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海外で初めての後輩ができた話
1月下旬から始めたイギリスのレストランでの皿洗いの仕事。
気付けばあっという間に3か月が過ぎてしまいました。
単純な仕事に、ストレスのない快適な毎日。
そんな日々を繰り返しているだけでも、変化と言うものは自然と訪れるものです。
最近になって、私のセクションに新人がやってきました。
彼は、19歳のウクライナ人。
ウクライナ東部のハルキフ出身で、街はロシアの軍事侵攻の標的になりました。
ロシアの侵攻を受けて、彼は家族とともに隣国のポーランドへ脱出。
18歳以上の男性の出国禁止がかかる、2週間前に国境を抜けることができたのだそうです。
その後、避難先のポーランドで出会った、同じく避難民の女の子と恋をして、2人でイギリスへ移り住み、現在に至ります。
彼と出会った初日、当然の帰結としてウクライナ情勢の話題に至ります。
そこで彼は、侵攻の前と後のハリコフの写真を見せてくれました。
かつて、美しく、威厳に満ちた、ウクライナ第二の都市が、現在では廃墟同然に。
「綺麗だった街が、今ではほとんど壊れてしまった。この写真は出国禁止で国を出られなくなった同級生が撮ったもの。彼は今でも地下鉄の電車のシートで寝泊まりしている。こんなことが自分の国で起こっているんだよ。笑えないよね…。」
と言う彼に、返す言葉も見つかりませんでした。
突然"当たり前の日常"を奪われ、故郷を追われるというのは、どのようなものなのか、私には全く想像がつきません。
個人では抗うことのできない、目に見えない大きな力によって、自由で快適な日常が奪われる。
複雑で不確実な今日の世界。
「平和は当たり前ではない」
と言うことを認識させられた瞬間でした。
そんな彼も、例にもれず親日家。
私が日本人だとわかった途端、急に眼の色を輝かせ、
「このアニメ知ってる!?俺これ大好きなんだよね!」
と、様々なアニメの画像を見せられました。
私が知っていたのは、「NARUTO」と「鬼滅の刃」だけでした。笑
将来は絶対日本を訪れるとのことで、
「何か日本語教えて!」
とせがまれる毎日です。
彼自身は、既に母国語であるウクライナ語、第二言語のロシア語、ウクライナ語と若干近い関係にあるポーランド語を話せ、完ぺきではないものの、英語もそれなりに話せています。
私がイギリスに来てから出会ったウクライナの人たちは皆言語のセンスがあるというか、英語が上手く、そのほかにも複数の言語を操れる人が多いです。
彼が私に「何しにイギリスに来たの?」と訊ねた際、私が、
「英語を勉強するため」
と答えたときには、
「えっ?たったそれだけのために?」
と、きょとんとしていました。
私が「日本人の多くは英語を話せない」という話をすると、驚いた様子で、「じゃあますます日本語を勉強しなきゃだね!」
なんて言っていました。
かわいい後輩です。笑
そんなこんなでかわいい後輩ではありますが、仕事を教えるのは大変です。
いかんせん、全部英語で説明しなければならないのですから。
仕事自体は簡単なのですが、やることはそれなりにあるため、全てを英語で説明するにはなかなか骨が折れます。
彼は英語をそこそこしゃべれはするのですが、たまに基礎的な語彙が抜け落ちていたりするので、そこの説明を補うのも一苦労です。
"early"という語を知らなかった時には、私自身、どう説明すればよいのかわかりませんでした…。
このプロセスも私にとっては、英語力を鍛えるトレーニングになっているのかもしれません。
そして、私の人生史上、初めての外国人の後輩ということで、仕事を教えていく中で、私自身勉強させられることがいっぱいあります。
例えば、仕事のやり方や、職場のルールを説明する際、彼は納得がいかないと必ず「なぜ?」と聞いてきます。
私が公務員時代、日本人の後輩たちに仕事を教えていた時には、後輩たちはみんな「わかりました、ありがとうございます。」と言って、そのまま素直に仕事を進めてくました。
しかし、彼は違うのです。
正直初めは「煩わしい」と思ってしまったのですが、ここで初めて、自分の説明が不足しているということに気付かされました。
日本人の後輩たちが、素直に私の言うことを聞いてくれたことをいいことに、私にはすっかり説明の大事な部分を省略する癖がついてしまっていたようです。
もしかしたら、日本の後輩たちも、疑問に思ってたけど聞きづらくてそのまま流してしまったのかもしれません。(みんな、ごめん。。。)
また、というかそもそも、私が彼を「後輩」と認識していること自体が日本人の感覚だとも言えます。
彼にとって私は「先輩」ではなく、同じ立場の「同僚」なのです。
たまに、彼の方から、
「休憩行っていいよ」
とか
「違うよ、そこはこうやるんだよ!」
とか言われることがあり、「主導権を握っているのは私」と勝手に思っていた私は、「むっ!生意気な!」と思うこともあります。
が、そう思うのは、やはり私が日本人だからなのでしょう。
私が「上司」ならともかく、ただの同じ役職で、そこには先輩も後輩もないのです。
まだまだ私も謙虚さが足りないな。と感じてしまいました。
たかが皿洗いの仕事でも、何かと勉強させられる毎日です。