コロナ禍で存在を消された私たち 新型コロナウィルスに罹って
検査難民
発症月:2020年1月
ペンネーム:睦月
居住地:西日本
発症から病院に行くまで
2019年12月、中国で未知のウィルスが発見されたというニュースが出た。その時は不安に思うも、自分にはまだ関係のない出来事だと思っていた。
2020年1月、38℃以上の発熱と酷い倦怠感、関節痛が数日間続いた。
解熱鎮痛剤を服用して熱は下がったが、次の日から微熱、頭痛、背中の痛み、動悸、疲労感、悪寒、火照り、冷感、頻尿、神経痛、紫斑、湿疹等の様々な症状が現れた。
新型コロナウィルスの特徴と言われている咳は全く出なかった。
春節。空港に海外から沢山の旅行客が入国してきた。薬を飲んで熱を下げて来た発言したり、マスクを外している人もいた。
その映像を見るまでは未知のウィルスに対しても実感が持てなかったが、流石に嫌な予感がした。
そしてその時も私の身体のどこかがチクチクしていた。
2020年2月。ダイヤモンドプリンセス号が日本に入港。日が経つにつれ陽性者は増えていった。悪化する状況に心を痛めていた。
2月15日。テレビではこう紹介していた。
発熱、咳、倦怠感等の症状。
1ヶ月以上続く風邪症状があれば、帰国者•接触者相談センターへと。
その時全てが繋がった。
1ヶ月以上続く微熱、神経痛、倦怠感、疲労感等の症状。
2019年12月に隣にいた人に咳をされた事。
私の2週間後位に発熱した子供。風邪をひいたと言っていた夫。
Twitterでも治らない神経痛を訴える人が新型コロナウィルスにも同様の症状がある事を発見していた。
当時新型コロナウィルスの情報は少なく、感染した事に気づいた時には1ヶ月以上経ってしまっていた。
私は治療法の無い未知のウィルスに罹ってしまった。絶望的な気持ちになった。
あの日あの場所に出かけなければ…と何度も後悔した。
次の日から私は家では喋らないようにした。
家の中でマスクと手袋をして、受け答えは頷きや首をふり、話す時は筆談かスマホ、やむを得ない時は小声でした。窓を開けて換気扇も回した。
ちゃんと隔離も出来てない。今更かもしれない。それでも何もしないよりはマシだと思った。
発症後、無症状が2週間続けば隔離解除。人にはうつさない。
そう言われていたけど、いつまで経っても症状は消えなかった。
いつまでも治らない。
いつまでもうつし続けるなら、これからどうやって生きていけばいいんだろう。
もう生きていてはいけない。死んだ方が良いのかと。何度も思った。
罹患したかもしれない事を初めて話せたのは遠方に住む母だった。
「大丈夫。そんなに長く治らない訳がない。かかっていない。」
と言われても納得出来なかった。
夫に話すも
「家族にうつっていないので違う。
うつっていても軽く済んでいる。
風邪と変わらない。
早くかかって抗体が欲しい。」
と言われた。
家族には一見私の様に長引く症状は見られなかった。
当時は気づかなかったが、思い返せば夫は長い間声枯れしていた。
子供も私と同じ様に疲れや寒気を訴えたり、紫斑が出る事もあった。
明日には治っていると願い、毎晩眠りについた。中々眠れなかったり、1時間毎に目が覚めた。
朝起きると身体のどこかがチクチクし出して、動くと段々重力がかかるかのような感覚が毎日続いていた。
感染を自覚した数日後、意を決して帰国者接触者相談センターに電話した。
症状と罹患の可能性を伝えるも
「息苦しさがなければ検査対象外です。
お近くの病院に行って下さい。」
と言われた。
もし新型コロナウィルスだったら、日本で最初の感染者かもしれない。
既に他の方に感染させてしまったかもしれない。
地方だから特定されて、もうこの土地には住めなくなってしまう。
まだ症状があるから、病院でうつしてしまう。
そう思ったら病院に行くのが怖くなってしまった。
病院に行くのを躊躇い、喋らなくなった私に夫は
「頭がおかしい。心の病気だ。
どうしたら良いかわからない。
このままなら離婚だ。」
と言った。
常に換気しようとするのにも
