1ヶ月遅れのサウジアラビア遠征記
㊗️ACL優勝!!!!!おめでとう!!!!!ありがとう!!!!!!ちょっと時間経ったけど書きたいから書くね!!!!!!!!
シャリーア法による頑ななイスラムの教えに基づくサウジアラビア王国の法律によって、二次元コンテンツが生きがいのひとつである自分は、内心ビビりにビビりまくっていた。
PCを持ち込んだ場合は中身をチェックされ、不適切と判断された場合は拘束される場合もあるとの事だった。
「スマホの中見られたら生きて帰れねぇかも……イラストばっかだけど……」
幸いPCを持っていく事は無かったから良いものの、CWC等で渡航予定のある方は注意が必要だろう。
パスポートの申請と受取、各種チケットやツアーの手配、サウジアラビアリヤルへの両替、給電プラグ等現地で使用する物、海外用Wi-Fiの調達、諸々の準備を済ませ、久しぶりの海外旅行に高鳴る胸を抑えきれず、少し早めに空港へ向かった。
評判がまちまちなフィリピン航空は初めての搭乗。
時間も時間なので早めに瞼を閉じる。到着も現地時間の朝だし。
何より、このフライトの後は数時間のトランジットと10時間以上のフライトが待っている。少しでも体力は温存しておきたいのだ。
重さを増す両瞼の重力を自然に任せ、少し息を吐いて眠りに就いた。
「ベフオァティキン?」
めちゃくちゃ訛りの効いた「BUMP OF CHICKEN」みたいな言葉で目が覚めた。なんて???
「ベフオァティキン??」
「(あぁ機内食か…)ビィェフ」
「オケィ」
完食したトレーを下げてもらい、ドリンクを一口含む。
「なんかワクワク度増してきた」
あまりにも日常からかけ離れたこの瞬間を楽しむ準備と覚悟がある程度整ったところで、眠気の第二波が到達する。少しでも寝ておこう。本当にこの先は、何が起こるか分からないのだから。
日本時間明朝、「世界最悪の空港の一つ」とも例えられるニノイアキノ空港に、我々は降り立った。
紙 を 流 す タ イ プ の ト イ レ じ ゃ な い 事 に 紙 を 流 し て か ら 気 付 く
水 圧 ク ソ 強 お し り シ ャ ワ ー
な ん か 自 動 で 紙 が 出 て く る や つ
カオスだ。カオスが始まった。
因みに空港に着いた瞬間からターミナルに行くまでのバスもめちゃくちゃ延発した。何だったのあれ。
ただ、こんなエピソードも。
あの時のおっちゃん元気かな。あのゲスい笑い方すごかったな。何人か振り向いてたもんな。
「あんなヤバそうな空港でリヤド便の時間まで何してりゃええんや……」という出発前の不安はどこへやら、ターミナル間移動こそ出来なかったものの、久しぶりに海外らしさを味わえて個人的には楽しく過ごせたと感じている。
さて、これから飛ぶキング・ハーリド国際空港から宿泊先のホテルまではタクシーで行く事になるのだが、事前に調べていた情報によるとぼったくりタクシーが横行しているとの事で、複数名での配車をお勧めされている。
今回は本当に運良く「リヤドの空港からホテルまでタクシーをシェアしませんか?」とのツイートを拝見し、そちらの方々とタクシーをシェアする事になり心底安堵したのだが、今後渡航する予定がある方は、空港まで個人で行ったとしても空港からはシェアして向かった方が良いだろう。
サウジアラビアではUberを配車すれば現金でも支払い可能な場合が多いので、是非ご活用頂ければ。
長いフライトをようやく終え、遂にキングハーリド国際空港、もとい決戦の地リヤドへと降り立つ。
個人的に最も懸念していた事柄であった入国審査はあっさりと通過し(鞄の中やスマホ、タブレットの中も見られる事は無かった)、ほっと胸を撫で下ろす。良かった、指とか失わずに済んだ。
