まだ恋人でいたい私たち

女)いつかさ
男)__
女)いつか、私たちがもっと老けた時、家族っているのかな
男)どういう意味?
女)別に家族になってくださいとかって話じゃないよ。最近さ、お父さんの高校時代のアルバムを見つけてね、なんかあのお父さんが学生だったことがあるなんて不思議だなーって思ったんだよね
男)逆に俺たちがお父さん、お母さんになってる姿も想像できないけどね
女)あなたはできるよ
男)え?
女)なんかさ、まだ平成だったり昭和だったりした頃で、まだスマホもスカイツリーもなかった時にみんなは元々普通の恋人で、その前はただの友だちだったり知り合いだったわけじゃん。もうその時の二人でいられることはできないのかなーって
男)二人っきりになったら戻るんじゃない?
女)いやね、私のところは最近私の進路のことで結構ピリピリしてるのね。お母さんは毎日色んなことに心配かけてくるし、お父さんも帰ってくる時間遅くなったりして、前みたいにみんなで喋るとかないから。なんか私が二人の話す機会を奪っちゃってるような気がするの。
男)きっと恋人であった時の自分たちよりも夫婦である自分たちの方が長いからそっちで定着しちゃってるんじゃないかな。確かに恋人であった二人の時は楽しかったけど、それじゃあ家族が機能しなくなるからそれぞれが家族の父親だったり母親だったりを演じてる_みたいな?
女)なんか珍しくすごい理解できる。やっぱり私いま、二人に申し訳ないなって思ってるもん
男)なんで
女)だって前みたいに夜二人でテレビ見ながら喋ってるところとか、アルバムで見たときの二人の方がなんか笑顔だなって思うし、二人がどんな気持ちで私を産んでくれたのかは分からないけど、たまにさ、最近よくだけど、私がいない方が二人にとっては幸せなんじゃないかなって思う時が来るの。___それが最近ちょっとずつだけどどんどん増えてきて、ちょっとさすがに元気に「ただいまー!」なんて嘘でも言えなくなってきてさ。元気な娘でいた方がいいのか、進路に迷いながらも悪戦苦闘している娘がいいのか、今まで通りのわがままで情緒不安定な私で帰ればいいのか分からなくなってきたの。
男)そうだね。だって家族なんだもんね
女)うん。家族だよ、家族だからこそ前みたいに楽しい三人でいたいけどさ。だって気づいちゃったんだもん、私たちって家族である前に一人一人の人間なんだなって、思っちゃったの。
男)気付いた上で新しい関係性を作ったりはできないの?
女)__わからない
男)俺は来年から親元を離れるけど、君は大学行ってもこっち残るんでしょ?多分だけどさ、生活が変わったりすると実家にいても全然家族との関わり方は変わると思うんだよね。
女)そうかな
男)俺は家族っていうのがどういうものなのか分かってないし、それについて話し合う相手も一緒に形作る人も家にはいないからさ。別に仲が悪いってわけじゃないよ?でもね、こいつはこの家ではこういう役柄、っていうのが完璧に決まっちゃってるんだよね、ウチの場合。だからきっと何か大きく形が変わらないとさっき君が言ってた家族がそれぞれ一人の人間になることはできないと思うんだ。
女)だから地元を離れるの?
男)それだけが理由じゃないよ。でも確かにこっちに残りたい気持ちもあるけど俺もそろそろちゃんと自分で生きてみたいなって思うんだよ。なんか誰かに決められたキャラの友だちだったり家族だったりじゃない形の自分で。
女)そうなんだ。そこに私も入ってるの?
男)極端だよね、
女)うんちょっとね、でもらしいっちゃらしい
男)そう?そんなどんなイメージなの?
女)それは知らないからいいんじゃない。知っちゃったらまたそのイメージで生きないといけないんでしょ
男)確かに__
女)___元気でね
男)まだすぐには行かないよ
女)でももう前とは同じようには居られないんでしょ
男)うん、そう。
女)謝らないでね、別に悪いことしてるんじゃないし、その方がいいと思ったんだからしたことなんだもんね
男)うん。____
女)いつかさ、いつかの全く想像できない未来で、全く想像できない二人になってまた会えると思うよ。どう接してたいいか分からないくらいにね
男)そうなったり今より話すのが気まずいかもね
女)きっと、これから、直近だと卒業のタイミングとかだけど、色んな人と別れると思うの。でも、その中でもあなたとはちゃんとお別れできてよかったと思う。これからのことなんて私も分からないし、きっとあなたも分からないと思う。でも、今をちゃんと悔いのないようにできたらきっとやってくる未来にも後悔なんてないとおもう。だから、いま、一番大切な人とちゃんと、ちゃんと別れておきたい。
男)”ちゃんと”できてるかな
女)分からないよ
男)10年後とかにわかるやつ?
女)かもね
*男は女の手を握る
男)反則だとは思うけど、最後だからそっけなくするとか嫌いになったみたいにはしたくない。でも、どうすればいいかなんて分からないから。俺は、これで”ちゃんと”お別れができる。
女)ずるいよ
男)うん
  じゃ、じゃあね
女)___うん、じゃあね。

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