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中世イギリスへの誘い~日本人のための"チェスター"観光案内~
日本で「イギリス旅行」というと、まず思い浮かぶのはおそらく、ロンドン、オックスフォード、コッツウォルズ、湖水地方…、といった場所ではないでしょうか。
私が住んでいるチェスターという街は、その歴史的で美しい街並みにも関わらず、あまり知名度は高くありません。
私が日本を出発する際、
「イギリスのどこに住むの?」
「チェスターって場所だよ!」
「どこそれ?」「マンチェスター?」
なんていうやりとりが数多くありました。
今回の記事では、私が2年を過ごした、イギリスのチェスターという都市の知名度向上、及びこの場所を訪れるちょっとマニアックな日本人の方のための、観光スポットを「私」というフィルターを通して紹介したいと思います!
1 ロケーション
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チェスターは、イングランド北西部に位置する街です。
ロンドンから電車で2時間半~3時間程度になります。
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ご覧の通り、リバプールとマンチェスターに近く、リバプールまでは電車で40分程度、マンチェスターまでは電車で1時間~2時間(路線による)ほどの距離となります。
空路を利用する場合は、リバプール・ジョン・レノン国際空港か、マンチェスター国際空港を利用するのが便利です。
ただし、この2つの空港には日本からの直行便がないため、ヨーロッパ、中東、中国&香港あたりのどこかの空港で乗り継ぎをする必要があります。
2 歴史
チェスターに限らず、マンチェスター、コルチェスター、ウィンチェスター、チチェスターなど、イギリス国内には「チェスター」という名前の付く都市が数多く存在します。
これは、西暦43年に始まった、ローマ帝国によるブリテン島侵攻の際に、ローマ軍の軍事要塞が設置された場所で、ラテン語の「castrum」という単語が派生して、「chester」になったと言われています。(ランカスターやレスターなど「-caster」や「-cester」といった語尾で終わる地名も同様。)
したがって、チェスターの歴史は紀元1世紀まで遡ります。
チェスターの起源は、西暦79年。
上述の通り、ローマ帝国がブリテン島を侵攻した際に軍事要塞を設置したのが始まりと言われています。
ローマ帝国自体は、5世紀頃にブリテン島から撤退するのですが、その後も家族を持って土地に定着した一部のローマ兵や、ローマ人と地元民の間に生まれた子やその子孫などが要塞に残り、街となって発展を続けていきます。
ローマ帝国撤退後、ブリテン島内には、いくつかの王国が乱立します。
この時期については記録が少ないようですが、数百年の間に、チェスターはいくつかの王国の統治を経て、城壁が補修されたり、大聖堂(現在のものとは異なる)が建てられたりしていきます。
そして、イギリス史上、一つの大きな転換点となるのは、1066年の「ノルマンコンクエスト」。
ノルマン朝の支配下では、チェスターの城壁が拡張され、新たにチェスター城が築かれたのと同時に、領主たる「チェスター公(Earl of Chester)」が置かれるようになります。
1278年には、チェスターで大きな火災があり、城壁内部の街はほぼ消失してしまったと言われています。
この火災以降に築かれた街並みが、「ザ・ロウズ」として、現在もその景観を残しています。
その後、少し時代が空いて、1642年、国王チャールズ1世とオリバー・クロムウェルを筆頭とする議会が対立し、イングランド内戦(English civil war)(日本では、内戦からクロムウェルの独裁に至るまでの一連の出来事を「清教徒革命・ピューリタン革命」と呼称している)が勃発します。
チェスターの人々は国王軍として旗を揚げたため、街は議会軍に包囲され、激戦地となります。
1645年には、国王チャールズ1世も、実際にチェスターを訪れており、チャールズ1世が実際に訪れた場所が、現在も街の中にいくつも残っています。
18世紀に産業革命が始まると、工業の発達を見越して、チェスターには運河が築かれますが、チェスターには重工業が発達しなかったため、あまり役に立つことはありませんでした。
結果、「イギリス国内で最も失敗した運河」と呼ばれることになります。
1899年には、ヴィクトリア女王のダイヤモンド・ジュビリー(即位60周年記念、実際には1897年)を祝して、城壁のイーストゲート上に、のちにチェスターのシンボルとなる「イーストゲート・クロック」が設置され、現在のチェスターの街の姿は、ほぼ完成することになります。
3 みどころ
上記で紹介した歴史も踏まえ、私の視点で、チェスターで訪れるべきスポットを紹介したいと思います!
