瑕疵紛争と慰謝料
完成した建物に欠陥があったような場合、大抵の消費者は慰謝料を請求してきます。法律相談の場でも、「悪いところは直したのに、慰謝料を請求されているんです。どうしたらいいでしょうか」という相談は、とても多くみられます。実際にかかったお金と違って、慰謝料は明確な金額が算出できるわけでもないので、請求する方もされる方も、落としどころが分からないまま、とにかく高額を請求されて困っている、という場面を目にしてきました。
1 「財産的損害」は慰謝料請求できないのが原則
物の瑕疵に関する損害は、「財産的損害」であることから、修理によって財産的価値が回復する関係にある以上、物の瑕疵に対する補修費用ないし補修工事そのものをもって、その財産的価値は填補されるというのが一般的な考え方です。
つまり、ある物に瑕疵がある場合でも、補修工事を実施するか、補修費用相当額の支払をすることによって、基本的には損害は全て填補されるという考え方がスタートにあるのであり、別個に精神的損害を請求することができるのは、特別な事情がある場合に限られます。
この点をお互いによく分かっていないので、顧客から慰謝料を請求され、言われるがままに高額な支払をしてしまったという相談も目にします。一度払ってしまった以上は、合意して払ったわけですから、後から返せというのは主張が困難です。請求を受けた時点ですぐに弁護士に相談した方が無難です。
基本的に任意交渉のスタートしては、よっぽど事業者に不誠実な事情がない限りは、私個人は「払わなくていいのでは」という意見を述べることの方が多いです。
2 財産的損害と慰謝料に関する裁判例|最高裁平成15年12月9日判決
上記判例は、火災保険契約の申込者が、契約締結の際に保険会社から説明不十分な点があった、などとして慰謝料請求の可否が争点となった案件につき、「地震保険に加入するか否かについての意思決定は、生命、身体等の人格的利益に関するものではなく、財産的利益に関するものであることにかんがみると、この意思決定に関し、仮に保険会社側からの情報の提供や説明に何らかの不十分、不適切な点があったとしても、特段の事情が存しない限り、これをもって慰謝料請求権の発生を肯定し得る違法行為と評価することはできないものというべきである。」と判示しており、「財産的利益」に関わる事項については、特段の事情がない限り、慰謝料請求権の発生を否定しています。
そのため、個別の事案で慰謝料の支払をする必要があるか否かは「特段の事情」を検討していくことになるわけです。
3 住宅に対する裁判例
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?