消費減税に対するスタンスを物差しにした各党の経済施策の評価(衆院選2024)
2024年10月19日
本業で子ども向けの金融経済教育事業にいっちょ噛みしないといけなくなりました。
中小企業の財務が私の専門で、経済という分野に関しては専門外なのですが、色々とあって。
不慣れな分野ですし、当たり障りのない記事を書くことで頭の中を整理してみようと思い、書きました。
とりあえず今回の衆院選で争点の一つになっている経済施策について、消費減税に対する各党のスタンスを一つの物差しとして評価してみました。
評判が良ければまた別のテーマでも書きます。
1、 各党の消費税に関する考え方
このニュースが割とわかりやすく各党の経済に対するスタンスをまとめています。
与党はこれまでの立場もありますし、立憲も自らで消費税引き上げを決めた経緯もあるので、消費減税には言及していません。
その他の党は概ね大なり小なり消費減税を主張していますが、特に目立つのがれいわの「廃止」、共産の「時限的廃止、当面5%」社民の「3年間ゼロ」です。ここには出ていませんが参政党もそれに近い主張の様子です。
2、消費税の機能について
『悪者』のような扱いの消費税ですが、税制として優れている部分も大きいということは認識する必要があるでしょう。
① 消費税の特徴
消費税はすべての消費者が支払うため、非常に広い範囲で税収を集めることができます。所得に関係なく、消費する全員が対象になるため、税負担が分散されるのが特徴です。
また消費税は事業者が消費者から直接徴収し、政府に納めます。所得税のように、誰がどれだけの所得を得ているかを把握する必要がなく、徴税コストが低く、税収の漏れも少ないです。
その上、経済が安定している限り日常的に発生するため、安定的に確保できます。特に、消費行動は所得や法人の利益と比較して波が少ないため、政府としても予測しやすい収入源となります。
ちなみにインボイス制度には功罪ありますが、適格請求書の存在により消費税の捕捉精度はさらに上がりました。
② 現役世代の負担の相対的な低さ
消費税は所得にかかわらず全消費者に課税されるため、現役世代だけに過度な負担を集中させません。現役世代だけでなく、高齢者や資産を持つ人々にも平等に課されるため、良くも悪くも税負担が分散されます。
話が少しそれますが、立憲の「消費税相当額の一部を中低所得層に給付という形で還付する」という消費税の平等性をあえて崩す施策は、「インフレ率を2%超ではなく0%超にする」という目標も相まって、定額収入である年金に頼っている高齢者にとって有利な施策です。
厳密には物価等が上がれば年金支給額も増えますが、後者が前者に追いついておらず、年金が実質目減りしているという状況も踏まえると、わからなくもありません。
しかし現役世代の負担を顧みずに高齢者に重視するその姿勢は、分派した国民民主の「現役世代の手取りを増やす」とは真逆であり、こういったところに各党のカラーが出て中々面白いと思います。
③ 他の税収による代替の難しさ
所得税や社会保険料は主に現役世代から徴収されるため、これらの税が増えると、現役世代の負担が直接的に増加します。
法人税も企業収益を削りますので、間接的にそれが現役世代の給与に跳ね返ることを踏まえると、法人増税も現役世代にとって負担が軽いとは言えません。
そして何より、所得税や法人税は、消費税と比べると課税ベースが狭い点が問題です。
富裕層や多国籍企業にとって、所得や利益を低税率の国に移転することが容易であるため、累進課税や法人税を強化しても、こうした所得の移転が起きれば、税収が減少する可能性が高くなります。
消費税は、国内での消費に課されるため、こうした国際的な所得移転の影響を受けにくい点が優れています。
3、各党の考え方の評価
① 消費税制に対する各国のスタンス
我が国の消費税収額は令和5年度は約23兆円でした。
上記の通り、消費税を他の税金で代替するのは難しく、全廃や時限的にゼロにするというのはかなりの冒険であることを認識する必要があります。
実際に上記の消費税の特徴を踏まえて先進各国は消費課税を概ね強化し続けているというトレンドがあることにも留意が必要でしょう。
