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遠くにドンドコ太鼓の響き、近づく囃子、祭りがきたよワッショイショイ。出し惜しみなしのお祭りアクション『御伽活劇 豆狸のバケル~オラクル祭太郎の祭難~』

割引あり

御伽活劇 豆狸のバケル~オラクル祭太郎の祭難~は2023年11月30日にグッド・フィールからリリースされたNintendo Switch用アクションゲーム。

お祭による日本征服を企むオラクル祭太郎の手によって一年中お祭騒ぎになってしまった日本を舞台に、タヌキの主人公・バケルが日本全国を巡り、“悪祭退散”を目指す。登場するステージは47都道府県。一寸法師、金太郎、浦島太郎、桃太郎といった日本のおとぎ話をモチーフに、SFを加味した世界設定が特徴だ。

バケルはタヌキ族と呼ばれる種族の少年。本来は豆狸の姿だが、特技である「変化(へんげ)」の能力を用いて人間の姿に化けることできる。ある日、オラクル祭太郎一味に追われていたイッスン族のすんを助けたことがきっかけで、すんから祭を鎮めることを頼まれる。どうにも乗り気になれないバケルだったが、タヌキ族の長老の叱咤とすんの懇願を受け、いやいやながら諸国漫遊の旅に出る。

鳴り響け 悪祭鎮める払羅太鼓-バケルの基本アクション‐

本作はステージクリア型の3Dアクション。ジャンプで足場を乗り移っていくプラットフォーマーの要素もあるが、どちらかといえば敵を積極的に攻撃して倒していく戦闘の要素が強い。

ステージの広さは近年のゲームとしてはコンパクトに作られており、やや遠めなカメラの視点も相まって、斜め見下ろし型の2Dアクションをプレイする感覚に近い。状況に応じて固定カメラとなるシーンや強制スクロールステージもある。場面によっては落下でミスとなることもあるが、足場の端に掴まることもできるため、序盤からジャンプアクションで苦戦することは少ないだろう。

バケルが用いる武器は、邪悪な者にのみ効果を発揮する太鼓のバチ「払羅太鼓(はらだいこ)」。デフォルト状態ではLRボタンにそれぞれ割り振られ、左右の打ち分け、同時押しやタメ打ちも可能となっている。これに防御やダッジロールが加わり、さらにジャスト防御・回避を行うことで払羅太鼓での追撃に転じることができる。

一見すると古典的な作風に見える『バケル』だが、総じてアクション面はスピーディーで現代的な仕上がり。思い通りの操作感覚で、敵が多数出現するシーンではあたかも無双系のような様相さえみせることもある。

スタイルチェンジ バケルの「変化」

バケルの特技「変化」はゲーム内では戦闘スタイルのチェンジとして発揮される。基本スタイルである払羅太鼓を含め全4種の形態に変化でき、それぞれゲームの進行に応じて解放されていく。

すんの力を借りた「イッスン変化」は、小さい体に変化することで、通常では入れない通路を行き来できるようになる。また、ジャンプ中にボタン連打で踏ん張り若干飛距離を伸ばすことができる。ただしいっさい攻撃ができないため長時間この形態でいるのは避けるべきだろう。

力で押し切る「キンタロウ変化」は接近戦で効力を発揮。払羅太鼓ではガードされてしまう敵や体力の高い相手でもなんなく粉砕し、ボス敵の体力を削るのにも有効だ。

遠距離・多数の敵との戦いで役立つ「ウラシマタロウ変化」。釣り竿から相手をホーミングするウキを放ち、ボタンを連打することで近くにいる敵に連続ヒットさせる。

銃によるスピーディーな遠距離攻撃を行う「モモタロウ変化」。地上からは攻撃の届きづらい敵にも狙いを定めることができる。また移動方法がローラースケートを用いたものに変わる。

これらの「変化」は実際に使ってみると役に立つことがわかるし、場面によっては明らかに必要に迫られる場面も出てくる。一方で、戦闘においては基本形態である払羅太鼓でも特に問題なく進むことができる。

こうした点で、わざわざスタイルチェンジを駆使する意義が薄く、「変化」はゲームのシステムに活かされていないのではと感じる部分もある。ただこれはプレイスタイルに幅を持たせているともいえるし、『バケル』はあまり難しいことを考えてプレイする性質のゲームでもないため、現状の「変化」の立ち位置が間違っているとも一概には言いがたい。もし本作に続編があるのならば、より「変化」をブラッシュアップさせたものを期待したいところだ。


諸国漫遊 47都道府県+αのステージ

冒頭でも述べた通り、本作は日本全国47都道府県すべてをプレイ可能なステージにしている。この中には、通常のアクションステージとは異なるシューティングやレースを行うステージも存在する。ほかにも目的地に向かう道中ともいえるステージ、ひとつの都道府県に複数のステージが導入されているパターンも存在し、実質的には47ステージ以上となっている。

