【建築判例百選①建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵】

最判平19年6月7日民集第61巻4号1537頁、最判平23年7月21日集民237号293頁

事案は、ググってください(←まさかの事案説明放棄)。建築紛争を取り扱う弁護士であれば知っていなければならない判例で、というより、学生も知っている判例かと思いますが、建築紛争をやっていない先生だと、実はパッと出てこない人もいます。弁護士になっても継続して勉強し続けることの重要性を感じますね。
近年、消費者側の弁護士は、瑕疵担保責任が除斥期間を過ぎていると、とりあえずなんでもかんでも不法行為だとして主張してくる傾向があるように感じます。それしか法律構成がないのだから仕方ないかもしれませんが、単なる瑕疵担保責任と不法行為責任は違いますので、その点を意識した審理を裁判官にも分かってもらう必要があります。
以下、完全に私見ですが、この最高裁判例について考えていきたいと思います。なお、以下では単に「平成19年判決」、「平成23年判決」とします。

「基本的な安全性を損なう瑕疵」とは

⑴ 概要

上記最判は、ざっくりいうと、不法行為責任における瑕疵概念は、契約責任である瑕疵担保責任における瑕疵概念とは異なり、「基本的な安全性を損なう」瑕疵に限定されるとしています。
単なる「瑕疵」ではなく、修飾語として「基本的な安全性を損なう」ことが要求されているわけです。
この点を無視して、単なる設計図書との違いまで、なんでもかんでも不法行為に該当する瑕疵だ、と主張されると、わざと言っているのか、本当に分かっていないのか、どちらなのかは分かりませんが、審理にも余計な時間がかかるので、不法行為構成しかとり得ないときは、しっかりと瑕疵項目を絞っていく必要があると思います。ところが、訴状の段階では、とにかくなんでも主張してみる、という内容のものが極めて多いです。

⑵ 判例の整理

上記は措き、まず、平成19年判決は、建築瑕疵の不法行為に関し、①設計・施工者等が基本的な安全性に配慮すべき注意義務を怠ったために、②建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が存在し、③それにより、④居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、⑤不法行為の成立を主張する者が瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情のない限り、不法行為が成立すると判示しました。
 
平成23年判決は、この事件の第二次上告審にあたりますが、さらに、「基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、「居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい」、❶「建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず」、❷「当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合」にも認められるものと判示し、基本的な安全性を損なう瑕疵の内容について指摘しています。
その上で、平成23年判決は、❷の瑕疵のうち、構造耐力に関わる瑕疵に関し、❸「当該瑕疵を放置した場合に、鉄筋の腐食、劣化、コンクリートの耐力低下等を引き起こし、ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵」が「基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当するという判断をしました。
 
平成23年判決の「いずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合」のみをフォーカスすれば、結局、不備があれば補修に費用がかかるという意味では、どんな小さな瑕疵でも財産に対する危険は発生し得るということになり、なんでも不法行為にあたってしまいます。消費者側弁護士は、例えば、湿気があるなどという瑕疵現象について、
湿気が高い→家に湿気が溜まる→湿気が溜まるとカビが生えるかもしれない→カビが生えたら健康被害だ
というような論法で不法行為責任に結び付けてきますが、正直無理があると思います。瑕疵担保責任期間を過ぎているような案件で、今更、それだけが原因でカビ生えるなんてことも考えづらいのでは、と思ってしまいますし、これではどんな瑕疵現象でもほとんど不法行為につなげることができてしまいます。

