冬至の翌日
ほら、支度して。銭湯行くよ。
ママ、昨日柚子湯に入ったばかりなのに、今日も銭湯?
そう思いながらも銭湯に到着、女湯と書いてある引き戸を開けると、
あ!バナナの匂い!
今日はバナナ湯だって言うから、来てみちゃった。いい香りね。
お母さんが、鼻をくんくんしながら、番台に座ってるおばさんにお金を払う。
番台のおばさんが、
今日も寒いから、しっかり温まって来てね。
と言って、私にお釣りを手渡してくれた。
服を脱いで中に入ると、浴室はムッとするようなバナナの香り。そして、湯船の底にバナナが沈んでいた。お母さんが
あらあら、柚子はぷかぷか浮かぶけど、バナナはしずんじゃうのね。初めて知ったわ。
と、感心して言った。
それにしても、バナナってこんなに香るものなのかな?
そう私が呟くと、隣にいたおばあちゃんが
入浴剤足してるみたいだよ。
そう言ってニヤリと笑い、私が
なんだ。言われてみると、確かにちょっとわざとらしい匂いよね。
と言い、お母さんと3人でゲラゲラ笑った。
帰り支度も整い、番台のおばさんにおやすみなさいの挨拶をしたら、
これ、どうぞ。
そう言いながら、おばさんが割り箸が刺さったバナナを、番台から腕を伸ばして、私達に手渡してくれた。
あら、懐かしい!小さい頃、よく食べたわ。
わー、冷たい。
まるでアイスキャンディーのように冷たいバナナ。お風呂で少し逆上せ気味の身体をキュッと
引き締めてくれる。
私とお母さんがバナナを咥えながら、引き戸を開けると、
おやすみなさい。また来年もやるから、楽しみにしてね。
そうおばさんが番台から声をかけてきたので、私は咄嗟に
たにょしゅみにしゅてましゅね。
と、バナナを口に入れたまま返事をしてしまった。すると男湯側の方で、クスッと笑う声が聞こえた。声の方に目を遣ると、同じクラスのちょっと気になる男子が、こちらを見ながら笑っていた。
(了)