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朝、焦がさず卵焼きを作れたら
私は、長いこと実家暮らしだった。
学生時代は夜遅くまでアルバイト、社会人になってからは月に80時間ほどの残業、当然帰りは終電ギリギリという生活をしていた所為で、恥ずかしながら家事という家事をしたことがないままアラサーになってしまった。
学生時代はともかく、社会人生活は正直、母に甘えなければとっくに潰れていたと思う。たぶん、母もそれを察して「家事をしろ」とは言わなかった。
母は私が中学生の頃までは専業主婦だったが、高校に進学してからはパートを始めた。働き始めても、母が家事の手を抜くことはなかった。
勤務日の前日には翌日の夕飯の仕込みまで終えていたし、毎日欠かさずお弁当を作ってくれた。
母のお弁当作りは、私が社会人になってからも続いた。正直甘えすぎだと思ったし、何度か「お弁当、もう作らなくていいよ」と言ったのだけれど、
「どうせ夜まともに食べないんだから、昼くらいちゃんと食べて栄養摂りなさい」
そう言って聞かなかった。
確かにあの頃は、家族が寝静まった家のリビングで一人カップ麺をすすることも多かった。深夜のバラエティ番組を見ながら食べるカップ麺は背徳の味。何物にも代えがたい幸福感があったのだが、健康オタクの母にしてみれば許されざる代物だったのだ。心配かけたな、と、思う。
転職を機に、私は実家を出た。3年前の春のことだ。
掃除に洗濯に料理。そのすべてを自分でやる生活はなかなか新鮮で、意外にも楽しく取り組むことができたけれど、どうしたって母のようにすべてを要領よくこなすことはできなかった。
洗濯ものはため込んでしまうし、部屋の片づけはできないし、生野菜は買ったのを忘れてすぐダメにしてしまう。
なるべく毎日お弁当を作ろうとするけど、寝起きのぼんやりした頭で料理をしたら絶対に失敗する自信があるので、私のお弁当作りは夜行われる。毎朝キレイな卵焼きを作っていた母が不思議でならない。
実家を出たばかりの頃に比べたらマシになったと思うけれど、未だに私の家事スキルは伸び悩んでいる。
実家に帰った時、テキパキ家事をこなす母を見て、ふと
「こんだけ家事やってるって、母さんやっぱスゴいわ」
と呟いた。
「そうでしょ」
母は、渾身のドヤ顔で笑った。
(907字)
<プロフィール>
書いたり描いたりするOL。カワイイお洋服と甘いお菓子と辛いラーメンが好き。ビールは苦手。
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