⑶ 分析

話が脱線しましたが、平成23年判決の上告審手続において、上告人は、建築基準法違反の施工が行われた場合に「基本的な安全性を損なう瑕疵」が認められると判断されるべきであるということを強く主張したものの、平成23年判決は、「基本的な安全性を損なう瑕疵」を判断するに際し、建築基準法等の構造に関する法令の仕様規定違反が基準となる旨を一切判示しませんでした。
つまり、法令に反したことをイコール基本的な安全性を損なう瑕疵とは捉えていないということになると思います。
結局のところ、平成19年判決及び平成23年判決は、建物の施工状況が何らかの技術基準の規定に反しているのか、あるいは、法令で定めた特定の仕様規定に反しているのかを区別することなく、これらに反すると認められる場合に直ちに「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」が認められるとは判断するのではなく、建物の全部又は一部の倒壊等の結果、居住者等の生命、身体又は財産という保護法益に対する侵害の危険が認められるか否かを実質的に判断することを前提にしているように思います。
 
消費者側からは、「建築基準法●条に反していること」が、イコール基本的な安全性を損なう瑕疵である、という主張がほとんどであり、その後、具体的な主張がほとんど補充されることもなく、法令がいかに大切かみたいな講釈を延々と論ずる書面がよく出てきます。法令違反がそのまま不法行為に該当するということを前提にされても、上記の判例を意識した主張を展開していることにはならないのでは、と感じるところです。そんなことを聞いているのではなく、法令に違反していると、「では、この建物が具体的にどう危ないの?」が聞かれているのに、それを何も説明しないのでは、議論にならないのです。
 
なお、平成19年判決の調査官解説では、平成19年判決の考え方は、「建築士法又は建設業法の規定違反あるいは建築基準法の規定違反そのものに違法性の根拠を求める考え方とは異なるものというべき」であり、「いわゆる取締法規に違反する事実があったとしても、それだけでは直ちに私法上の義務違反があるとはみられないと解するのが一般的である」等と指摘されており、法令違反がイコール不法行為に該当するわけではないということは明確に示されています。
また、平成23年判決の差戻後の福岡高裁判決は、「一審原告は、建物に対する不法行為責任の成立について、建築基準法及びその関連法令が明記している規制の内容や基準の内容が建物の財産性の最低基準を形成しており、これに反した建物の建築については不法行為となる旨主張するが、上記最高裁の判示によれば、法規の基準をそのまま当てはめるのではなく、基本的な安全性の有無について実質的に検討するのが相当である」と判示しており、この点は議論の前提だと思いますが、法令違反だということをひたすら指摘するだけで、それ以上踏み込んだ立証をしない当事者が非常に多く見受けられます。

⑷ 文献

齋藤繁道編『最新裁判実務体系6建築訴訟』(青林書院)
 同文献では、「単に当該建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があること、すなわち瑕疵現象の存在を主張するだけでは、主張自体失当となる」(同書178頁)と記載されています。
 つまり、「基礎にクラックがある」だけでは、「主張自体失当」という厳しい言い方をしています。クラックがあるから、一体ぜんたい、どうだというんだ、というところまで請求者側が立証しなければなりませんが、実際のところ、ほとんどの訴状でこの「瑕疵現象オンリー」の指摘で止まっています。
これについて、もっと立証するように求釈明しても、「現象がある以上、立証責任が転換する」だとか、「建物にひびが入ることは重大だ」みたいな、全然反論になっていない主張が繰り返されると、とてもうんざりします。
繰り返しますが、現象をいうだけでは「主張自体失当」なんです。

岸日出夫ほか『Q&A建築訴訟の実務‐改正債権法対応の最新プラクティス‐』(新日本法規)
 同文献では、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、「単に建築基準法その他の法令に違反することを意味するのではなく(中略)、居住者等の生命・身体・財産に対する危険性の有無について具体的・実質的な検討がなされるべきである」(同書籍320頁)と記載されています。さらに、同書籍は、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するか否かは、瑕疵の性質から類型的に判断されるのではなく(中略)、居住者等の生命・身体・財産に対する危険の有無を具体的・実質的に検討しなければならないことに留意すべきである」(同書籍321頁)、「個別具体的な事案の下において、客観的に観察して、建物の瑕疵によってどのような危険性が発生し得るのかを具体的・実質的に検討することが求められていることに留意する必要がある」(同書籍322頁)とまで記載しており、立証責任を負うものの立証事項について踏み込んだ記載がなされています。
ところが、実際には、ここに書かれているようなことを意識した上で、しっかりと整理された主張というのをほとんど見たことがありません。