ちなみに、コロナ禍で消費税を減税する動きがドイツやイギリスでありましたが、その取り組みは概ね失敗だったと評価されています。詳しくは検索すれば記事が色々と出てくると思います。
我が国においても減税ではないものの、消費増税の先延ばしが国債の格付け引き下げに影響したことは記憶に新しいです。以下参考。
② 各党の代替増税策について
上記を踏まえて、大幅な消費減税と、代替案として課税強化を企図している政党の施策について考えていきたいと思います。
共産・社民・れいわの3党のスタンスは共通しており、高所得者・企業への課税強化、内部留保(定義不明)課税等、荒っぽい言い方をすると「儲けているところから取れ」という考え方のようです。
当たり前ですが、「儲けること」のインセンティブを減らすことは経済の活力減退につながりますし、上記の通り富裕層・大企業の海外移転等によりかえって減収を招くことにもつながりかねません。
③ 「国債発行万能論」の誤謬
消費減税や、特に少数政党が風呂敷を広げている大規模な景気対策を実現させるためには、代替案にしている「儲けているところ」への多少の課税強化程度では財源がまったく足りません。
仮に消費税約23兆円を一時的にせよ全廃するとなると、所得税+法人税が約38兆円なので、これを1.5倍しても穴埋めにすらならないです。
政党により財源を明示している・していないはまちまちですが、税収を減らした上で財政出動を行うのであれば、必然的に国債に頼るということになるでしょう。
国債発行による大規模な財政出動を是とする考え方は、最近かなり強まっている様子です。
別にあげつらうわけではありませんが、例としてれいわ新選組の考え方を挙げます。
国債発行が経済を刺激し、インフレ率が一定の範囲内である限り財政破綻は起こらないので、インフレ率の範囲内で積極財政策を続けていくという考え方を明示しています。
上記は2020年に掲載された言説のようですが、根本的な考え方は変わっていない様子です。
これは、いわゆる「現代貨幣理論(MMT: Modern Monetary Theory)」、つまり「通貨発行を自国で管理できる国が、自国通貨建ての債務を抱えている限り、財政破綻のリスクは低い」という考え方に基づいており、理論的には一部正しい部分もあります。
しかし大規模な国債の発行を続けることが長期的に金利の上昇や通貨価値の低下を招く恐れがあるということの他、この考え方には根本的な問題があります。
それは基本的にインフレ率はアンコントローラブルであるということです。
アメリカや欧州各国は積極財政論者が今まさに主張してるような、「許容できる範囲での」大規模な財政出動により、コロナ禍を乗り切ろうとしました。
もちろん実効性はある程度ありましたが、積極財政による需要喚起に対して、コロナ禍で傷んだ供給側が応えられなかったことや、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰等が、予想を超えた破壊的なインフレを引き起こし、現在はそのインフレを抑制するために必死になっているのが現状です。
これは、インフレ率の予測と制御がいかに難しいかを示しており、「定められたインフレ率の範囲での積極財政策」なる考えが机上の空論であることを示しています。
また、我が国の企業は永年の超低金利環境に慣れているので、金利が極端に上がることは、欧米以上に破滅的な経済悪化を招く可能性があるという、我が国特有の事情についても考慮が必要です。
4、まとめ
① まとめ
もちろん実質賃金が伸び悩んでいる状況で消費を喚起し、経済を活気づけるために一定の減税策は有効です。
ただし理解しやすい身近な消費税を、その特徴を無視し、ただの『悪者』にして、全廃するような派手な施策にはまったく現実感がありません。
また、消費減税による減収や積極財政策の財源として国債を当てにしている政党は、欧米というインフレ率制御の失敗事例や、既に我が国は既にコロナ禍で短期債を多く新規発行したばかりであり、その償還は借換債による実質的な先延ばしでしか対応する術がないという現実を無視しています。
劇的な減税、あるいは定期的・恒久的なバラマキのために、この上さらに毎年数十兆円以上の国債の新規発行を重ねることになった場合のリスクを我が国が許容できるかは、インフレ率、金利、市場の信頼等々の様々な要因が絡み合っており、予想ができません。
