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「アイドルぎらい」から「葛藤するヲタク」へ 〜アンジュルム・INIとの邂逅〜《後編》

もともとは「アイドルぎらい」だった私がさまざまな邂逅を経て「葛藤するヲタク」になるまでのヲタク遍歴、後編です。

前編では初めての推しのアイドルグループとして、アンジュルムのお話をさせていただきました。

アイドルに「主体性がない」というイメージを抱き、興味を持てなかった私ですが、アンジュルムをきっかけにアイドルの楽しみ方がわかるようになってきました。

しかし、それでもなお男性アイドルには興味を持てないまま……。
後編では、男性アイドルがアイドルぎらいの最後の砦となっていた理由と、そこで訪れたINI(アイエヌアイ)との邂逅についてお話していきましょう。


男性アイドルへの抵抗感:「異性を推すと居心地が悪くなる」?

すみません、ここで再びネガティブな内容に戻ります。もう一度だけお許しください……。

私にとっての「推し」とは何か?

まずは前提として、アンジュルムとの邂逅を経て固まってきた私がアイドルを「推す」うえでの前提についてお話させてください。

私にとって「推し」とは、私をエンパワメントしてくれる存在であり、「私もこうありたい」と思えるような要素を持ったロールモデルのような存在です。
そしてこうした意味でアイドルは、これまで応援してきたアイドル以外のミュージシャン、さらには身近な友人や知人とも地続きな存在です。

アイドルという立場に限らず、私は「私もこうありたい」と思える人と何かしらのつながりを持っていたい。そうした感情の先にたまたまアイドルがいた。それだけのことなのです。

もう1つ重要なこととして、こうした感情は私の「あらゆる」人間関係の基礎になっていて、「その関係性が何であるか」「友情か、恋愛か」といったことには左右されません。
簡単に言えば、私にとっては友情と恋愛に区別はありません。

そのため、異性同士の関係ばかりを恋愛と結びつけたり、(主に異性との)関係を友情/恋愛の二元論で語ったりする「異性愛規範」に疑問を抱いて生きてきました。

アイドルであろうが、身近な人であろうが、性別が何であろうが、私は私が共感や憧れを抱いた人と、各人と合った形で、人間同士として、親密な関係性を築いていきたい。
そんな気持ちが大きな前提としてあるのです。

「異性を推すこと」にまとわりつくイメージ?

さて、こうした前提を踏まえて、私がなぜ男性アイドルに対して抵抗感があったかについてお話ししましょう。

私にとって男性アイドルの女性アイドルと大きく違う点は、「異性であること」です。

「いやいや、さっき性別は関係ないって言ってたやん……」って思った?
はい、言ってましたね。

異性であることは、「私にとっては」関係のないことです。
ですが、「私以外の誰かにとっては」関係があることみたいで、それが厄介なんです。

アイドル文化の中では、「異性であること」が重要なポイントとして扱われてきたことは事実でしょう。
女性アイドルは頻繁に、男性からの眼差しを意識して女性性を強調し、都合の悪い主体性を取り去られてしまう。

そして男性アイドルに関しても、ファン(主に女性が想定される)にとって都合の悪い男性性は“去勢”され、反対に都合の良い男性性が強調されている部分があるように感じます。
例えば髭を生やすことは許されないが、筋肉は喜ばれる、みたいな……。

女性として生きる私が女性グループを「推す」ことは、同性であるがゆえに「男性からの眼差しを意識して女性性を強調」するという構造への加担にはなりにくい。

一方で、女性である私が男性グループを「推す」、すなわち「異性を推すこと」となると、私は「女性の眼差しを意識した去勢・男性性の強調」という構造に巻き込まれざるをえなくなります。

そして、このとき想定されている「異性の眼差し」というのは、厳密に言えば「一部の異性の眼差し」にすぎません。
先ほど説明した前提と照らし合わせれば、私はその「一部」には含まれていないという感覚があるのは理解してもらえるんじゃないでしょうか。

魅力的な男性性として強調されてきた支配力や庇護(これも結局は支配の活用形でしかありません)は、私が誰かを好きになる理由にはなりません。
「みんなこんな男性が好きなんでしょ?」と俺様キャラやお姫様扱いを差し出されたところで、「いや……私は結構です」と身を引くことしかできないわけです。

さらに、「異性のアイドルを推すこと」には、「疑似恋愛として楽しんでいる」というイメージがまとわりつきます。
もちろんそのような楽しみ方もあって良いし、それによってエンパワメントされる方もいることでしょう。

でも私に対してそのイメージを抱かれると、私は居心地が悪く感じます。
「私はそうじゃなんいんやけどな……」といった感じに。

「異性のアイドルを推すこと」と「疑似恋愛」のイメージが結びつきやすいのは、私が疑問を抱いてきた「異性愛規範」と深く関わっています。
私が異性である男性アイドルを「推す」となると、疑問や居心地の悪さは避けられません。

そのため、アイドルぎらいを脱してもなお、男性アイドルに興味を持つことはなかなかできませんでした。

INIとの邂逅:「アイドルとヲタクをなめてはいけない」!