ステージのクリア条件は「お祭りタワー」の浄化。ステージ内には「邪気電波装置」というお祭提灯型の装置が点在しており、その力によってお祭タワーを封印している。すべての提灯を破壊し、最後にステージのゴール地点にあるお祭タワーを払羅太鼓で叩くことで「悪祭退散」(ステージクリア)となる。

これでもかとみかんづくしの愛媛ステージ

各都道府県はそれぞれ地域の特色を誇張した造形となっている。なかにはテーマが被っているものがあったり、わかりやすい特色が見出しづらかったのでは?と思われる地域もあるにはある。だが、それでもギミックやステージ構成にひとつひとつ変化がつけられているし、各地方への進行ルートも一面的にはならないように工夫されている。

紅葉映える神奈川・足柄山

基本的にステージクリアまでの時間はおおよそ15分程度で、ステージ数のボリュームに対し、この程度の広さ・長さは適切だろう。こうしたこともあり、終盤まで飽きずにプレイすることができた。

本作のステージ中には収集要素がいくつかある。各地域の豆知識を教えてくれる「うんちく」、名産品がわかる「おみやげ」、ステージ内に隠れた「隠れタヌキ」だ。これらはゲーム上何らかの利益をもたらすことはないが、『アサシン クリード』『ゴースト・オブ・ツシマ』といったシリーズの収集物に歴史資料的な解説がついているのと同じく、ゲーム内に留まらない知識を得るきっかけにもなる。

多分に子どもに向けられたであろう本作において、これは大人から子どもに向けたある種の知育ともいえるし、大人でも知らないようなうんちくや名産品も少なくない。こうしたトリヴィアルな収集物は、知識を誰かに話したり、逆に知らなかったことを調べたりと、ゲーム外の会話や行動へと発展する可能性を持っている。本作は「諸国漫遊」をテーマにしているが、こうした知識を得られる点は、『桃太郎電鉄』シリーズが近年地理や社会科学習のツールとして使われていることともまんざら無関係ともいえないだろう。

愉快で迷惑!オラクル祭太郎率いる「お祭り軍団」を見よ

「お祭り好きの迷惑おじさん」であるオラクル祭太郎。日本全国をお祭りで楽しい国にしたい!という祭太郎の目的は、志こそ立派だがその内実は強制参加。その力はおとぎ話の英雄たちをも洗脳し、彼の率いる「お祭り軍団」は日本全国にはた迷惑な祝祭をもたらす。

作中ではどこまでも騒がしく害をなす連中だが、我々プレイヤーにとってはひたすら目を楽しませてくれる愉快な存在でもある。ステージ内に登場するザコ敵は多種多様。ゲームの進行に応じてその種類は増えていき、多彩な動きを見せる。

キャラモデルを流用したいわゆる色違いキャラも存在するものの、単なる色違い・パラメータ違いに留まらない変更がなされている場合もある。たとえば、だるま型のキャラを流用した雪だるまのキャラであれば、回転しながら雪玉が大きくなっていくといったギミックが追加されており、キャラが配置されるステージに対してふさわしいものとなっている。

また、すべてのお祭り軍団がバケルの阻止に躍起になっているわけではない。砂浜でバカンスを楽しんでいたり、踊りを見物していたりと、彼らは彼らでお祭を楽しんでいる姿が散見される。こういった賑やかな光景は、敵を倒すのが忍びなくなるほどプレイヤーを楽しませてくれる。

敵キャラの配置ひとつでちょっとしたストーリー性を感じさせる、元々のモーションを流用することで別の意味を表現する、こういった手法はかつてゲームの容量や工程の削減のために2Dアクションゲームなどでよくみられた。本作にはそうした古いゲームでみられた技が用いられている。

限られたリソースを活かすこうした手法によって、本作の大量のステージ数が実現したともいえるだろう。総じて本作のキャラ配置のセンスはうまく、賑やかで楽しげな空間を構築している。

全体的に丁寧で遊びやすいが、演出面に不足あり

本作をプレイしていて惜しいと思った部分もある。
一番に気になったのは効果音や振動による演出だ。お祭を題材としているだけあって画面は賑やかなのだが、それに対して払羅太鼓の打撃音や敵を撃破した時の効果音に迫力が不足していると感じる。振動についても同様で、歩いている際に微弱な振動がある割に、敵やオブジェクトに対して打撃を与えた際には振動がある時とない時がある(キンタロウ変化時のみ攻撃時に必ず振動がある)。加えてさほど振動は強くない。
この点、お祭り騒ぎで太鼓を使ったアクションなのだから、わざとらしいほどにド派手な効果音・振動があってもよかろうと感じた。

また、キャラクターやストーリーの面ではおとぎ話という設定もあまり活かせていないと感じた。もちろんアクションをメインとする本作の性質上、滔滔と語ってほしいわけではない。
ただ、オラクル祭太郎やお祭り軍団といった敵方が個性的で強い印象を残すのに対し、すんをはじめ金太郎たちおとぎ話の主人公たちはバケルと戦ったり、変化能力に寄与する程度で、それほど関わり合いがない。
おとぎ話の語りを意識してか会話ウィンドウに「ナレーション」が登場するが、現状の使い方では効果を生んでいるとは言いがたい。

