
すっぴんセブン
私は東京で、コンビニ沼にはまった。
一人暮らしを始めてそこそこの頃はまだ、多少意識を高く持っていたから、朝ごはんだって休みの日の昼ご飯だってしっかり自炊していた。飲み物だって実家みたいに麦茶をパックと水から作っていたし、生活必需品も大きなスーパーまで出向いていた。
でも1年も経たないうちに、その全てを済まそうと思えばコンビニで済ませられることと、その楽さを覚えてしまう。まさにコンビニ沼である。
特にひどかったのは就活が本格的に始まる3年後期から4年前期にかけて授業が少なくなったころ。自分の心にも余裕がなくなって、学校にも通う習慣が無くなったからコンビニ沼は加速した。
そういうわけで、家から一番近くにあるセブンイレブンには大変お世話になった。そこにはもう、もう毎日レベルで足を運ぶようになっていった。就活の課題が終わらず、深夜にモンスターエナジーを買いに行ったり、アルバイトが長引いて立ち仕事を終えた自分へのご褒美にスイーツを買ったことも数えきれない。
それくらい通うようになると、どの時間帯にどのスタッフがいるかをだいたい把握できるようになってくる。夜も朝もいるイケメン風で語尾が少し上がるおにいさんはおそらくあの店舗を回す上で欠かせない人材だったに違いない。ショートカットが似合うママさんスタッフは平日の朝だいたい入っていた。逆に深夜になると、少しいかつい男性と外国人スタッフの割合が多かった。
だんだん通っているうちに、なぜだか実家のような安心感が生まれた。自分を着飾ることを忘れ、寝起きのスウェットに眼鏡、髭も剃らずに行けるようになってしまった。寝ぐせのつきやすい頭だけはかぶり古したニット帽で隠す程度で。
その店舗のブラックサンダーとカップヌードルとパルムの入荷量がもし他の店よりも少しばかり多くなっていたのだとしたら、それはきっと私のおかげだ。
そんなこんなで東京での暮らしも終わりがみえて、引っ越しを1か月後に控えたくらいのある日のこと。ナナコ加入が面倒くさくてずっとキャンペーンを断り続けて何度目かの時、ママさんスタッフにこう言われた。
本当に大丈夫ですか?いつもいらしているので
と。
そこで初めて、自分が常連と認識されていたことを意識してしまった。当然といえば当然なのだけれど、言われて初めて、何一つ着飾っていない姿で認知されていたことが途端に恥ずかしくなった。
それから残りの一か月、そのセブンには一度も入ることが出来なかった。ママさんスタッフはそれから一度も姿を見せない野暮な芋大学生のことを、不思議に思ったりしただろうか。今思えば思春期の中学生のような拗らせを起こしてそれすらも恥ずかしいくらいだ。
コロナが落ち着いて東京に行ったら、1回くらい飲み物でも買いに寄ってみようと思う。でも、万が一にもバレたくないから、研ぎ澄まされたガチガチオールバックで行ってしまうかもしれない。不慣れなオールバックを作ったら、逆に目立ちそうだけど。