判例の射程

少し話はそれますが、この項目では、判例の射程について考えてみたいと思います。
というのも、この判例が「不動産売買契約の売主」についても妥当するのかには、議論があり得るところだからです。

⑴ 問題意識

どういうことなのか考えてみましょう。
平成19年判決は、「建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの居住者や隣人、通行人等(以下、併せて「居住者等」という。)の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである。そうすると、建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者(以下、併せて「設計・施工者等」という。)は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である」と判示しています。
そう、この判示からも分かるように、平成19年判決は、「設計者、施工者及び工事監理者」について「建物の建築に携わる」ことから、注意義務を肯定しており、「不動産の売主」を当事者とする内容にはなっていないのです。

建物の建築過程からしても、建物の安全性を左右する影響力を及ぼし得るのは、「設計」あるいは「施工(工事監理)」のみであり、「販売」は、単に出来上がった完成物を売るだけの行為です。そうなると、単なる不動産の売主は、建物の「建築」に携わることはなく、かつ、建物の安全性を左右し得る影響力を及ぼし得る地位には、直接にはありません。
そのため、「建物としての基本的な安全性」を論じる前提として、建物の安全性に携わる余地のない地位にある者にも、一連の不動産取引に関与したという理由だけで、責任が及ぶのかというところは、考えておく必要があります。

⑵ 文献

齋藤繁道編『最新裁判実務体系6建築訴訟』(青林書院)
同文献では、「建物の建築に携わる設計者、施工者等といった建築従事者に向けられた最高裁平成19年判決が示す注意義務の内容が、建物の建築に関与しない売主に対してまで及ぶものと解することは困難」(同書568頁)と指摘しています。
この文献は、建築専門部の裁判官が共同で執筆しているものであり、そうだとすると、裁判所としては、平成19年判決の射程は、当然には売主にまでは及ばない、という理解に立っているものと思われます。

岸日出夫ほか『Q&A建築訴訟の実務‐改正債権法対応の最新プラクティス‐』(新日本法規)
この文献においても、「売主が設計・施工者等でない場合」として、「売主が設計・施工者等でない場合としては、例えば、分譲マンションのデベロッパーが設計・施工・監理を他の業者に発注し、自らは販売のみ行っている場合」という例を挙げています。
 その上で、前掲『最新裁判実務大系6建築訴訟』(青林書院)における引用部分を指摘しつつ、「実際的にみても、売主は、建物の建築に発注者の立場で関与するにすぎないので、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の発生につき売主の予見可能性や回避可能性が否定される場合も多いのではないだろうか。」(『Q&A建築訴訟の実務-改正債権法対応の最新プラクティス-』(新日本法規)163頁)と結論づけているところです。
  また、同書には、「売主が施工者らと同様に不法行為責任を負うかどうかについては、平成19年最判の射程は「建物の建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者に限定されており、基本的には否定されると考えられる」(同書籍451頁)としています。
 この種の事案では、消費者側は、当然のように売主にも不法行為責任を追及できるという前提で主張を構成してくることが多いのですが、上記のように、そもそも売主に対して平成19年判決をそのまま適用できるのか、という点については、しっかりと反論していきたいところです。

