サッカー・マミーの新作から考えるタイムレスな魅力 - Evergreen/Soccer Mommy(2024)
サッカー・マミーから素晴らしい新作が届いた。
そのタイトル「Evergreen」から読み取れるように、かなりの自信作であるように思える。
エヴァーグリーン。
直訳すると常緑樹といった意味であるが、その常に葉を落とさず活気に満ちて見えるその生命力から転じて、音楽などの分野ではしばしば「時を経ても色褪せない楽曲の良さ」といった文脈で用いられる言葉である。
例えば、ビートルズやカーペンターズ、キャロル・キングなどはエヴァーグリーンな名曲を後世に残してきたミュージシャンであると言えるだろう。
サッカー・マミーに話を戻すと、このタイトルからは彼女の、本作に懸ける並々ならぬ想いが伝わってくる。
後世まで時代を経ても聴き継がれるような、常に青々として新鮮な音を届けたい、そういったある種の決意や彼女のミュージシャンとしての矜持が詰まった、そんな一枚であると私は思っている。
果たしてこのアルバムがエヴァーグリーンなのか否かは、もう少し時代が流れてみないと答えがわからないが、少なくとも現時点ではそのポテンシャルを十分に秘めた作品であることには違いないだろう。
アルバムのオープニングに収録されているのは儚げな音像が心をつかんで離さないバラード"Lost"。
このどこか気だるげな、ローファイ感のあるサウンドとボーカルは彼女の最大の魅力だが、本作はこれまでの作品と比較するとそのメロディーラインがよりスタンダードに近いものとして感じられる。
続く"M"や"Some Sunny Day"、"Dreaming Of Falling"など、アルバム全編を通して、いわゆる古き良きメロディーとサッカー・マミーならではの音色との融合を楽しむことができる。
一方で"Driver"や"Abigail"、"Salt In Wound"、"Anchor"といった、バンドサウンドで彩られた楽曲もあり、アクセントとしてアルバム全体の完成度を高めている。
音楽がエヴァーグリーンであるためには、それが時を超えて常に新鮮さをもって聴き手に届く点以外にも条件がある、と私は考えている。
それは、音像そのものがグリーンであること。
例えば、ブラックメタルの名曲などは、それがどれだけ時を超えて聴き継がれ歌い継がれる名曲であったとしても、エヴァーグリーンと呼ぶには違和感がある。
同様に、マイナー調のフォークソングや、ジャズスタンダードのような楽曲は、セピア色の宝物ではあるが、エヴァーグリーンなのかと問われると、それも違うだろう。
過度なノスタルジアのないアコースティックサウンド、スタンダードなメロディー、これらを満たしたうえで時を経ても色褪せないもの、それこそがエヴァーグリーンな音楽なのではないだろうか。
サッカー・マミーことソフィア・アリソンは、このアルバムで自分らしさの中にエヴァーグリーンの答えを見つけ出し、私たちに届けてくれた。
私は、この作品を通した彼女のステートメントを上記のように受け取った。
その心意気と楽曲の持つ魅力に惹かれた者として、これからも聴き続けてゆきたい。
きっと、私のようなリスナーにとっては、タイトルどおり、人生を通してエヴァーグリーンなお気に入りの一枚となるだろう。