金沢市のLGBT支援・交流施設「にじのま」を巡る諸問題の調査結果(浜田聡参院議員事務所からの依頼)
2024年8月5日
掲題の件、補助金と有志からのクラウドファンディングで整備された施設の当時の責任者が、当該施設内で薬物を使用したこと等を理由に逮捕された事件を巡り、既に2つの記事を書いています。
浜田事務所からの依頼に基づき、両記事を統合し、また金沢市への問い合わせ結果も踏まえた上で、もう少し詳細に本件問題について論じ、総括しました。
調査結果の概略
そもそも補助金が支出されたこと自体に疑義あり。
違法薬物事件後の公金の扱いについて、国の「返還」という対応に比して金沢市の「お咎めなし」という対応が妥当か議論の余地あり。
本件は「性的少数者絡みだと、行政は公金の支出もその後の対応も甘くなる」という誤ったメッセージになりかねない事件であり、問題。
1、前置き
① 事件のあらまし
団体からの最終的な情報発信は以下の通り。
以下のような報道もなされました。
② 「にじのま」とは何か
事件の舞台になった「にじのま」は以上のように説明されています。詳説はしませんが、登記簿謄本に当たったところ、一般個人の所有者より物件を借り上げ、補助金等で現行の施設の形に整備した様子。
施設整備にかけた費用については、以下の通り公表されています。大まかに補助金、クラウドファンディング、グループでの自己負担が1/3ずつですね。
(厳密には別途、金沢市より奨励金2,000千円も支出されているようですが)
余談ではありますが、当該物件はたかだか145㎡程度の木造平屋であり、写真等から見て取れる程度のリニューアル工事が24百万円というのは、一見するとなかなか高額です。当時の相場を勘案すると半額以下で対応できそうに見えます。
「にじのま」のグランドオープンが2023年2月。
その直後と言ってもいい2023年4月に工事等を請け負った会社が破産している点等を踏まえると、多額の工費も相まって、経験上は若干焦げ臭い感じはします。
閑話休題。
なお、報道等では「にじのま」は「一般社団法人金沢レインボープライドの施設」と紹介されていますが、運営は上掲(1-①)お詫び文中の赤線部分の通り株式会社ミッションズという名目になっています。後述します。
ちなみに「にじのま」で営まれている飲食 及び 食品製造の許認可関係も同社になっています。
また雇用関係でいうと、ミッションズの社会保険加入者(要は正社員かそれに近いパート)は東京のみで、金沢市拠点である「にじのま」にはいない様子ですが、
労働保険加入者(要はパートアルバイト)は東京と金沢両方に存在しており、事業実態は存在していそうです。
なお、金沢レインボープライドで検索をしても社会保険加入者及び労働保険加入者はヒットしません。
③ 一般社団法人金沢レインボープライドについて
団体の法的な公開情報は以下の通りです。
この金沢レインボープライドは知事に直談判をしたり、警察学校で研修を行う等、公との結びつきが強い有力団体です。
また代表者の松中氏は、首相秘書官によるLGBT当事者への差別発言に対して「当事者代表」として岸田首相からの謝罪を受ける等、業界内では非常に高い立場にいる方です。
④ 株式会社ミッションズについて
金沢レインボープライドの代表者である松中氏が経営する東京の会社です。先述の通り、「にじのま」の運営名義にもなっている様子です。
HP等が見当たらないので具体的に何をやっている会社かはわかりませんが、商業登記上は広告の企画制作等が事業目的になっています。
また、上記の通り労働保険検索事業場検索によると東京で1箇所(新宿ダイアログ)、金沢市(にじのま)で1箇所、飲食店を運営をしていることはわかります。
同社の公開情報は以下の通り。
上掲(1-①)のお詫び文にも記載されている通り、逮捕された事務局長の雇用主はミッションズであった様子です。
実態としては金沢レインボープライドとミッションズはグループを形成していると見て良いでしょう。
2、補助金支出の妥当性に関する疑問
以上を前提に、まずそもそも当該施設の整備に用いられた補助金支出が妥当であったかを論じていきたいと思います。
① 補助金の概要とポイント
「にじのま」整備に充てられた補助金は令和4年度の「金沢AIビレッジ形成促進事業」補助金です。
金沢市に問い合わせたところ、募集要項も令和4年度と令和6年度とでは若干違いがあるものの、以下に論じる補助対象者については変更がないとのこと。