しかし、そんな私にもINI(アイエヌアイ)との邂逅で変化が訪れます。
INIと出会ったきっかけは、ここまでの流れから簡単にご想像いただける通り、PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS(通称:日プ3)です。

アンジュルムを卒業した笠原桃奈さんが日プ3に参加することを知り、「アンジュルムと桃奈の夢を叶えたい」という一心でPRODUCE 101 JAPAN SEASON2(日プ2)で「予習」をすることにしました。

アンジュルムの「りかみこ」、INIの「西牧」!

「この西さんてひと、カッコいいなー」
「ダンスと表情すごい。やっぱりデビューしてるんや」

「なるほど、この藤牧さんのポジション評価が伝説になってるんや」
「確かにめっちゃ歌うまい」

てか、このクールなダンサーとキラキラなボーカリストの組み合わせって……

りかみこじゃん。

(りかみことは、佐々木莉佳子さんと上國料萌衣さんのケミ名のようなもの。ハロプロ文化圏にケミって言葉はないけどね)

あーこれ、りかみこと同じ栄養素だ。そりゃ見てて楽しいわけだ。
といった感じで、「ボーイズ版りかみこ」に興味を持ち、INIの動画を見るようになりました。

ハロプロしか知らない私にとって、ラポネ(INIが所属している事務所)のYouTubeコンテンツって、それはもう、めちゃくちゃ豪華なんです。

(いやまあ、撮って出しのライブ映像やレコーディング映像をじゃんじゃか出してくれるハロプロも、ある意味では豪華なんですけどね)

INIのYouTubeでは、「INIフォルダ」(通称:イニフォル)というバラエティコンテンツが毎週更新されています(新曲リリースで忙しい時期はお休み)。
毎回企画が凝っていて、ロケも頻繁にしていて……YouTubeのためにここまでするの!?という驚き。

バラエティコンテンツとしてのクオリティが高いので、まだメンバーを覚えていない私でも飽きずに楽しめました。
また、互いの失敗を馬鹿にしたり無駄に張り合ったりしない柔らかな雰囲気も心地よく、気付けば何本も見ていました。

とはいえ、前述の通り男性アイドルを推すことにハードルに感じていた私は、まだ熱心に追うほどの興味は持てていませんでした。

許豊凡さんに「ガチ友」!

そんな中、私のYouTubeのおすすめには「From INI」(通称:フロイニ)というINIのレギュラーラジオ番組の切り抜きも流れてくるようになります。
(本当はradikoやAudeeで聴いた方が公式に還元されるので良いんですが、切り抜きの方が新規の受け皿にはなるよね……)

フロイニは3人前後でのトークが中心なので、各メンバーの人となりについてより深く知ることができました。

そこでついに“沼”に出会ってしまうのです。
そう、許豊凡(シュウ・フェンファン)さんです。

フェンファンについては、過去に魂を込めて書いた記事があるので、詳しくはそちらをどうぞ。

上記の記事では色々と引用しているのですが、私が最初に惹かれたフェンファンの発言を1つご紹介しておきます。

「もし自分に妹がいるとしたら、妹の彼氏にしたいメンバーは誰?」というトークテーマ。
「フーン、やっぱりアイドルに対しては異性愛にまつわるトークテーマが求められるよねえ」と斜に構えつつ聴いていたのですが、フェンファンの回答が私の予想を良い意味で裏切ってくれました。

俺は、威尊です。(中略)家庭的な面でいうとやっぱさ、みんなさ、料理できる人も少なければ、家事もちょっと怪しいメンバーも何人かいるじゃん(笑)。自分の妹なんだからさ、あんまり家事の負担をさ……重すぎると、この先大丈夫かな?って心配しちゃうじゃん。威尊だと、少なくとも半々やってくれそう。料理もできるし、家事もできるし。

From INI #86  ※文字起こし・強調は引用者による

この人、家事負担の話をしている!!!
え???アイドルって家事負担の話することあるんですか???あるんだ。
そ、聡明……そして誠実……。
(その後にもっとすてきな発言の数々にも出会うので、ぜひさっきのnoteも読んでみてね!)

