羊文学が歌った希望の今(朝霧JAM2024のステージに寄せて) - our hope/羊文学(2022)


our hope/羊文学

先週末、朝霧JAMで羊文学のライブを鑑賞した。
彼女たちの出番は2日目のラスト、富士山の麓に音楽ファンが集結した幸福な祝祭を締めくくるのに相応しい最高のステージだった。

セットリストは昨年末にリリースされた「12 hugs (like butterflies)」およびそれ以降のシングル曲をメインに構成されていたが、朝霧高原の幻想的な雰囲気や祭りの熱狂がそうさせるのか、はたまた個人的な懐古趣味なのか、私は2022年のアルバム「our hope」に想いを寄せながら余韻を味わっているところである。

「our hope」というタイトルにも表れているように、本作で奏でられているのは希望の音楽だ。2022年のリリース当時は、コロナ禍の閉塞した日常から解放の兆しが見え始めていた時代である。
この作品は、そういった時世の中にあって、また、羊文学がバンドとしての新しいフェーズへと踏み出す第一歩となるような、何か殻のようなものを破って現状を打破するための光であると、私はそう捉えている。

『朝へ行く船は今動き出す君を乗せて…』
"hopi"の雲間から差し込む光のような優しい3拍子のイントロから、象徴的な歌詞でアルバムは幕を開け、"光るとき"や"マヨイガ"等のシングル曲を織り交ぜながら、"予感"の感情を揺さぶる圧巻の演奏を経て『そっと、おやすみ』という優しい語りかけで幕を閉じる。
本作において塩塚モエカのボーカルは希望の光そのものであり、そこで紡がれる歌詞は聴く者の心に浸透してゆく。
2020年のアルバム「POWERS」では孤独な夜に寄り添う救いの神であり、その前の「若者たちへ」では同じ目線で青少年の心に語りかける詩人だったが、スッと入り込むように言葉を届けるという点は一貫していると感じる。

そしてそれは今年の朝霧JAMでもそうだった。
3人の演奏から紡がれる言葉を間近で浴び続け、ただただ感動し、圧倒された。
2022年に歌われた一筋の希望はあの夜、大きな光となってステージから観客を照らしていた。

『永遠なんて無いとしたらこの最悪な時代もきっと続かないでしょう』
アンコールで演奏された"光るとき"も「our hope」に収録された小さな希望の一つだった。
いつか巡ってまた会ったとき、羊文学はどんな光を届けてくれるのだろうか。楽しみでならない。

 

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