それを踏まえて令和6年度の募集要項を見てみましょう。
本件補助金の主旨は市内に事業者を新たに誘致して、クリエイター人材の集積等を図り、産業や雇用を創出することにあります。
その主旨に合わない、既に市内で事業を営んでいる事業者は交付対象外であることも明記されています。
金沢市へ問い合わせを行ったところ、「にじのま」整備のための補助金は金沢レインボープライドではなく、ミッションズが受領していることが判明しました。
② 疑問点1 補助金の主旨に合わない施設の利用方法
「にじのま」にもギャラリースペースはあり、「クリエイター的な要素」もないではないですが、あくまでもその機能は従たるものだと捉えるのが自然です。
補助金で整備された「にじのま」の主たる利用方法が、従来から金沢市内で事業を営む金沢レインボープライドの事業目的に沿った、LGBT当事者やその支援者の交流であることは、様々な報道が示しており、補助金が想定外の使途に支出された可能性は高そうです。
先述のクラウドファンディングの募集サイトでも、前面に出ているのはLGBTの交流拠点としての利用方法です。
また、さらに加えると以下の示現舎さんの記事。
金沢市へ提出した意見書でも、その目的を「LGBT当事者等の居場所」として記載しており、その主たる利用方法は補助金の主旨と合致しないものと判断できそうです。
③ 疑問点2 交付対象要件潜脱の疑い
繰り返しになりますが、当該補助金の目的は市外からの人材や産業の誘致であるため、「本(金沢)市内で既に事業所等を有している場合」は交付対象外である旨が募集要項に記載されています。
また主業が「映像、コンテンツ、デザイン、ICTの分野」である会社のみが交付対象であることも募集要項に記載されています。
当然ながら令和3年に金沢市内で創業し、LGBT支援を主業務として活動していた金沢レインボープライドは交付対象外ですし、また業務内容も要件に当てはまりません。
東京のミッションズが補助事業の主体であるとの体裁で補助金・奨励金等を受領し、また営業許認可の取得や人材雇用等をしているのは先述の通り確認済みですが、実際に施設を活用している主体が金沢レインボープライドである以上、そこには交付対象要件を潜脱するための名義貸し以上の意味が見出せません。
2-①に記載した内容からもそれは伺えますし、その他、金沢レインボープライドが2023年2月の「にじのま」オープン前の2023年1月という早い時期に本社を「にじのま」に移転していることも、補助金の利用目的がミッションズによる金沢市への進出と言うよりも、同社の本社及び支援拠点の整備であることの傍証と捉えることが可能です。
また、上掲(1ー①)の「にじのま」で起こした不祥事のお詫び文、また上掲(2ー②)の金沢市への「にじのま」開設のことにも触れた意見書をミッションズではなく金沢レインボープライド名義で出していることも、「にじのま」の運営主体が金沢レインボープライドにあることを示しています。
④ 疑問点の整理
以上の通り、本来は① 金沢市内に新たに進出する、② 「映像、コンテンツ、デザイン、ICTの分野」を主業とする会社を補助することで、③ 新産業創出の促進を図るのが本件補助金の主旨です。
しかし実際は ① 既に金沢市内で活動している、② LGBT支援団体の、③ 本社及び支援拠点の整備に補助金が支出されていると捉えられる状況であり、補助金の主旨から大幅に逸脱しているように見えます。
なお、参考までにご紹介すると、当該補助金は、世界的なアニメスタジオの日本法人を東京から金沢に移転するために使われたことがあるそうです。
「にじのま」と違い、まさに補助金の主旨通りのクリエイティブ産業の誘致であることがわかります。
当該補助金の支出が不適切だということを仮に前提にすると、ミッションズが偽りの手段により、金沢市を騙して補助金を受領したのであれば、金沢市は返還請求を行うべきです。
またミッションズが嘘偽りなく施設の利用方法等を説明した上で金沢市が補助金の支出を決めたのであれば、担当部署は何らかの責任を負う必要があるでしょう。
3、本件違法薬物事件の問題点
補助金の支出が不適切であった可能性があることとは別にして、本件違法薬物事件のどの辺りが問題だったのかを論じます。
① 本件事件の問題点1 逮捕されたのが単なる使用人でないこと
報道等によると、逮捕された人物の立場は、2024年3月当時、金沢レインボープライドの創立メンバーかつ事務局長だったそうです。