さらに、フロイニではメンバーおすすめの音楽や映像作品、個人的なエピソードなどについても多く語られています。
そこでフェンファンを知るにつれて、私の中ではある感情が巻き起こります。

「この人……私の友達すぎないか?」

映画や音楽の好みが近いこと、中高時代は受験勉強に終われる生活を送っていたこと、建築や美術を愛していること。
親近感がありつつも、むしろ私よりずっと造詣の深さを感じる語り口に、興味を持たずにはいられませんでした。

私、この人と友達になりたい。
ガチ恋ならぬガチ友。なんということでしょう。

さて、このあたりで耐えきれなくなった私は、ついにオープンなアカウントでINIにハマっている旨をツイートします。

勢いで京セラドーム公演(INIの初の単独ドーム公演でした)のチケットも申し込んでますね。

そしていいねの数を見ていただければ分かるとおり、MINI(INIのファンネームです)のみなさんから「ハート攻撃ぃぃ!!!」(Original by 尾崎匠海)を受けています。
これをきっかけに、私は「助けて❗️」という名のアカウントを作り、ついにINIのファンダムの中へと足を踏み入れていくことになったのです。

ちなみに書き出すとキリがないので省いていますが、同時進行で曲やパフォーマンスにもしっかりハマっていました。
INIの楽曲は異性愛規範を感じないものがほとんどなので抵抗なく楽しめるというのは色んな方が言っている通りです。

男性アイドルファンのグラデーション!

アイドル自身に興味を持っていても、ファンダムに馴染めるかどうかは別問題です。
それはアイドルに限った話ではなく、これまでにも好きなミュージシャンのファンの振る舞いを見て「ファン同士の交流は遠慮しておこう……」となることがありました。

前述の通り、私の男性アイドルの楽しみ方はおそらく「主流」のそれではないのだろうな、という予想がありました。
しかし、私が関わってみたMINIたちは、私のスタンスにも理解を示してくれ、私に合う過去のコンテンツを教えてくれる、優しい人たちばかりでした。

そして次第に、「どうやら男性アイドルのファンにも色々なあり方が存在するみたいだな」という実感が湧いていきます。
実際に中へ入ってみることで、私のように異性愛規範に疑問を抱いている、クィアやフェミニストたちもファンダム内にいることがわかりました。

前編でお話ししたアンジュルムとの邂逅と同じように、INI(とMINI)との邂逅を経て、私は再びあの安心感を味わうことになります。
「ああ……私は男性アイドルだって好きになれるし、楽しんで良いんだ。」

さらに、「『主流』ではないかもしれないけど、アイドルを自分たちなりの方法で愛したい」という人ともっと繋がりたいと思った私は、先述の入魂noteを書きました。
望み通りたくさんの人に読んでもらえて、より多くの「あったかフォロワー」たちと出会うことに成功。やったぜ。

おかげさまですっかり「アイドルぎらい」を克服し、毎日楽しいヲタクライフを送っています。
みんなマジいつもありがと✌️ギャルピ。

葛藤するヲタク:「ヲタクは深い業を背負っている」。

さて、「アイドルぎらい」を克服したとはいえ、アイドル文化も私の価値観も大きく変わったわけではありません。
これまで見えていなかったアイドルと私の接点が見えるようになり、ただ少し視界が開けたというだけのことです。

「アイドルぎらい」として私が批判してきたことは、多少の誤解はあったとはいえ、いまでも批判すべき点であることには変わりがないと思っています。

アイドルが主体性を奪われ、人権が尊重されていない場面があること。
アイドル文化のなかで、男女二元論や異性愛規範が温存されていること。
アイドル産業の中では、消費や搾取の構造が生まれやすいこと。

こうした問題点はそう簡単には消えず、与えられたものを手放しで肯定して楽しむという態度は、問題への加担となります。
だから私は、「アイドルを愛しながら葛藤し、アイドルファンとしてアイドル文化を批判もする」というポジションを保っていたい。

私はたしかにアイドルにエンパワメントされ続けています。
だからこそ、「葛藤するヲタク」として、アイドルが私に与えてくれたプラスのエネルギーがより広く、深く、永く発揮されるような形を求めていきたいと思っています。
なんか綺麗事みたいになってしまいましたが(もちろん綺麗事でも良いんですが)……。

結局は、私は私のやり方でアイドルを楽しんでいたいし、その楽しみ方を奪われたくない。それだけなのかもしれません。

長くなりましたが、このnoteも誰かが自分なりの方法でアイドルを楽しむためのヒントになったらいいなあと、思います。

それでは、アイドルとアイドルを愛する人たちに幸あれ!

レインボーのネオンサインを背景に撮った許豊凡のアクスタの写真

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