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ボケとツッコミとプレイヤー『珍道中!!ポールの大冒険』

割引あり

『珍道中!!ポールの大冒険』は2009年2月9日にセガからリリースされたWii(Wiiウェア)用のゲームソフト。価格は500Wiiポイント。

『珍道中‼ポールの大冒険』/SEGA,2009

本作は1980年代ファミコンの2Dアクションゲーム、とりわけ『スーパーマリオブラザーズ』をパロディ化したようなゲームだ。
「悪の組織にさらわれたヒロインを救うために冒険者が世界を飛び回る」というバックストーリーはいかにも類型的で、プレイヤーは見かけオーソドックスな2Dジャンプアクションを進めつつ、ゲーム中に仕込まれた「ネタ」を発見していくこととなる。

ビデオゲームそのもののパロディという趣向はゲームに限らずさまざまなメディアで見られ、本作リリース時点の2009年でももはや常套化した手法となっていた。そんななか本作が特徴的だったのは、ネタを発見した際に音声付きのツッコミとテロップが入るという点だ。

「珍道中!!ポールの大冒険」紹介映像

SEGA公式YouTubeチャンネル

こうしたテレビ的な表現の根底には、お笑い芸人の陣内智則氏が「エンタの神様」で披露した映像を使用したコントや、お笑いコンビ「よゐこ」の有野晋哉氏が出演するCS放送のゲーム番組「ゲームセンターCX」といった日本のお笑い・バラエティ番組に通ずるものを見出せる。

教習所の運転シミュレーターを題材とした陣内氏の代表作。ゲームを由来としたネタも盛り込まれている。
後年開設されたYouTubeチャンネルにはゲーム実況動画もアップされている。

YouTube 陣内智則のネタジン

ゲーム実況番組を人口に膾炙させた草分け的な番組。のちに番組自体がニンテンドーDSでゲーム化された。
ゲーム版はレトロゲームをオマージュ、プレイ中に有野氏の音声が入るといった点で本作と相通ずるが、隣でプレイヤーを見守るかのような有野氏の立ち位置は本作とは幾分異なる。

 YouTube ゲームセンターCX 20th チャンネル

本作はそうしたお笑いのエッセンスを導入したゲームであると同時に、動画配信によって隆盛しはじめたゲーム実況にゲーム側が自己言及したものともいえる。

右下に表示されているのが発見したネタ数。
本作のネタは元芸人の遠藤敬氏をはじめ3名の放送作家が考案。ツッコミ音声も遠藤氏が担当。

全6ステージに仕込まれたネタの総数は100個。最終ステージをクリアするというゲーム進行上の目的は存在するものの、それ以上にステージ内に仕込まれたネタ探しこそ、プレイヤーがゲームをプレイする動機となる。
ネタ探しをメインとする構成ゆえ、ゲームとしての難易度は低く抑えられ、ステージセレクトも可能となっている。一度見たネタはそう何度も見ておもしろいものではないが、まだ見ぬネタを収集するためクリア後もステージを繰り返しプレイするのが本作の基本的な進行となるだろう。

一度見たネタはギャラリーにアーカイブされる

本作のレーティングはCERO:B(12歳以上対象 セクシャル・暴力)で、下ネタのほか、出血を伴う比較的キツめのバイオレンス要素がある。残機を失う死亡ネタも少なくないが、大方その付近には1UPアイテムが置かれており、ユーザーフレンドリーではある。

『珍道中!!ポールの大冒険』というひとつのゲームのなかで、レトロ調2Dアクションはボケを、音声を伴ったテロップはツッコミをそれぞれ担当しながらも、両者は異なるレイヤーにある。
「ゲームがボケ、ゲームがツッコむ」というあらかじめ構築されたメタな関係の外側で、プレイヤーは主体的にキャラクターを操作可能であるにも関わらず、その立場は傍観者として留め置かれる。

本作がレトロ調のグラフィックで構成されているのは、小規模タイトル配信がメインとなるWiiウェアというプラットフォームの性質に由来するが、それだけではない。抽象化された記号的なグラフィックだからこそ、明らかにゲームとは異なる外部の人間としてツッコミが存在できる余地が生まれる。
もしもこれが全編を通して現実味のあるグラフィックだった場合には、おそらくまた別の笑いの形態が求められることになるはずだ。

とはいえ時には実写が混じることもある

テレビのバラエティ番組のテロップや録音笑い(ラフトラック)は、視聴者に笑いどころを教えるマーカーだと言われているが、本作のツッコミも同様の機能を持っている。ただし本作のツッコミは、ボケの本分である笑いを催す作用に対して、ツッコむことでゲーム上の意味を与えてしまっているという点が無視できない。

たしかに初めは偶然発見されるネタを素直に享受し面白がるだけでいい。だが、やがてプレイヤーが能動的にネタを探しに行くようになると、ツッコミはそれがゲーム上で用意されたネタか否かを判断するための材料となってしまい、確認という作業へと目的化する。本来ただ受け手の笑いのためだけに埋め込まれたネタが、ゲーム上の承認を必要とし、まるで意味があるかのように思わせてしまうのが本作におけるツッコミの難点だ。

逆にいえばこのゲームの世界においてはボケに対しては必ずツッコミがあるという前提がある。ツッコミがないボケというのは本作の中には想定されていないため、もしボケだけしかなければそれはプレイヤーにとって不気味なものに映るはずだ。

「ボケとツッコミ」は日本のお笑いスタイルのスタンダードとして想起される。しかしビデオゲームにおいてはむしろ、本作のようにゲームの内部にツッコミが存在する事例は特殊だ。

『スーパーマリオブラザーズ』/任天堂,1985

たとえば本作が参照元とした『マリオ』は、取得すると大きくなるキノコ、火球が出せる花、ワープできる土管といった常識を逸脱したものが登場する。
しかしゲームの世界でこれらに対する回答はないし、疑問も差し挟まれない。しかもヒゲ面にオーバーオールの配管工が主人公というのは、冷静に考えればツッコミどころ満載だ。

『ポールの大冒険』のような例を除けば、ゲームが主流としてきた滑稽さとはむしろ、『マリオ』のようにゲーム内にボケとツッコミが同居しない、ツッコミ不在のボケだったのではないだろうか。

『スーパーマリオブラザーズ・ワンダー』/任天堂,2023
最新作に登場する「おしゃべりフラワー」はゲーム内実況者的な役割を持ち、ボケとツッコミを7:3程度の割合で行う異色な存在だ。

ゲームはボケ役に徹し、プレイヤーがツッコミ役を担う。それを他人に伝わるように魅せる手法がまさしくゲーム実況であり、いわばゲーム実況とはゲームとプレイヤーによる漫才である。

本作に散りばめられたネタの数々は、プレイヤーが何に期待してゲームをプレイするのかを示している。そしてゲーム中にツッコミという存在があることで、ゲームとプレイヤーがいかなるコミュニケーションをとってきたのかが、意識の上に浮かび上がる。

こうした遊び方が望まれたかはともかく、本作がネタとして作られたゲームであることは確かだ。ボケをかましてきたゲームに対するツッコミとして、この記事を以って応答してきたが、いい加減ここらで止めさせて貰います。

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(2023/11/04)

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