心地よい至福のカントリー・タイム - Golden Hour/Kacey Musgraves(2018)
日曜の午後、部屋でゆったりと過ごしながら音楽に耳を傾ける時間は、心身の疲れを癒す至福の時間である。
ケイシー・マスグレイヴスが2018年に発表した「Golden Hour」は、そのタイトル通り、そういった時間を彩るのに非常に良い作品である。
テキサス出身のカントリー歌手であるケイシーは、この作品のヒットにより一躍有名になった。
同年のグラミー賞で年間最優秀アルバムを受賞したことで彼女のことを認知した音楽ファンも多いのではないだろうか。
かく言う私も、恥ずかしながらグラミー受賞後に後追いでこのアルバムを聴き、虜になった一人である。
さて、冒頭でも述べたように、本作を通して感じられる音風景は、晴れた休日に部屋や自宅の庭などでのんびりと寛いでいるような、ささやかな幸福感である。
それを演出するのは、ケイシー本人の声質によるところも大きいが、やはりカントリー特有のゆったりした空気感がなすものであろう。
しかし、このアルバムに収録されているのは、単なるカントリー音楽ではない。
オーソドックスなカントリーミュージックであれば、テキサスの空気は感じられても、東洋の島国で暮らす私たちの生活に溶け込み、幸福感を共有できないだろう。
本作で奏でられているのは、あえて言えばカントリーミュージックの進化形だ。
見事なまでにポップ音楽と融合し、ある種の普遍性を内包した、新しい形の音楽なのである。
カントリーとポップの融合といえば、テイラー・スウィフトなども過去に挑戦したテーマであるが、どちらかというとポップ音楽にカントリー要素を少し付け足したような音像だった。
対して、本作はあくまでカントリーが主軸で、ポップ要素は後付けであるように聴こえる。この点がこのアルバムにとっての強いアイデンティティである、と私は思っている。
アコースティックの音像をベースに、浮遊感のあるエフェクトを全体的に効かせていることで、唯一無二の心地よさが体現されている。
アルバムのオープニングである"Slow Burn"からその幻想性は顕著に表現されており、まさにゆっくりと燃えてゆくような音像に引き込まれてしまう。
"Butterflies"や"Space Cowboy"といったバラード曲も美しい。個人的には"Oh, What a World"の幻想的な雰囲気は最高に好みだ。
一方で、"Velvet Elvis"や"Golden Hour"といったビート感のある楽曲も適所に配置されており、聴き飽きずメリハリのある内容となっている。
後半のクライマックス"High Horse"はアップビートな異色作だが、この楽曲の存在が「Golden Hour」の体験を最高なものに引き上げてくれる。
ラストに収録された"Rainbow"はピアノの音をバックに歌いあげられ、大きな余韻を残すようにしてアルバムは終了してゆく。
音が止んだ部屋の中で、私はひとり、作品のタイトル通りの、心地よい至福のゴールデン・アワーが尾を引いているのを噛みしめるのであった。