特にすんに関しては、物語上の動機となる実質的なもうひとりの主人公といえるが、バケルと同行している割には印象に残りづらいキャラクターになってしまっている。

すんとバケルは最終的に友情を交わす仲になり、それを描いたシーン自体は悪くない。しかしそれまでの積み重ねが不足しているため唐突さが否めないものになっている。決して会話シーンでのすんの登場が少ないわけではないものの、バケルと時には反目、あるいは意気投合するような紆余曲折を描いたシーンはほとんどなく、いわば本作の最後でようやく彼らは相棒というスタートラインに立てたといえる。

こうした描写の不足はふたりの初めての冒険を描いた一作目として大変勿体無い。終盤、バケルとすんの関係性はオラクル祭太郎と対置されたニュアンスを帯び、見るべきところもあっただけに、この点はいちプレイヤーとしても口惜しさを感じた。

難易度についていえば、ミスしても小判100枚を消費してコンティニューできるし、リトライポイントも複数用意されている。私自身それほどアクションが得意なほうではないが、そこまで難しいとは感じなかった。とはいえ、中盤以降は落下してミスする場面も多くなり、時折あるレースやシューティングステージも極端に苦手であれば苦労するかもしれない。序盤は簡単すぎるのでは?と思ったが、ときおり思い出したように難度上昇が起こる場面もあるため、不意打ちぎみにミスが誘発されることもあるだろう。

『バケル』は『ゴエモン』か

本作を製作したグッド・フィールは、かつてコナミの人気タイトルがんばれゴエモン』シリーズに携わったスタッフが設立したメーカーだ。どことなく『ゴエモン』を思わせる趣の和風アクションである本作は、リリース前から「ゴエモンの精神的続編」のような立ち位置で語られることも多く、そうした期待が寄せられた。それでは、本作は『ゴエモン』のようなタイトルなのか?というと私は異なると思う。

先に断っておくと、私がプレイした『ゴエモン』シリーズは、第一作『がんばれゴエモン!からくり道中』(FC版)と『がんばれゴエモン~天狗党の逆襲~』(GBでリリースされたスピンオフ的なRPG)のみとなる。それ以外では、1997年のアニメ版『がんばれゴエモン』を観ていたくらいだ。
そしておそらく『バケル』の外見や雰囲気から多くのユーザーが見出だした『ゴエモン』らしさとは、SFCでリリースされた『がんばれゴエモン~ゆき姫救出絵巻~』以降のタイトルから感じられるものなのだと思う。

ちょうど多くのユーザーに想起されるタイトル群をプレイしていない自分が両作を比べるのは片手落ちかもしれないが、比較すると『ゴエモン』は横スクロールアクション+RPG的な要素が強く、進行するうえで探索にウエイトを置いたゲームだと感じている。
対して『バケル』は買い物や体力強化ができる部分はあれRPG的な要素はほとんどなく、ステージクリアを目指すだけなら能動的に探索する場面もあまりない。基本的にはただひたすらアクションに集中できる作風だ。つまり探索寄りなのが『ゴエモン』とアクション寄りなのが『バケル』ということになる。

ロボットバトルやシューティングの導入など、バラエティの豊富さという点では両作は共通している。ただし、『ゴエモン』が貪欲に様々なジャンルを取り込み、要素を離散的に配置した放射状の構成だったとすれば、『バケル』は進行上必要な部分だけに絞って他のジャンルを取り入れており、コンパクトでよりリニアな構成となっている。

以上のことから、共通するスタッフによるSF要素のある和風アクション、見た目の賑やかさという面で両作に共通点はあるものの、実際のゲームのプレイ感覚に関しては異なるものとなっている。


出し惜しみなしのお祭りアクション

分散した要素をプレイヤーが選びとり、その総合をもって体験を作り出すゲームも悪くない。コンシューマーの古典的ゲームシリーズだってそうした流れに乗ってきた。しかし本作は最後までプレイヤーにひとつの体験をさせることに徹しており、複数の要素で迷うことはない。
本作には大量のステージが用意されているが、一度クリアしたステージは反復してプレイする必要はない。特段気をつけなくとも、初回のプレイで収集要素は7割方埋まる。
エンディングまで立ち止まらず、振り返らず、寄り道せず。
家庭用の中規模アクションゲームとしては、こうしたつくりのタイトルは近年あまりみられないのではないか。逆に言えば、要素の多い『ゴエモン』タイプのゲームがいまのトレンドということもできる。

一見古典的アクションのようで現代的、しかし端々には昔馴染みの味が滲み出る。『豆狸のバケル』は1度きりのプレイでそのすべてが味わえるノンストップなアクションゲームだ。


ゲーマーコミュニティgame gameにて、YouTube上で本作の座談会を行った。よければ参照されたし。


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(2023/12/30)

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