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カッコええ老人‥のはずだった
「もうちょっとカッコええ老人になると思ってたんやけどな‥」
これは昼間母が言った言葉だ。誰のことって父のことだ(笑)
最近の父の姿にゲンナリしているらしい。どのあたりが?
もうそのズボンは履かんといて言うてるのに履く。サラのええスニーカーあるのにボロボロになってきた靴を履く。ランニングシャツのまま外に出る。眠たい言うてすぐ寝る。
‥こう書き連ねていくと、なんだかヨシタニシンスケさん風に「理由があります」と、ユーモアたっぷりに続けたくなるが、理由は父にしかわからず想像すらできない。
「もう人前連れてくの恥ずかしいねん。他人のふりしてたい時あるわ。」と嘆いている。
母は、語り尽くせぬほど父のことで苦労してきたが、今でも何か見つけるたびに“パパに教えたげよ”と言うし、新しいお店に行ったら“今度パパ連れてきたげよ”と言う。
「なんでそう思えるん? やっぱり好きなん?」とたずねると、母はひとしきり大笑いしたあと「なんや可哀想に思えてくるねん。私ばっかり楽しい思いして悪いなぁと思てしまうねん。」‥これが愛というものか、と思わざるをえない。
きっと母は、もしも一人になったら、その履かんといてほしいズボンも、捨ててほしいスニーカーもまるごと恋しがると思う。
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母の姉、つまり私の伯母の話でおもしろい話がある。伯母は70歳くらいで伴侶と死別してから数年経ったある日、若き日の憧れの君から突然電話がかかってきて、会う約束をする。
その彼は水泳が得意で当時の惚れ惚れする容姿が思い浮かび、伯母は心ときめかせて待ち合わせ場所に向かった。
エスカレーター沿いのベンチに一人の男性が座っていたが、いやちがうちがう‥と、スルーしかけたところへ「久ちゃんか?」と声をかけられた。まさか‥の彼だった。当時の面影を探しようにも見つからぬほどの変遷の遂げようで、膨らんだ「ときめき風船」はしょぼしょぼとすぼんだらしい。シャツが半分ズボンからズリ出たような腰元と、手に持っているバッグが巾着袋だったことがトドメを刺したよう。少しでも胸が躍った自分を顧みて、「やっぱりお父さんでよかったわ。ごめん悪かったな。」と仏壇に向かって苦笑しながら話しかけたそうな。
「あの人でよかった‥」と思えるのもまた幸せなり。