ゆえに一定の有効性があるにしても、金利の急上昇等を招きかねない、極めて投機的な施策であると言えるでしょう。
そもそも、減税・バラマキという「大衆が喜ぶ」総花的な施策の成算が高いのであれば、与党が真っ先にそれを実行しています。
経済も回復して集票も見込めるという、与党にとって良いことづくめの話が実行されないことにそもそも疑問を持つべきなのです。
その疑問に対する多くの少数政党のアンサーは「政権は増税が大好きな財務省の言いなりだから」という、お粗末なものです。
最終的な政策の決定は財務省より優越的な立場にある内閣や国会議員が行うわけですし、国民の支持さえあれば、内閣や国会議員の地位は万全なのですから、「特効薬」があるのであればそれを用いない理由にはなりません。
ゆえに結論として、現実を見据えた経済施策は消費税を少し下げる、現役世代の社会保険料を軽くする、年収の壁を撤廃する等、「ちょっとしたこと」の積み重ねにならざるを得ません。
各党がどのように「ちょっとしたこと」を積み重ねていくかが、有権者にとっての評価対象であるべきだろうと思います。
少数政党の多くが提示する「誰もが理解できる冴えたやり方」は『明らかに誤りとまでは言えないものの、リスクを正しく認識できていない』というのが過不足のない評価であり、こういった政党が議席を増やすことは我が国のためにならないはずです。
しかし、長期政権の驕りが見える自民党を私自身、必ずしも支持はしませんし、現実感のある施策を打ち出している維新や国民民主等は相対的に好ましく見えますが、手放しに応援できるかと問われると、そんなこともないので、中々難しくはあります。
色々と熟慮した上で投票に臨みたいですね。
以上の通り、消費減税に対する各党のスタンスは経済政策の「現実感」を測る物差しとして非常に優れているように思ったので、これを起点に記事を書いてみました。
多少なりとも参考になったのであれば嬉しく思います。
以上
参考 輸出企業が得る「還付」が不公平であるとの批判
消費税は国内での「消費」に対して課税される税金です。つまり、消費が国内で行われる場合にのみ課税され、輸出された製品についてはその消費が海外で行われるため、日本国内で消費税を課すことは制度上不適切とされています。
そのため、輸出企業が国内で仕入れた部品や原材料について支払った消費税は、本来日本での消費に対して課されるべきものであるため、輸出という形で国外に製品が出る場合は、課税されている消費税分を還付する仕組みが取られています。これを「輸出免税」と呼び、国際的に認められた税制です。
輸出免税は、輸出品に対して二重課税(国内の消費税と輸出先国の消費税)の発生を防ぐためのものであり、輸出企業は輸出先で消費税の課税を受けているため、特に不公平はありません。
もし還付がなければ、国内の企業が国際市場で競争する際に不利な立場に置かれてしまい、経済全体に悪影響を与える可能性がある点に留意が必要です。
参考 「儲けているところから取る」という考え方の是非
本題からずれる話なので別項にしましたが、厳密には「儲けているところから取る」という考え方には検討の余地はあります。
例えばNHKは1兆円以上の現預金・債券等を保有しています。それらの一部は将来の支出に備えとして説明がつくものもありますが、それらを差し引いても巨額と評して差し支えない規模の「カネ余り」状態ではあります。
こういった利活用されていない、大企業の度を過ぎて巨額な現預金及び現預金同等物に対して、課税等のペナルティを課すことで、それらの利活用を促し、以て経済を活性化させるような施策は有効かもしれません。
しかし例えば共産や社民が主張する、「内部留保」おそらく繰越利益剰余金を目安に課税するやり方は誤りです。
貸方にある繰越利益剰余金は、借方では現預金としてのみ存在しているわけではなく、固定資産やその他営業資産等に姿を変えています。
そのため「内部留保」課税は逆に企業の固定資産投資意欲や事業拡大意欲を減退させ、納税準備のためのキャッシュの保有比率を高めさせる、狙いとは逆の効果を生み出しかねい、かなり無茶苦茶な考え方です。