⑶ 売主に対する責任を追及する法律論

なお、上記で挙げた各文献では、売主の責任を問う法律論がないと言っているわけではありません。

例えば、前掲『Q&A建築訴訟の実務-改正債権法対応の最新プラクティス-』(新日本法規)には、「売主が違法建築を指示した点につき、不法行為責任が発生する余地があるのではないかと思われる」(同書163頁)などとの見解もあるようです。
つまり、売主自身が建築行為にも関与しており、違法建築を施工業者に関与したというような、施工業者と売主を同列に見ることができるような場合には、売主に対する不法行為責任を肯定する立論と思われます。
消費者側の弁護士としては、とにかく売主も施工業者も一体なんだ、というような主張をすることが多いところですが、具体的な事実関係の立証責任は、請求者側にあります。
そうなると問題となっている建築物の設計、施工、監理、販売のスキームを分析した上で、請求者側において、売主について、「いつ」、「売主の誰が」、「いかなる態様で」、「どのような指示」をしたのか、それが「どのような根拠」で注意義務違反を結果するのか、といった点の立証が必要になるのではないでしょうか。

また、「売主も、建物としての基本的安全性を損なう瑕疵があることを認識し得た場合には、設計・施工者等と共に不法行為責任を負うこととなるという見解」もあるようです。
もっとも、同見解には、「平成19年最判の法益侵害の内容を「建物としての基本的な安全性」の侵害とする立場から、売主が建物を売却しただけでは法益侵害行為がないので、不法行為責任を負うことはないのではないかという疑問が提起されている」(『Q&A建築訴訟の実務-改正債権法対応の最新プラクティス-』(新日本法規)、162頁)ようであり、少なくとも上記で挙げた書籍では、いずれも採用しない見解と思われます。
この見解をとるにしても、売主が「建物としての基本的安全性を損なう瑕疵があることを認識し得た」ということについては、請求者が主張・立証責任を負うことになります。そのため、この場合も、どのような理由で、「本件建物について」、売主が、「基本的安全性を損なう瑕疵があることを認識し得た」のかという事情を詳細・具体的に主張・立証するよう請求者側に求めていく必要があるでしょう。

⑷ 参考裁判例

東京地判平成28年3月30日(平21(ワ)24917号)
同判決は、買主が、売主に対し、建物としての基本的安全性を損なう瑕疵があることを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求等をした事案です。
裁判所は、平成19年判決に関する建物の基本的安全性と売主の関係に関する争点について、「被告は、前記前提事実(2)のとおり、本件建物の建築工事につき、請負人たるA、B、C及びDに対して発注した注文者であって、自ら設計、施工又は工事監理を行った事実は認めることができないから、平成19年最高裁判決にいう設計・施工者等には該当しない。」と平成19年判決との関係を述べています。また、「仮に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するとしても、いずれも、請負人たるA、B、C若しくはD又は下請負人たるE等による施工の不良に起因するもの(ただし、その一部は、Bによる設計が建築基準関係規定に適合しないものであることに起因するもの)であると考えられるところ、注文者たる被告において、請負人に対する注文、指図等に本件基本的な安全性を損なう瑕疵との間に相当因果関係のある何らかの過失があったことを裏付ける客観的かつ的確な証拠もなければ、その他に本件基本的な安全性を損なう瑕疵との間に相当因果関係のある何らかの注意義務違反があったことを裏付ける客観的かつ的確な証拠もない。」として、「被告は、本件基本的な安全性を損なう瑕疵によって原告に生じた損害について不法行為による賠償責任を負わない。」と判示しました
 この裁判例では、「注文者たる被告において、請負人に対する注文、指図等に本件基本的な安全性を損なう瑕疵との間に相当因果関係のある何らかの過失があったことを裏付ける客観的かつ的確な証拠もなければ、その他に本件基本的な安全性を損なう瑕疵との間に相当因果関係のある何らかの注意義務違反があったことを裏付ける客観的かつ的確な証拠」を求めており、売主の立場で訴えを提起された場合には、同裁判例をもとに、この判示に沿うような主張・立証を促すことになるでしょう。