そもそもどんな感じで検査とかしてるのか、とその場に目をやると、すっげぇ眠そうなおっちゃんがぼけ〜〜とX線の画面を見ているだけだった。おい。
気を張るも拍子抜けした自分は、ニノイアキノ国際空港で知り合ったレッズサポご一行の皆さんと共にタクシーをシェアさせて頂き、宿泊先へと向かう。
「サッカーよりもクリケットが好きかな」と話すUberの運転手は、上機嫌に車を飛ばしている。
初めて見る街並み、初めて聴く車内のBGM、異国情緒はこの時点で溢れんばかりだ。
この後に幾度と会う事になるレッズサポご一行の方々と一旦別れ、予約したホテルへのチェックインを済ませる。
日本との時差は約6時間。
機内で散々食って寝るを繰り返してはいたものの、やはり移動の疲れは抜けていない。ベッドに横になると眠気は一気に訪れた。
ホテルのチェックアウトはお昼過ぎの2時なので、次の日は部屋で寛ぎつつ周辺を散策する事とした。
翌朝。
変な時間に寝て、変な時間に食べてを繰り返した為か、時差ボケを然程感じる事なく起床する。
朝食バイキングに胸を高鳴らせ、食堂へと向かった。
満腹で部屋に戻り、少し寛ぐ。
普段は付けないTVに目をやると、夥しい数のチャンネル数に目を奪われた。
中にはアニメ専門のチャンネルもあり、興味本位で付けたが、何故かアラビア語でアフレコされていたベイブレードが放映されており、内容が一ミリとて入ってくる事はなかった。
画面から外に目をやると、少し曇天がかった様子。
ジメジメした日本の暑さとは違い、カラッと暑いこちらの気候を考えると、付近を散策するなら今のうちが良いだろうと思い立ち外に出る。
街中を歩く人は疎らで、移動はもっぱら自家用車かタクシー等の配車がメインな為、横断歩道は少なめだった。
その為車道を横断する必要があった訳だが、これが中々に難易度が高い。何とか隙を見つけて渡りはするものの、車もスピードを出している事が多く、多少の危険を伴う。
ある程度散策を終え、荷物をピックアップし次のホテルへと向かう。
チェックイン時にホテル側のシステムの問題で手間取るも、今回の観戦ツアーでお世話になる西鉄旅行と別行程の観戦ツアーを組んでいるHISの両旅行会社のスタッフのお陰で無事にチェックイン。その節は本当にお世話になりました。心より感謝申し上げます。
前泊のホテルよりも広い部屋に目を丸くしながらも、明日に控えた一つ目の決戦に備え、夜までのんびり過ごす事にする。
すぐ下にはプールも併設されており、「今度来た時は入ろうかな」と耽りながら視線を移すと、何と外は雨天ではないか。
「1ヶ月ぶりの雨だよ」ホテルマンは簡単な英語で教えてくれた。
やべ〜……同名の某雨男マスコットと同じ事しちゃってる〜〜……。
思ってたよりも勢い付く雨量に若干引きながら、軽食にと購入したビスケットを摘む。
と、ここでDiscordの個人チャットで、サウジアラビアのレッズサポの友人から連絡が入る。
「友よ!リヤドに着いたんだね!この後会えませんか?」
時刻は午後8時頃。日本時間では深夜の2時頃だ。
試合に備え早く眠りに付きたい気持ちもあったが、折角の機会を無駄にする訳にはいかない。合流する場所を教えてもらい、Uberを配車し向かう事にした。
ぼく
「どこに向かえばいいの?」
友人
「ここ!」
ぼく
「はえ〜分かった!向かうね!」
な ん か す げ ぇ 所 来 た 。
もう開いた口が塞がらない。なんかとんでもない所に来ちゃった。
因みに空港からタクシーをシェアしてもらった方々ともここで再会。まさかの同じ人と会うとの事。いやそんな事ある???ここサウジアラビアだよ???