(1)チェスター大聖堂
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チェスターのランドマーク。
写真で見ると、単色、無機質で面白味がないように見えますが、間近で見ると意外と大きく、荘厳です。
現在の建物は、もともと修道院として建築されたもので、13世紀半ば頃から建築が始まり、16世紀にかけて少しずつ拡張していったものです。
1541年に、ヘンリー8世の宗教改革の中で、イングランド国教会の「チェスター大聖堂」としての機能を有するようになりました。
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(2)イーストゲート・クロック
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言わずと知れた、チェスターのシンボル。
1899年に、ヴィクトリア女王のダイヤモンド・ジュビリーを記念して、イーストゲートの上に設置されました。
ビッグベンに続き、「イギリスで2番目に写真映えする時計塔」と言われています。
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(3)ザ・ロウズ
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チェスターの中心部を構成する、2階部分が外に面した廊下になっている特徴的な建物群を、「ザ・ロウズ」又は「チェスター・ロウズ」と呼びます。
13世紀頃に登場したテューダー様式の建物で、他の都市では見かけることのできない独特な造りになっています。どうしてこのような造りになったのかは、詳しいことは不明で、諸説あるようです。
現在では、大半がお店として使われていますが、一部では住居として使われている部分もあります。
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(4)チェスター・タウン・ホール
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1898年に建設(再建)された、チェスターのもう一つのランドマーク。
タウン・ホールと呼ばれる行政府の建物ではありますが、日本で言うところの市町村役場のような機能は有していません。どちらかと言うと、市民会館的な立ち位置といった感じでしょうか。結婚式や、舞踏会など、パーティーに使われることが多いです。(基本的に建物内部は一般に開放されていません。)
広場に面した1階に、観光案内所兼おみやげ売り場があるので、是非寄ってみてください。
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(5)チェスター・シティ・ウォールズ
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チェスターの中心市街地を囲う城壁です。
ローマ時代に要塞として使われていた時から、少しずつ拡張・補強され、現在の形になります。
城壁の上を歩くことができ、立ち止まらずに歩くと、だいたい40分~50分くらいで、城壁を一周することが出来ます。
現在の壁の多くの部分が、近世以降に補修されたものですが、城壁の北門(ノースゲート)からは、城壁の最も古い部分=ローマ時代の壁の名残を見ることが出来ます。(上記写真の壁の下半分)
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(6)チェスター・マーケット
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チェスター・タウン・ホールの隣に位置する、屋内型のマーケットです。
2023年にリニューアルした場内には、地元の商店がずらりと並び、多くの地元客や観光客で賑わっています。
比較的飲食店が多く、内部もフードコートのようになっているので、好きなお店で好きなものを買って、その場で楽しむことが出来ます。
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(7)リバー・ディー
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チェスターで最もゆっくり時間が流れ、最も平和な場所。
休日には、多くの人が川沿いのベンチでのんびりと過ごしています。
手漕ぎボート、足漕ぎボート、モーターボートを借りることができ、また、大きな船に乗ってリバークルーズを体験することもできます。
川沿いにはアイスクリーム屋さんが多く存在するのですが、個人的には「チェシャー・ファーム」のアイスクリームが一番おススメです。
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(8)グローヴナー公園
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チェスターで一番大きい公園です。
もともと、地元の貴族であるグローヴナー家が所有していた土地を、市に寄贈して公園としたことから「グローヴナー」という名が冠されています。
広くて緑が多く、いつも家族連れで賑わっています。
リスが多く生息し、エサを求めて人間に近づいてくることもあります。
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(9)セント・ジョンズ教会
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チェスターで最も古いキリスト教の教会です。
個人的には、チェスター大聖堂よりも、こちらのセント・ジョンズ教会の方が歴史やミステリーなどがあって面白いと思っています。
西暦689年に、当時チェスターを支配していたマーシア王国の王によって設立されて以降、イングランド北西部のキリスト教における重要な役割を果たしてきました。
ノルマンコンクエスト後の1075年、ノルマン人の主教がこのセント・ジョンズ教会へ移り、大聖堂としての役割を得ることになります。
イングランド国教会の設立により、1541年に現在のチェスター大聖堂に大聖堂の機能が移ってからは、地域のバプティスト教会として使われるようになりました。
とても古く、砂で作られた建物は維持をするのが難しく、中世から19世紀末におよぶまで、何回も崩壊と修復が繰り返されています。(特に、1645年のピューリタン革命時のチェスター包囲戦において大きく損傷したともいわれています。)
現在では、もともと大聖堂ほどの規模があった教会の多くの部分が修復されないままの遺跡として残っており、メインのチャペルと時計塔のみの建物がバプティスト教会として使われています。
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(10)チェスター競馬場
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意外と知られていないのですが、実は、チェスターは近代競馬発祥の地でもあります。
毎年5月の初めごろから10月にかけて、月に1~2回程度レースが開催されます。
レースの日は、競馬場周辺の道路が封鎖され、街中お祭り騒ぎになります。
競馬場の一部の区画には、ドレスコードが設定されていて、男性はスーツ、女性はドレスといったような、きちんとした身なりをしていないと入場できません。
日本とはまた違った競馬の雰囲気を味わうことが出来ます。(もちろん賭けることもできます。)
~番外編~ ローマ円形闘技場跡
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グローヴナー公園とセント・ジョンズ教会の隣に、イタリアのローマにあるコロッセオのような、ローマ時代の闘技場が、遺跡として残っています。
番外編にしたのは、個人的にあまりにもがっかりスポットだったためです。笑
行ってみるとわかるかもしれませんが、ほぼただの広場で、円形ではなく半円形です。(とは言え重要な史跡ではあります。)
「円形闘技場」というロマンに満ちた名前に、期待していくと残念な思いをすることになりますので、期待値低めでご覧ください。
4 おわりに
いかがでしたでしょうか?
本当は、この記事も、チェスターに来た当初に書こうと思っていたのですが、先延ばしにすること丸2年。去り際に書くことになってしまいました。
しかし逆に、長くじっくりといろいろなところを見ることが出来た分、街の歴史や面白さを私の視点で記事にすることが出来たかと思います。
この記事を参考に、少しでもチェスターという街に興味を持っていただき、実際に訪れてくださる方がいたら、チェスターに住んだ者、かつ記事の執筆者としてこの上ない幸せです!
街自体は小さく、1~2日あれば、ほとんど回れてしまいます。ロンドンから日帰り旅行もできるので、イギリスを旅行予定の方、あるいはイギリス在住の方、チェスターの街で、古代から中世のイギリスの雰囲気を味わってはみませんか???
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