事務局長という役職に法的な定義はありませんが、NPO等の非営利の団体においては、理事会等で決定された経営方針等に沿って、従業員を指揮監督する役割を担うことが多いです。
当該人物は「にじのま」に寝泊まりしており、また2023年オープン当時と状況が変わらないのであれば、「にじのま」の責任者でもあるようです。
組織的は経営陣寄りの立場であり、また「にじのま」という施設で見るとトップであったようなので、同人物を任命した経営陣の責任は重いと言えます。
② 本件事件の問題点2 薬物の量等から懸念される反社会的勢力等との繋がり
同人物は覚醒剤2.11gやその他の指定薬物を所持していたようです。断薬期間もあったものの、20年間は覚醒剤等を月1、2回使用していた、常習者であったとのことです。
乱用者の1回の覚醒剤使用量は0.03gと見なされているため、少なくとも70回分以上の覚醒剤と、量は定かではないもののその他の指定薬物を同人物は所持していたことになります。
使用頻度を仮に月2回と定義してもほぼ3年間分であり、自己使用分の所持量としては多すぎます。他の常習者が仲間にいた、あるいは他の人物に売却していた可能性を排除できません。
違法薬物を供給できるのは反社会的勢力等であるはずです。
施設で寝泊まりしていた人物が覚せい剤の常用者であり、施設で覚せい剤を使用していた上に、多量の覚せい剤が押収されたこと。
また同氏が同拠点の責任者であり、一定程度の権限を有していたことが推認できること。
以上を踏まえると、覚せい剤やその他にも押収されたという違法薬物を供給していた反社会的勢力、もしくはそれに連なる人物が施設や金沢レインボープライド・ミッションズ自体と関わりがなかったかどうかの調査等は必要です。
極端な話、施設に反社やそれに準ずる人物が出入りし、同氏と覚せい剤等の取引を行うようなことはなかったのか?
その場合、施設利用者が覚せい剤等の使用や購入を勧誘されたこと等はなかったのか?
また、同氏が責任者として行っていた出納に不審なものはなかったのか?等が心配です。
施設の支出先に違法薬物を供給する反社会的勢力の構成員が経営するフロント企業等があった可能性はないのでしょうか?
仮に疑わしいものがあった場合、同氏がポケットマネーではなく施設の資金を実質的に覚せい剤等の購入に充てていた可能性はないのでしょうか?
その辺りの疑いの有無や、疑いがないと判断したのであれば、それはどのような調査や警察への捜査協力を行った結果得られた結論なのか等を公表するのが、無用の疑いを晴らし、施設の利用者が安心できる環境を整えることにつながるのではないかと思います。
現在のところはすでに「終わった話」になっているようで、問題に思えます。
③ 本件事件の問題点3 事件発覚後の団体・国・市の対応
金沢レインボープライドは1ー①に掲載したお詫び文中にある程度の対応しかしておらず、その対応や情報発信が充分かどうかは評価が分かれそうです。
一方で、代表の松中氏が経営する別団体を介し、国の委託事業を間接的に受託して得た公金の扱いについては、国は早々に当該資金を返還させることを決め、同お詫び文によると金沢レインボープライド側もすぐ返還を履行したようなので、その対応は国・団体共に速やかであったと評価できると思います。
参考までに、国が補助金を返還させると答えた質疑。浜田議員の質問16分36秒から、回答17分50秒から。
では金沢市は金沢レインボープライド・ミッションズの両社に対してどのような対応を取ったかですが、補助金を担当する産業政策課としては、私の上記指摘を踏まえても、結論としては補助金の返還請求や追加調査等、何もしないとのことです。
また金沢市監査事務局にも経緯を説明して、監査当局から産業政策課への指導の必要性を尋ねましたが、「既に十分な指導を行っている」旨の回答のみがありました。
なお、監査を所管する市の常任委員会を務める市議会議員さんたちに見解を尋ねたところ一部の方は問題意識を持っているとのことでしたが、今のところ何か動きを見せる様子はありませんでした。
多くの補助金と同じく、市の補助金にもいわゆる「公序良俗違反」者には補助金を交付しない旨の記載があります。
補助金申請時は違法薬物を継続使用している者が幹部職員であったので、団体は「公序良俗に反するおそれがある行為」をすると認められる状況でしたから、結果的には金沢レインボープライド・ミッションズのグループは交付要件を満たしていない状態で補助金を申請したことになります。
