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ハートに火をつけた蝋燭 - roman candles | 憧憬蝋燭/Laura day romance (2022)


roman candles | 憧憬蝋燭/Laura day Romance

生きているうちに一枚でも良いから、最初から最後まで自分が心の底から納得できるアルバムを作ってみたい。
私はミュージシャンではないが、数年前からそういった感情を持つようになった。

2022年に発表されたLaura day romanceのセカンドアルバム「roman candles | 憧憬蝋燭」は、私がその感情を強めるに至った直接的な原因の一つである。

ある日、私はいつものようにApple Musicを漁っていると、河川敷の薄の中にバンドメンバーが佇んでいる、一枚のジャケットが目に留まった。
恥ずかしながらその瞬間までLaura day romanceのロの字も存じ上げなかった私であるが、そのバンド名、アルバムタイトル、アートワークのすべてに心を惹かれ、ジャケ買いならぬジャケ聴きもまた一興、と軽い気持ちで再生しすることにした。

アルバムページを開くと、ずらっと並んだ楽曲名はトータルで11曲、アルバムタイトルを含めたそのすべてに邦題と英題がつけられている。
このトラックリストを見ただけでもこのアルバムに対する自信や意気込みが感じられ、否応なしに期待感が高められる。
10年ちょっとの私の音楽リスナー人生の中で、再生前からここまで感銘を受ける作品は無かったので、このアルバムとの出会いは非常に鮮明に覚えている。

ここに至って、莫大な期待感とともにそれを裏切られる不安を少し抱えながら、ようやく再生ボタンをタップした。
その一抹の不安が全くの杞憂であったことが、一音目が響いた瞬間にわかる。

オープニングに収録された"花束を編む | making a bouquet"は2分にも満たない弾き語りの小品であるが、これが素晴らしい。
まさに聴き手に向けて花束を用意するような優しいボーカルで、アルバムの世界観を提示しながら40分間の音楽世界へ誘ってくれる。

続く"well well | ええと、うん"や"wake up call | 待つ夜、巡る朝"ではバンドサウンドが加わり、より空間的な音世界の中で井上花月のボーカルから紡がれる歌詞を味わうことができる。
ギター鈴木迅が主に担当するというその歌詞も、端的でありながら情緒を存分に含んでおり、ボーカルの質やバンドアレンジとも溶け合いながら美しく響いている。
また、アルバムを通して流れるサウンドはフォークサウンドの中に持ち前のポップセンスが見事な塩梅で配合されており、非常に耳なじみの良い音色となっている。

アップテンポなナンバーとスローな楽曲のバランスも素晴らしく、音の中に身を置きながら、片時も飽きることなく気づけばアルバムが終わっている。
再生時間は40分強あるはずだが、何度聴いても体感時間は20分ほどに思える。

ラスト3曲の流れも最高だ。
"waltz | ワルツ"、"step alone | 孤独の足並み"と3拍子系のスローナンバーを2曲続けて物語の終盤を感じさせながら、ラストの"happyend | 幸せな結末"は一転、心地よいミドルテンポで、曲名通りの幸福感に包まれながらアルバムは幕を閉じる。
変拍子をはさみながらフェードアウトしてゆくアウトロが気持ちよすぎて、初めて聴いたときはその余韻から抜け出せず、続けてもう一度アルバムの頭から再生してしまったほどだ。
一方で最後の歌詞は『寂しい』で終わっており、この作品の奥深さを象徴していると言っても良いだろう。

さて、冒頭の話に戻るが、私はこのアルバムを聴いたとき強い嫉妬を覚えた。
これは私が心の奥底で作りたいと思っていた音楽じゃないか。
それまで楽曲の制作などには微塵も興味がなく、ただただ音楽を享受するだけの立場であった私の奥底に眠っていた創作意欲を引きずり出しただけでなく、その大正解をいきなり提示されてしまったのだ。

こんなアルバムを死ぬまでに一枚は作ってみたい。
ローラの2作目は私にとって永遠に憧憬の対象となる光である。
彼らが作品名に込めた想いと異なるのは重々承知の上で、私はこの「憧憬蝋燭」というタイトルを自分に向けられたものとして心に刻んでいる。

いつの日か、その境地に到達できることを願って。
まずは作曲の基礎から学ばなければ。



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