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教室から消えた沖縄の歴史・仲原善忠原著『琉球の歴史』(上・下)を読む~第18章 廃藩置県(下)⑤

5.明治維新と沖縄の廃藩置県

【解説】
 沖縄の歴史を語る時に、事実を無視して日本が悪い、アメリカが悪いという傾向があるのは周知の事実だが、それはどこからくるのだろう。もちろん、被害者史観を叫べば金が転がり込むということが大きいのだろうが、無知からくる事実や時代背景を無視した感情論もある。仲原は、その無知の部分を歴史教育を通じて、何とか是正しようとしていたのだと思う。教職員組合はそれが気に入らないから、この本を抹殺したように思うのだ。穿ち過ぎだろうか。
 事実を知るということももちろん重要だが、もう一つ、日本・アメリカ悪玉論に騙される人に共通しているのは、想像力の欠如だ。
 もしも、琉球処分がなく、清国領になっていたら?
 県民は王国時代の苦しみを引き継いでいたのだ。しかし日本が日清戦争に勝って結局割譲されることになるのだが、その場合には、県としてではなく、文字通り外地、つまり、植民地として遇されることになるのだ。その方が良かったのか?
 この先は、自分で想像してもらおう。
 冷静な仲原の筆致は、県民に対して「想像力を掻き立てよ」と勧めているように、筆者は思うのだ。

【本文】
 沖縄の廃藩置県は、本土の明治維新に匹敵する社会の大変動でした。
 本土では、戊辰戦争から西南戦争までの間に2万数千人の死者が出ています。しかしこれは、フランス革命やロシア革命に比較すると、桁違いに少ない犠牲者です。伝統や文化を完全に否定することなく、それまで君臨していた武士階級が、武士による政治を破壊して新しい国づくりをした明治維新には、最初からから革新的な空気がみなぎり、制度を改め、産業を起こし、欧米の新しい教育文化を取捨選択して取り入れたので、社会進歩の速度は、非常に早いものでした。
 これに比べると、沖縄の廃藩置県は随分と異なっています。改革の中心は、本土のように下級武士ではなく、ましてや百姓でもなく、東京の明治政府でした。しかも沖縄が関わったのは、政府の命令に対する上層部による愚にもつかない、自らの既得権を守るためだけの嘆願文や弁解だけです。
 沖縄では一発の銃声も聞こえず、ひとりの死傷者もありませんでした。沖縄を解放し、近代化を進めていこうという革新の機運は、政府の官吏の側にあっただけで、沖縄からは何の反応もありませんでした。
 これは、その後の、沖縄の進歩の速度をきめる重要な要因となったのです。
 ともあれ、沖縄の人々を苦しめていた支配階級の中心となっていた人々はその地位を失いました。しかし、これら人々の多くは、明治政府によって生活を保証され、相変わらず沖縄社会において勢力と富を独占し、機会があれば、元の地位を取り戻したいと考えていたのです。
 残念ながら新生沖縄県は、このような状態から出発したのです。

【問題】
 一、清国との関係を断ち切ることは、人々にとって、かえって利益になりました。どうしてでしょうか。
 二、沖縄の廃藩置県が遅れた理由は何でしょうか。
 三、頑固党の主張をどう思いますか。

【原文】
 沖繩の廃藩置県は、明治維新とくらべられる大変動です。しかし、又いろいろ、ちがった点もあります。
 明治維新が成功するまでには、国内で、はげしい争があり、大きな武力闘争も何回となく行われ、数万人の死傷者をだしています。
 古いものをたおし、新らしい(ママ)者が代って出て来るためのたたかいです。そのため、国内には、さいしょから革新的な空気がみなぎり、制度をあらため、産業をおこし、欧米の新らしい(ママ)教育文化を取り入れ、社会進歩の速度は、ひじょうに早かったのです。
 沖繩の廃藩置県は、これにくらべると、その性質がたいへんちがいます。ここでは、改革の中心は、沖繩の下層社会―百姓、下級士族―ではなく、とおい所にある東京の新政府です。そして、それは、政府の命令と、旧政庁を中心とする人、の嘆願文のやりとり、政府官吏の説明と三司官等のべんかいがあっただけです。
 一発の銃声もきこえず、一人の死傷者もありません。革新的の情熱は、政府の官吏にあっただけで、沖繩自身からはもえあがっていません。
このことは、そのあとの、沖繩の進歩の速度をきめる重要な原因となります。
 支配階級の中心となっていた人々は、その位置を失いました。
 しかし、この人々は生活を保証せられ、社会的の勢力と富をもち、機会があれば、もとのような位置にもどろうとしていました。
 沖繩県は、ざんねんながら、このような状態から出発しました。
【問題】
 一、中国とのかんけいをたち切ることは、人民にとっては、かえって利益になりました。どうしてですか。
 二、沖繩の廃藩置県がおくれた理由を二つ三つあげてみなさい。
 三、頑固党の人、の主張をどう思いますか。

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