店内は結構な人数で盛況しており、人気ぶりは伺えた。
何より、初めて日本人と話したと言っていたサウジのオタク女子の皆さんが、本当に嬉しそうに我々と話して下さったのが印象深かった。
広い広い施設内を巡り、次に向かった先はアル・ナスルのファンショップ。
ただ、その対面にはなんとヒラルのファンショップが。
「オラワ!!!」
「オラワッッ!!!」
ナスルのファンからは歓迎される一方、
「3-0!ヒラーーール!!」
「オラワ!スモール!ヒラール、ビーーッグ!!」
ヒラルな方々からはこう言った歓迎の煽りも頂戴した。
ただ、誰もが憎しみを込めている訳でもなく、純粋に「ウチのが強いんだぜ!」的な感じであり、純粋にフットボールの文化としての煽りだったと感じている、いいなぁこういうの、って思っちゃった。
だからこそ、必殺魔法呪文「ラファエルシルバ」と返した時の彼らの表情は面白みがあった(勿論、それに対しても煽り返されたけど)し、より一層負けたくないな、という気持ちが高まった瞬間でもあった。
濃密過ぎる時間を堪能し、明日に迫った決戦に備え一足先にホテルへと戻ったレッズサポ一行。
空港からホテルへと向かった時と同じようにタクシーをしシェアし、「また明日!」と別れていった。
4月29日。
朝食を食べて部屋で寛ぐ。外は快晴。
集合時間までは余裕があった為、お昼はどこかに食べに行こうと思い立ち外に出た。
ホテルから少し歩いた所にチキンバーガーショップを見つけ、拙い英語でなんかデカそうなやつを注文した。
どうやらポテトにバンズが付いてくるのはあちらの仕様だそうな。えらくボリューミーな昼食になってしまったが、この後の事を考えるとこの位食べておいた方がいいだろう。
昼食後、散歩がてら昨日とは別の小売店を覗いてみた。
水道水は飲用を推奨されていない為、ミネラルウォーターを購入する必要がある。
スタジアムでも飲料水ならば持ち込み可能との事だったので、その分もここで調達しておく。
スタジアムまでのバスツアーの集合時間が迫り、気持ちを切り替えスタジアムへの準備を進める。
敢えて前回対戦した2019年の決勝のハイライトを視聴し、「2度とこうなって溜まるか」と心の中で呟き、身支度を済ませ部屋を出る。
ウォームアップで選手達が入場する。
地鳴りのようなブーイングや金切り声の様な指笛、それに続く中東特有の拡声器を使った応援。
心底求めていた「完全アウェイ」がそこにはあった。
「絶対にこいつらを黙らせてやる」
試合開始のホイッスルは聴こえなかった。気付いたら選手達がボールを追いかけていた。
無我夢中。あの場にいた浦和レッズ全員がそうだった。
いや、試合を観ていた全員がそうだっただろう。
三つ目の大きな星を掴み取る最後の試練が幕を開けた。
前半早々に先制点を献上したものの、何とか最小失点で前半を折り返す。
「全然やれる、大丈夫」
目の前に大きな旗が2本振られていた為に詳細は見えていないが、恐らく自分も、周りも、全員がそう感じていたと思う。
後半が始まってすぐの53分。
興梠が一本の縦パスに抜け出した、様に見えた。
それは、カメラのシャッターを切る様な感覚で自分の目に映った。
揺られる大きな二つの旗から、再びピッチが見えた瞬間。
浦和のエースのシュートは、ネットに突き刺さった。
「まだ同点だ。勝ちに行くんだ」
余りにも大きな1点は我々の心にもある程度の余裕を齎した。
その後も何とか耐え続け、1-1で決勝の1st Legを終える事が出来た。
何とか凌いだ。何とか繋いだ。
大きな大きな自信を胸に、大声援で選手達を向かえる。
一方、対岸の青いチームのファンは静寂に指笛、ブーイングと様々な反応だった。