東京地判平成27年4月8日(平23(ワ)16956号)
同判決は、買主が、施工業者や売主に対し、不法行為責任に基づく損害賠償請求をした事案です。この中で、裁判所は、買主の主張について「住宅としての基本的性能を備えた安全な建物を販売する義務を負うところ、本件建物には地下排水槽に常時湧水があるという重大な瑕疵があることを知り、または容易に知ることができたのに、これを修補しないまま原告に販売した。」という注意義務違反の構成をとっているものと整理しています。
上記主張に対し、裁判所は、売主に対する不法行為責任の成否について、「確かに、被告は不動産業者であり、宅建業者でもある(弁論の全趣旨)から、通常の調査を行い、そこで把握した瑕疵を買主に説明すべき義務があるといえる。もっとも、本件の瑕疵は、上記のとおり止水が不十分であったというものであり、被告が通常の調査の範囲で認識しえたとは認め難い。」として、売主の不法行為責任を否定しました。
要するに、あくまでも、不具合を売主の立場として認識し得たのか、否か、という観点から売主への不法行為責任の成否を検討しており、物件に瑕疵があることだけで、直ちに不法行為責任が生じるわけではないということです。

東京地判平成25年11月21日(平25(ワ)14102号)
同判決は、マンションの居室の買主である原告が、売主である被告に対し、被告が販売したマンションの居室には建物の基本的安全性を欠く瑕疵があり、その結果、補修工事が完了するまでの間、居室を賃貸に供する機会を失ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案です。
まず、裁判所は、原告の主張について「原告は、被告は原告に対し建物の基本的安全性を損なうことがないように配慮する義務を負担しているところ、本件住戸の天井ボード下地に吊りボルトが設置されていないのは、放置すればそこに生活している者の生命・身体に危険を及ぼすものであり、建物の基本的安全性を損なう瑕疵にあたるから、被告は不法行為責任を負う旨を主張する。」と整理しました。
その上で、裁判所は、「注文主も、建物の安全性に関し具体的な事情に照らして相応の注意義務を負担し、その義務に違反すれば、過失があるものとして不法行為責任を負うことは認められる。注文主に建物の基本的な安全性を損なうことがないように配慮すべき義務が認められる余地が全くないわけではない。」としつつ、個別の瑕疵の問題については、「天井ボード下地の吊りボルトの有無は、基本的に設計者、施工者又は工事監理者が留意すべき具体的な施工方法に関わる事項であり、注文主が確認すべき事項ではないから、注文者がこのような具体的な施工方法に関わる事項についてまで自ら確認すべき義務が発生するような特段の事情がない限り、被告に不法行為上の注意義務があるとはいえないところ、本件においてそのような特段の事情があるとは認められない。」として、原告の請求を棄却しました
単なる売主の地位に留まる場合、「設計者、施工者又は工事監理者が留意すべき具体的な施工方法に関わる事項」についての欠陥についてまで把握するのは困難であり、このような場合には売主には不法行為責任を問い得ない、ということを判示した裁判例と考えることができるでしょう。

東京地判平成25年7月5日(平24(ワ)34030号)
同判決は、被告から自宅敷地及び建物を購入した原告が、同建物の基礎及び敷地擁壁に亀裂が入ったことから、これが被告による不法行為によるものであるとして、損害賠償請求をした事案です。
裁判所は、「一般に、不動産の売主が売買目的物に後発的に生じた瑕疵について、不法行為責任を負うべき根拠は明らかではないといわざるを得ない(なお、最高裁判所平成19年7月6日第二小法廷判決は、建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合、その建築に携わる設計者、施工者及び工事監理者が不法行為責任を負うかにつき判断したものであり、建物の売主の不法行為責任が問題となっている本件とは事案を異にするというべきである。)。」と判示して、原告の請求を棄却しました。
同裁判例は、「建物の売主」との関係では、平成19年判決は事案を異にすることに言及しており、販売主体に対する不法行為責任については、個々の瑕疵について、「売主」としての関与を吟味・分析する必要がある、ということになります。

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