話し相手
鏡もろくに見ない一人暮らしをしているとついつい自分の髪が伸びていることに気付かない。公演が近づいたり姉に言われない限りあまり髪を切ることがないのだが、折角の機会だと思い地元で髪を切った。
いつもとは違うホットペッパーで予約した阪急近くの商店街にある。昼間から多くの人がひしめき合っている道を歩いて昨日よりかなり寒くなったなと感じる。
金髪ショートカットで耳には沢山のピアスが付いている女性。人と話すのは苦手じゃないけど、初めての人とはどうしても他人行儀になってしまうので久しぶりに鏡の自分と見つめ合おうかと思っていたけど思いの外話が盛り上がった。盛り上がったよりも珍しく話が落ち着いて深く掘り下げられた。時折髪型についてや、シャワーの温度などの話しながら最近感じていることや悩みなんかも話した。
他人行儀な僕を美容師さんは大人っぽいなんて言う。嬉しかったけど、それよりもこの1時間の間落ち着いて話ができたのはあなたのおかげです、ということを髪のセットをしてもらいながら伝えた。お店を出た後、階段を降りてから1度振り返り、頭を下げた。
一昨日予定が合わ無かった幼なじみから駅付近で遊ばないかと連絡があった。カフェでもどうかと提案するとJKカフェに行かないかと言われた。彼の人柄からもそういう系のカフェかと思ったのだが実際に言ってみるとものすごく落ち着いたアンティークなカフェだった。なんでこんな名前なんだろうかと思いながらも1番奥にあるソファ席に座った。もたれ掛かると身体がどんどん沈んでいく。アイスミルクティを1つ。
良い雰囲気と先程の経験から急にメモを書き出した。ガムシロップを入れる。10分程で幼なじみが到着した。久しぶりに地元に帰ってきたらしい。彼は関西の有名私大の文系、テニスサークル所属という、まぁ大学生活を謳歌している側の人のようだが会う度に聞く話もまぁ面白い。多分たまに会う幼なじみだからこそ面白いのだと思う。
出会い系でマッチングした30代の人と飲みに行ったらしいのだが、その相手の顔は良いけど所作は無理だと何度も愚痴っていた。どうしてもその場を離れたかった彼は友人に今から送る内容をもう一度送り直せと言ってどうしても帰らないと行けない理由を作って逃げたらしい。しかし帰り際、その相手に「私男だよ」と言われた。
10年前に出会い、一緒に17時3分のチャイムが鳴るまで公演で遊んでいた友人がこんな経験をしているなんて信じられなくてどこかフィクションの物語を聞いているような感覚だった。「そりゃあヤバいね」と言ってミルクティーを飲み干す。どこか知らない人間の嘘のように聞けば笑えるだけの話なんだけど、身近な人の昨晩の話なのでどう反応すればいいか分からない。彼は何回か繰り返して昨晩の一つ一つを話すのだけど、何度も聞いても頭に入ってこなくて分からないからこそ反応ができないのだろう。現実にこんなことあるんだ、ということが頭の中では整理されないまま。