NPO等による食品配布に高額商品が紛れ込むことの評価
2024年6月29日
(7/22ちょっと手直し、7/24微修正)
NPO等の取り組みが疑われてしまう理由を書くにあたり、食品寄付と食品以外の寄付の制度や懸念点について前提として知ってもらう必要があろうと思ったので書きました。
以下、関連記事。
1、食品寄付に関係する1/3ルールについて
食品寄付を考える上で重要なのは1/3ルールという商慣習です。
1/3ルールは、食品の鮮度を保ちながら、消費者に安全な食品を提供するために導入された商慣習です。
1990年代に大手小売業者が導入したと言われており、その後、他の中小規模の小売業者にも広まりました。
1/3ルールは賞味期限を三等分して、小売りに納品できる期間(最初の3分の1)、小売りが消費者に販売できる期間(次の3分の1)、消費者が消費する期間(残りの3分の1)という考え方になっています。
寄付に供される食品は、この1/3ルールに基づくと、小売店に並べることができない商品であることが多いです。
この2024年2月某日に文京区の「こども宅食」で配られた賞味期限が360日の商品を例にします。
この商品は賞味期限が製造日から360日であり、通販業者(小売業者)は120日以上の賞味期限を消費者に担保していることがわかります。
配食に用いられた商品の賞味期限が2024年6月下旬の様子なので、この商品の製造日は2023年6月の中旬から下旬です。
まず最初の120日以内、つまり2023年10月下旬までしか多くのメーカー(または卸)は小売業者に納品しません。
そして次の120日以内、つまり2024年2月中旬までしか多くの小売業者は消費者に販売しません。
つまり、この2024年2月に配布されたこの商品はメーカーか卸業者等のデッドストックである蓋然性が高そうです。
1/3ルールについては、新鮮で安全な食品を消費者に提供できたり、値引き販売を少なくできることによって、ブランド価値の毀損を避けられるというメリットがあります。
反面、人気商品以外の商品は生産管理や在庫管理が難しく、食品ロスを引き起こす可能性が高いというデメリットもあります。
行政は3分の1ルールの見直しを要請しているので、賞味期限間近の見切り品として割引販売する等、柔軟な運用をしているスーパー等もないことはないですが、まだまだ途上のようです。
読み物としてこの辺りがわかりやすいです。
なお、お米等は生鮮食品扱いで賞味期限は設定されていませんが、一般論として精米時期から1か月程度が美味しく食べられると消費者には認識されており、スーパー等では精米日から1か月程度が経過したお米は店頭に並ばなくなることが多い様子です。
(地方やスーパー等の内規等でかなり違いはあるようですが)配食事業に用いられるお米の精米時期はやや月日が経過しているものもあります。1/3ルールを経過した加工食品と同様の扱いを受けている可能性は高そうです。
以下、参考の読み物。
2、NPO等が食品を配る意義
① 企業が現物寄付をする理由
以上のように、NPO等の配食事業やフードバンク等に用いられる食品はスーパー等において、1/3ルール経過やそれに似た扱いを受けた食品であることが多いです。
では、これらが何故寄付に用いられるのかということを考えてみましょう。
メーカーに(あるいは卸業者)に1/3ルールを過ぎそうな在庫が沢山ある場合、まず考えられるのは、ディスカウントストアへの値引き卸です。
しかし消費者は当該商品をディスカウントストアで安く購入できるのであれば、わざわざスーパー等では買わなくなります。
小売店からしてもわざわざ他店で安く売られることがわかっている商品を高く仕入れる義理もありませんから、当該商品の仕入に消極的になります。
そうなるとブランド価値は毀損され、「安くないと売れない商品」というレッテルが貼られてしまいます。
それを避けるためにメーカーが行うのは、商品の廃棄です。
廃棄はもったいないですし、「廃棄カツ不正転売事件」以降は転売などを防ぐために、商品包装の除去等、手間暇をかけなくてはならなくなりました。
そのための人件費や廃棄委託コストは多大です。
安売りもしたくないし、廃棄もしたくない。そんなメーカーにとっての第三の選択肢がNPO等に寄付をすることです。
メーカーからすると安売りがブランドイメージを損なうのに対し、「社会貢献」を行うことにすればむしろブランドイメージが上がります。
また、物にもよりますが廃棄費用を払って単に商品を廃棄するよりも寄付のための輸送費の方が安くつくことは多いです。
特にビンや缶入りの商品や、廃棄の際に産廃扱いにしないといけない商品については、よりその傾向が強いです。
(この寄付を使って節税というか脱税の方法がありますが、論じません)
② 寄付の上限
これまでNPO等への寄附金(現物寄附も含む)は損金に算入できる上限がありましたが、下記の通り2018年に帳簿価格での寄付は『NPOへの寄附金』とは別口の全額損金扱いとなったので、廃棄コストに悩む事業者にとっては寄付がしやすくなりました。
