優しい音の宝箱 - The Gaze/Predawn(2022)


The Gaze/Predawn

宝物のような音楽があるとすれば、それはどのような音だろうか。
私が思うに、それは幻想的で、柔らかいサウンドで包み込んでくれるような音楽であろう。
今回取り上げるのは、そういった音楽がたっぷり詰まった、いわば宝箱のような作品だ。

Predawnにとって、EP「Calyx」以来6年ぶりとなったこの作品は、全12曲、彼女の優しい音楽世界がこれでもかと展開されている。
夜明け前を意味するプロジェクトネームの通り、すべてを包み込み癒すような歌声は以前からの魅力であるが、今作では特に各楽曲のバンドアレンジが素晴らしく、また曲調の幅も広がっている。
アコースティックなサウンドで本人の透き通ったボーカルを活かしつつも優しい音像で空間を広げ、極上の音楽体験を演出しているのである。
全編英語詞で構成されている点も、ファンタジー感を醸し出すのに一役買っている。
たとえるなら、夢の国のお花畑。
このアルバムを聴くと、私の心はそういったイメージで満たされる。

1曲目に収録されている"New Life"は、6年間の沈黙を破って先行リリースされた楽曲だ。
Predawnの新しい船出を飾るにふさわしい、優しく懐かしく、暗い夜に太陽が昇ってくるような、そんなサウンドに仕上がっている。
"Ocean Is Another Name for Grief"や"Here We Go Again"、"Monument"、ラストの"The Bell"など3拍子系の楽曲も多く収録されており、これらの曲では特に、歌声の浮遊感と楽曲のリズムが重なって、夢の中にいるような感覚になる。
"Floating Sun"や"Willow Tree"といった比較的アップテンポな楽曲では、小さな光の粒子が音風景のいたるところに溶け込んでいる。
ラスト2曲、"New Life"の一部を引用して夢の終わりを告げる"Star Child"から、目覚めた後も余韻を残すような"The Bell"への流れが特に最高で、聴き終わった後には非常に大きな幸福感が心を支配する。

アルバムのアートワークも最高だ。
一見単純な優しい絵画のように見えて、よく見ると非常に奥が深い。
耳当たりの良さの中にアレンジの妙が見え隠れする音像ともリンクし、「The Gaze」というタイトルについても考えさせられる。
この優しい音を閉じ込めた宝箱のビジュアルとしてはこの上ない完成度だと私は思っている。

私はよく、入眠時にもこのアルバムを聴いている。
なんだか良い夢が見られそうな、そんな予感ともに、心地よく眠りにつくことができる。



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