクマネジメントを考える場をつくれないか」と提案をしてくれたのが、プロボノ弁護士ネットワークのBLPNでした。

致命傷になるリスクを想定しているか?

当日、3時間の研修を担当してくれたのは、BLPNの4名の弁護士。ふだんは企業法務などの仕事をしているプロフェッショナル集団です。

研修では、これまでにNPOで起きた不祥事やその対応、費用感覚についての事例共有がなされました。

起きないだろうと思っていた不祥事が発覚し、第三者の弁護士などを交えた本格的な調査につながったり、不祥事が思わぬ炎上を見せ、寄付者の急減につながったり、団体の生命線を揺るがす事例もご紹介頂きました。

その後に手を動かすワークの時間も。特に、各リスクについて「事業目標へ与える影響」という観点から、それぞれの団体で起きうるリスクをステークホルダーごとに洗い出して、整理していきました。大量のリスク予備軍を列挙した団体もあれば、なかなか手が進まない団体もあります。

事業目標へのダメージは様々です。「団体の存続に関わる」「事業の存続に関わる」などレベル別に分け、具体的なアドバイスも多くありました。

ワークをやってみた後は、資金提供先団体から以下のような声が上がりました。

  • 死亡事故や想像を超える事故は、起きないだろうとなんとなく思って、準備をしていなかった。普段からスタッフ会議の中でリスクの話はしているが、他の団体のものを聞くことで気づきがあった。

  • 学生の死亡事故や怪我、企業からのハラスメントなど、様々なケースが起こりうると気づいた。他のスタッフにもリスクを共有していきたい。

  • 特定の人間のみしかリスク対応ができず再現性がなかったり、未経験のリスクに対して備えられていなかったりすることなど、法人の課題に改めて気づいた。

他にも、「支援対象者の活動中の死亡事故など、突発的に大きな問題が発生した時に、初動をどう設計しておくと良いものでしょうか?」「内部の軽微な不祥事に関しては、外部にリリースをきちんと出した方がいいのか、どう考えたらいいでしょうか?」など、普段なかなか聞けないような質問が、団体からたくさんあがりました。

実行団体の中には、顧問となる弁護士がいないケースは多く、弁護士の方たちと率直に意見交換ができる機会は、現場で支援活動を行うメンバーにとって貴重な機会となったようでした。

NPOが成長のアクセルを踏み込むには、弁護士が必要

研修後、改めてBLPNの初代代表である鬼澤秀昌さんにも話を聞いてみました。

「企業法務でもリスクマネジメントに関わりますが、不祥事が起きた後に原因を調査したり対策したりすることも多いんです。でも何かが起きた後ではなく、目的との関係からリスクを事前に考えることが、経営において重要だと感じます。この研修でも、目的からリスクを考えるものにしました」

「忙しい支援活動の中で、リスクマネジメントや法律について考える優先順位はあげにくいだろうと感じます。今回の研修で、『優先的に対応するのはこれなんだっていうのが見えた』という声がみなさんからあったのは、とてもよかったです」


BLPNは2012年に設立以降、現在では88名の弁護士がメンバーとして参加し、合計で172団体の相談にのってきたそうです。窓口から連絡すると、相談の内容に応じてアドバイス可能な弁護士を紹介・マッチングしてくれる仕組みになっています。

「実はこれまでは積極的な広報をしてこなかったのですが、毎月1−2件コンスタントにご相談を頂いています。これまでは設立登記や個人情報管理、契約書作成などのご相談が多いですね。政策提言のための事例リサーチなどの事例もあります。ただ、NPOの仕事は広い範囲に渡りますし、もっと様々なニーズがあるのではないかとも考えています」

刑事告訴に関するご相談以外は、特定の分野・領域などに限定はしておらず、オールジャンル幅広いNPOの相談が可能とのこと。マッチングは無償なこと、その後の相談についても有償・無償などの希望を伝えることができるのも、非営利団体にとっては有り難いポイントです。

「抱えているリスクの重要度や法的なリスクについて認識しておくと、より弁護士にも相談しやすくなりますし、これからこうした研修を支援者の方に行いながら、NPOと弁護士がうまく連携していけたらと思っています。NPOの方たちが事業に対してアクセルを適切に踏み込むためのサポートとして、私たちも何か協力できたらいいなと思っています」

社会的課題の解決のために、法務も含む基盤強化を

リープ共創基金の代表・加藤は、今回の研修に対して以下のような感想を述べました。

「様々な非営利組織やソーシャルビジネスを支援させて頂きましたが、経営者の多くは『弁護士は怖い、弁護士に何を頼んでいいかわからない』という感覚を抱えているのではないでしょうか。今回の研修は入り口にすぎないのですが、これからBLPNに相談していきたいという団体も多くあり、社会的課題の解決における法務の活用の仕方や位置づけが変わる大きな転換点になったような気がしています」

社会的課題など、すぐには解決しない大きな問題にアプローチしていく上で、ガバナンスやコンプライアンス、法務的な側面も含めて、リスクに向き合うことは不可欠です。リープ共創基金はBLPNとの連携を通じて、NPOのリスクマネジメント能力の向上にも寄与したいと考えています。


「自分たちも相談してみたい」と思った方は、依頼したい内容を、BLPNのご相談のお申し込みフォームより連絡ください。また、ぜひ、BLPNの「NPOの法律相談[改訂新版]――知っておきたい基礎知識62」も参考にしていただければと思います。


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