2021年に財務省が「こども食堂等への寄付も同様」との見解を示したことも後押しになっています。
これにより、廃棄コスト等に悩む事業者は寄付により不良在庫の処理を行うことが可能になりました。
③ 食品寄付の評価とNPOの役割
事業者側の都合ばかり書きましたが、寄付される側の困窮した方々は無償で食品を供給してもらえるわけですから、単純にメリットがあります。
ただ、もちろん寄付というのは受け手が存在しないと行えません。
食品メーカーそれぞれが寄付先になり得る個人や施設を探すのは現実的ではないでしょう。
そこで出てくるのがNPO等ということになります。寄付したい人と寄付を必要とする人を仲介する役目として、NPO等は活躍しているわけです。
もちろん寄付に供される商品が寄付される側にとって必ずしも求められているものではないという問題はありますが、フードロス防止の観点から見れば、それを差し引いても有意義な試みであろうと思います。
3、食品以外、例えば化粧品等の寄付をどう評価するか
① 化粧品の商品特性
化粧品なんかは短いサイクルでバージョンアップされる商品が多く、リニューアルがされた商品やその類似品は現実的に販売ができなくなるという事情もあり、使用期限が十分なのに廃棄されることもよくあります。
こういった「別に見切り品ではないがメーカーの都合で売れない商品」が寄付に回されることもあるようです。
以下、参考の読み物。
② 時価の高さやその他若干の懸念点
さて、過去に何度か話題にしましたが、NPO等には配食事業を行っているところがあります。
しんぐるまざぁずふぉーらむさん、フローレンスさんなんかが有名ですね。この事業における1回あたりの単価は非常に高額になることがあります。
例えばしんぐるまざぁずふぉーらむさんの場合は単価のブレが激しいです。
比較すると食品のラインナップは大して変わらないのに、化粧品込みだと2万円、化粧品なしだと4千円という月があるので、まあおそらく化粧品の売価の高さが生み出している歪みなのでしょう。
また、同じく寄付物品に化粧品が含まれているフローレンスグループの宅食事業も、1回あたりの食品パッケージの金額は商品ラインナップを踏まえると数千円程度と見受けられるのに対して、実際のパッケージ単価は3万円近くに及ぶので、しんぐる・まざぁず・ふぉーらむの事例と同様に高額商品がパッケージに紛れ込んでいる可能性あります。
化粧品が配布されている回の例。(他にも沢山あります。あくまで一例)
NPO等側が化粧品を売価相当額で評価して寄付を受け入れたということで領収書を切っているのだと思います。
別にこれ自体は悪いことでも違法なことでもありません。
ただしこの寄付のメリットを受ける主体は寄付を受ける側の困窮した方々なのか、化粧品等のメーカーなのか?という疑問を持つことは大切だと思います。
肌に合う合わないや好み等の問題もある化粧品を不特定多数にばらまくことは、寄付を受ける側にとって望まれることなのでしょうか?
食品の場合は気に入らないものであったとしても、廃棄は比較的容易です。また気軽に人にあげることもできます。
他方、化粧品は人にあげにくいですし、捨てるのに一工夫が必要な様態の商品も多いです。
「無料でもらえるんだからええやん」という考え方もあるとは思いますが、個人的には企業の廃棄コスト削減による財務メリットが多大、困窮する方々のメリットが少ないという様態の寄付になっているのであれば、ちょっとどうかなとも思います。
また「配食事業の実績××××万円」とNPO等が「成果」を喧伝するにあたり、高額な化粧品が大幅にその「成果」をカサ増ししているのであれば、ある意味では誇大広告みたいなものですから、問題があるようにも感じます。
もちろん化粧品をもらえて嬉しいという方々もおられるでしょうから、難しい問題ではあります。
食品以外の現物寄付は寄付として損金計上できる金額に上限はありますが、詳説はしませんが儲かっている大会社(資本金・所得が大きい会社)は相当額を計上できます。
4、まとめ
① まとめ
以上、これは別の記事を書くための前提として書いただけの記事ですが、おそらくメーカーにとって販売不能となったものも混じっているであろう、化粧品等の高額な商品を時価で寄付として受け入れて、バラまくことの是非は判断し難いなあと以前より考えていました。
配食事業等に紛れ込ませるのであれば、せめて「成果」が正確に伝わるよう、食品とそれ以外の金額・数量は分けて発表してもらいたいですね。
なお、宅食・こども食堂・フードバンク等による食品配布については、1/3ルールを過ぎると有効に活用されない食品も多く、フードロス防止の観点からも、これは推進すべき取り組みであろうと考えています。
困窮している方々にも受け入れられやすく喜ばれやすいと思われますので、どんどんやっていただければと思います。
ただしやり方については一考の余地はあるでしょう。
以上