(そして現に補助金で整備された、団体が統治する施設内で、責任者に就いていた当該人物が違法薬物を使用するという、公序良俗に反する行為を行ったわけです。)「2」で述べた補助金の使途が主旨と合わないことを別にしても、補助金を支出したことは誤りであるように見えます。
また、当該補助金の1/2は国の地方創生推進交付金から支出されているそうです。
国は委託事業のために支出した公金を返還させたにも関わらず、一方で国からの交付金を使った補助金がお咎めなしというのは平仄が合いません。
金沢市は少なくとも国の判断に反して補助金を返還させない理由をきちんと説明すべきでしょう。
4、まとめ
① 審査の重要性
補助金の支出先、あるいは金融機関の融資先が問題を起こした場合、検証を進めるとそもそも補助金・融資金を得る過程で不正が行われていたと判明することは、非常に多いです。
「不正な手段で資金を得ようとする団体は、別の問題を引き起こすことが多い」とも表現できるかもしれません。
そのため審査では不正の手段で資金を得ようとしている申請を採択しないことが重要になります。
本件に関して言えば、少なくともミッションズが本来の主旨とは異なる使途で補助金を受けようとしたことは事前に察知できていたはずです。
(もちろん、ミッションズが虚偽の補助事業計画を用いて補助金の採択を受けたのであれば論外ですが)そこで不採択にしていれば今回のような事件が起きなかったことは間違いないでしょう。
補助金の主旨に合わない無理筋の申請を行うこと自体が、当該団体のガバナンスが正常ではないことを示しているので、これは結果論ではありません。
② 薬物犯罪への「寛容」の是非
金沢レインボープライド・ミッションズから成るグループへの対応として、国は支出済みの公金を返還させましたが、金沢市はお咎めなしという両極端な対応となりました。
「補助金で整備された施設内で、その責任者が違法薬物を使って逮捕された」という事例を私は寡聞にして知りませんが、それに似た要素があるのは令和5年11月に最高裁判決が出た、助成金不交付決定処分取消請求事件が挙げられるでしょうか。
映画の主要な出演者が麻薬取締法違反(使用)で有罪判決を受けたところ、国はこの映画制作に対して「助成金を出せば、『国が薬物に寛容だ』との誤ったメッセージになる」こと等を理由に、内定していた助成金を映画制作会社に支出しないことにしましたが、その助成金の不交付決定が最高裁で取り消されています。
当該理由による助成金の不交付がまかり通ると表現の自由が委縮すること、及び助成金で利益を受けるのは制作会社であって出演者でないこと等が判決の理由のようです。
特に、出演者と制作会社は単なる商取引先である点は留意が必要でしょう。制作会社に対して、出演者の委託業務外での行動にまで責を負わすのは私も適当とは思いません。
しかし、「にじのま」の件は違法薬物常習者を組織・施設の重要ポストに就けたこと、組織が統治する施設内で多量の薬物の所持、使用を許したこと、以上2点は組織としての責任も大きい問題です。
逮捕された人物の違法薬物の所持・使用を逮捕前に察知できなかったことについては、無理からぬ部分があるにしても、その責任を問わない寛容な対応については、議論の余地があります。
そういった団体に補助金を出したままにすることは、金沢市は『性的少数者が関連する違法薬物犯罪に寛容だ』との誤ったメッセージになる可能性がないとは言えません。
③ 調査結果まとめ
「LGBT支援という錦の御旗を掲げれば、本来は要件に合致しない補助金も支出されてしまう」ようなことが許容されてしまうと、LGBT支援が悪い方々の新たな「シノギ」になる懸念があります。
補助金の支出が適当なものだったかは再検討が必要です。
また、LGBT支援団体に責任の一端がある違法薬物事に犯罪対して、甘い対応を行うことは、行政は『性的少数者が関連する違法薬物犯罪に寛容だ』との誤ったメッセージにならないか、またそれがイメージとして、薬物使用のようなものが性的マイノリティのコミュニティと紐づけられることになり、不当な差別等を助長することにならないかが懸念されます。
本件は、言い方は悪いですが「第二の同和」と揶揄されることもある、性的少数者を取り巻くコミュニティに対して、地方自治体が示すべき対応の試金石になり得る事件でもあると思いますので、金沢市にはもう少し踏み込んだ対応をしていただきたいものです。
以上