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【エッセイ】二律背反に程がある

 いるのかいないのか分からない読者諸君、ご機嫌よう。
 本日は自宅で仕事に取りかかるよう指定された日なので、パソコンだけつけてひたすら寝ることに励んだ私だ。無論、その時間も給料に換金してもらう。こんなにも面の皮が厚いのは、ひたすら寝過ぎて顔がむくんだからであろう。生理的な現象なので許してほしい。

 さて、そんな私は最近、仕事の人間関係に悩まされている。とは言っても、職場の先輩、並びに上司のおじさんたちは軒並み穏やかで優しい。それはもう、JUJUにも表現できないくらいやさしさで溢れるように見守ってくれるのだ。
 では、何が問題か。一つ上の女の先輩だ。あいつだけは顔も見たくない。職場には他に不安も不満もないのに、極大の悩みの種が毎日隣の席に鎮座している。この日記を書くのは大抵寝る前だが、あいつのせいで、寝て明日になって仕事に向かうことが憂鬱である。それどころか、あいつが夢に出てくるかもしれないと思うと寝たくもない。この夜を止めてよとJUJUにも縋りたい気持ちなのだ。
 その先輩の何が嫌なのか。分析してみたい。分析することによって明日からの対策を立てよう。悲しみの職場環境を喜びの極楽浄土にすべく立ち上がるのだ。そのために、まずは先日のやり取りを例に挙げて思案を巡らせる。

 私が勤務する会社は、入社2年目になると実務指導員という役割を持つ。2年目は、主に新入社員に仕事を教えることが責務となるのだ。入社2年目の嫌いな先輩と新入社員の私が同じチームで働く。それはもう、交わしたくもない言葉を日に何回も交わさなければならないことを意味するのだ。

嫌いな先輩(以下、嫌)
「じゃあ今日はこの作業教えたいから、キリの良いとこで声かけてな」

私の心の声(以下、心)
「——え、嫌です!絶対に嫌です!あなたに作業教わるなんて、地蔵を背負いながら富士登山するぐらいしんどいです。耐えきれぬ苦痛です。出来るなら他の優しい優しい先輩に教えてもらいたいです。」

実際の私(以下、私)
「はい!今日もよろしくお願いします!」

 嫌いな先輩の監視下で作業という圧倒的地獄の時間が、こうして来る日も来る日も生み出されるのである。


「ここ前に一回教えたと思う」


「申し訳ないです」


「このやり方めっちゃ非効率やから」


「承知しました。直します」


「分からなかったら分からないって言わないと時間の無駄」


「気を付けます」


「——しぃいんどいぃいい!!!!!!!! 地蔵と富士登山の方がまだマシだ!! 一回ちょっと教えたからって完全に覚えられるわけねぇだろ!! まだ仕事始めたてなんだよ、これから効率は学んでいくんだわ!!! 分からなくてもはっきり言えないのは、聞いたら聞いたでそっちが機嫌悪くなるから聞きにくいのが原因じゃろがいぃぃい!!!! 一旦、殴らせろおらぁああ!!!!!!!」


「教えて頂きありがとうございました!」

 以上が、先日の私と嫌いな先輩の会話である。会話というか単純な苦痛の時間である。心の中と実際の言葉がこれだけ乖離していて、それでもなお笑顔で感謝を述べている私のスマイルはきっと1000円ぐらいにはなるだろう。

 冗談はさておき、一計を案じることにした。一番の問題は、私の受け答えが味気ないことにあるのではないか。もっとハッピーでウィットに富んだジョークなどを織り交ぜて楽しく会話しても良いかも知れない。その分析結果を踏まえて、先ほどのコミュニケーションを活発化させてみることにした。


「ここ前に一回教えたと思う」


「残念♪ ちょっと教えた程度のものは一回には数えませんよ!  数字の数え方の摺り合わせからやりましょうか、せーんぱい♪」


「このやり方めっちゃ非効率やから」


「人生なんて非効率の連続さ。効率ばっかり求めてたら人生つまんないよ? まぁ、既につまんない人間になってるあんたに言っても無駄かもしれないけどねぇwwwww」


「分からなかったら分からないって言わないと時間の無駄」


「その時間の無駄は、普段のあなたの態度が生み出しているのです。振り返ってご覧なさい。あなたが後輩に向けて放った小言の数々を。ゆうに100回は超えているでしょう。そのせいで私は萎縮しているのです。むしろその小言を言う時間を削れば、業務に励む時間が増えるはずです。神は寛大な心であなたを許すかもしれませんが私は許しません」


「——やっっふうぅぅーーー!!!!最高だぜ!楽しい!これが極楽浄土か!!」

 以上が理想だが、一生叶わないだろうと思いながら書いていた。

 現状を堪え、臥薪嘗胆すれば、富士登山with地蔵がいつか山頂に辿り着き、予想だにしない大団円を迎えるのか。それとも理想を追い求め、クーデターを起こすかの如く相手にジョーク口撃を浴びせ、極楽浄土を作り出そうとするのか。
 いずれにせよ、同じシチュエーションでこんなにも違う返しをする自分がいるとは……。いつか心のバランスが壊れないか心配である。願わくば、明日よ来ないでくれたまえ。JUJUよ、この夜を止めて。

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