彼らの殆どは「ヒラルが勝つ所を見に来た」層が大半だったのは目に見えて明らかだった。
試合前にACLのトロフィーのレプリカをこちらに見せつけ、「これが欲しいんだろ?」と煽り立てていた緩衝帯の向こう側の青いシャツのおっさんは既にそこに居なかったし、緩衝帯の柵に張り付いていた子供達は恨めしそうに、誇りを示し続けたこちら側を眺めていた。
スタジアムを出て、昨日と同じくサウジのレッズサポの友人と談笑する。
浦和レッズは世界を目指しているし、その為には世界中にファンやサポーターが欲しいと常々思っているので、彼の存在は本当に大きかった。
「必ずまた会おう」
「日本で待ってるよ」
「絶対に優勝するよ」
何度でも握手と約束を交わした僕らは、優勝を誓って別れていった。
翌日。帰路に着く日がやってきた。
と言っても日を跨ぐので、「今日帰るんだな」というよりも「寄り道するんだな」と言った感覚だった。
案の定、空港までのバスまで時間があった為、街を散策する事にする。
という訳で、かねてより計画していたトランジット暇つぶし作戦は失敗に終わった。
とはいえこのままだと埒が開かないので、空いていた充電スポットでタブレットを開き、試合のハイライトや埼スタでのパブリックビューイングの様子を観たり、あとなんか適当な動画を観ながら時間を潰す事にした。
カフェでお世話になった旅行会社の方と少し喋ったり、各々の時間を過ごしていると、搭乗案内の放送が流れる。
リヤド→マニラの十数時間のフライトに比べたら、マニラ→羽田は全然余裕だ。
サウジの友人から頂いたコーヒー豆を、念の為免疫検査に持って行き無事に通過。
遅い時刻に到着した為に公共交通機関は軒並み運転をしていないものの、事前に配車しておいた空港定額シャトルの出発まで羽田でだらだらと過ごす。
ただ、この選択は間違いだった。
日本に帰って安堵したのも束の間、まさかの座った座席のシートベルトが壊れており、その案内もなく車は高速道路をすっ飛ばし、日本語が不自由な運転手の車は道を幾度と無く間違え、信号を無視しかけたり青信号でも出発しなかったり。挙げ句の果てには交差点でバイクと事故りそうになったり……。
サウジアラビアのタクシー運転手の方が何倍もまともだった事を母国で知る事になるとは思わなかった。nearM◯は2度と使わないだろう。
さて、そんなカオスが煮詰まったサウジアラビア遠征は予定時刻よりも2時間近く遅れ、早朝4時半に自宅に到着した事を持って終了となった。
その後は皆さんはお分かりの通り、浦和レッズは3度目のアジア王者に輝いた。
2019年のあの日から悲喜交々、紆余曲折を経て果たしたこのリベンジマッチは、きっと今後も語り継がれる事になるだろう。
更に、今度は世界一を目指す闘いが待っているし、国内のタイトルも全て勝ち取りに行きたい。
また一つ、一生忘れられない宝物をくれたこのクラブと共に、これからも共に生きていきたい。
最後に。ホテルのチェックインや様々な面でお世話になった西鉄旅行、HIS両社のスタッフの皆様、タクシーのシェアなどでお世話になったレッズサポの皆様。
そして、遠くサウジアラビアからいつも浦和レッズを応援してくれている親友のAmjedさんに、大きな感謝をお送り致します。本当にありがとうございました。
何より、ここまで読んで頂いた皆様にも厚く御礼申し上げます。
12月にはCWCが同じくサウジアラビアで開催される予定の為、ほんの少しでも何かしらの参考になりましたら幸いです。
さて、これを書き上げた日はリーグの広島戦の開催日。
今日もスタジアムで魂を送りましょう。