「寒い。俺と子供に風邪をひかせる気⁉」と。他の家族にも
「ネットの見過ぎ。怖い事ばかり書いてあるからそう思ってしまう。」
と否定された。
数週間後子供の高熱と咳が1週間以上続いた。
私はまたうつしてしまったと思った。
看病をする時も泣きながら子供に謝った。
罪悪感に押しつぶされそうになった。
小児科に行くと最初はただの風邪と言われ、次の病院では風邪か別の疾患を疑われた。
幸い薬が効いたのか子供の熱はひき、咳も出なくなっていった。
その時もPCR検査は無かった。
その頃私の身体に新たな症状が出てきた。
首の圧迫感や血痰だった。
今度こそ近い内に死んでしまうかもしれないと思った。夫の説得もあり、近所の病院を受診した。
医師に様々な症状を伝えるも
「血液検査の結果に異常が無く、症状も漠然としているので何も薬は出せません。」
と言われた。
PCR検査の話は出なかった。
新型コロナウィルスには現在治療法は無く、対処療法しかないと言われていた。
それでも病院に行けば、各々の症状に効果のある薬を処方される。やっと治る。
そんな希望は打ち砕かれた。
無理を言って、解熱鎮痛剤だけは処方してもらえた。勿論症状は消えなかった。
後日別の病院に行った。
血液検査の結果は前回と同じ様に異常は無かった。痛みは確実にあるのに。
今回も薬の処方に乗り気でなかった医師に渋々薬を1種類だけ処方して貰った。
「これで良くならなかったら、他の病院に行って。」と言われた。
飲んだら一時的に症状が消えたような気もした。
初めて服用した薬だったので、調べたら強い精神薬で常用するのは危ないと書かれているのを見つけた。
勇気を出して行ったつもりが行き詰まってしまった。
後になって思えば、もっと他の病院にも行くべきだった。でもあの時は心が折れてしまった。
こうなったら自力で治そうと思った。
SNSで発信するまで
テレビでは症状があるのに、検査してもらえないご家族の事を取り上げていた。急性期の症状に苦しんでいるお子さんにさえ、テレビやSNSでは新型コロナウィルス罹患を否定する意見が多かった。
罹患した著名人が亡くなるニュースが入ってきた。それでもテレビでは出演者や医師、専門家が、
「インフルエンザと変わらない」
「重症化さえしなければ良い」
「経済を止めるわけにいかない」
と新型コロナウィルスを軽視した発言をしていた。
「後遺症の事も今までこんなに残る疾患はなかったからあり得ない。他の疾患ではないか」
と。
検査出来なかった人達は勿論、陽性で後遺症になった方にも否定的な事を言っていた。
後遺症になると、日常生活に支障が出て、仕事が出来なくなる人達が増える。その方が経済にも問題が出る。
何故信じないのか、本人や身近な人が罹らないとわからないのかと思った。
2020年4月頃、海外の事例で血栓が報告された事等がわかってきていた。
2020年5月、足首に痛みを感じる様になった。海外のニュースで見た血栓や壊死が頭をよぎった。
歩き過ぎて起き上がれなくなる日も出てきた。
8月、Twitterでデモのお知らせがあった。
それまで自分から新型コロナの事をSNSで発信することはなかった。
でも、後遺症を認めて貰う為には行動を起こさなくてはいけない。
Twitterには自らの症状を発信して、疑いや酷い言葉を浴びせられてきた方々がいた。
私が今まで出来なかった事。とても勇気のある行動だと思った。
いつまでも傍観者でいては駄目だ。
私はアカウントを作ってツイデモに参加し、発信する事にした。
2022年1月現在思う事
雑な空港で検疫、感染者数を少なく見せる為の検査拒否、軽視した対応、海外で効果が出ている薬を承認しない日本。
検査拒否された方に暴言を浴びせる人達。
メディアやSNS上の医師も専門家も後遺症を否定した。
早期治療をすれば助かる方、後遺症で苦しまずに済む方もいたかもしれないのに、4日間の自宅待機ルール。
今までも疑問はあったがコロナ禍になってからは特に色々な事が信じられなくなった。
自分から探そうとしないと情報は入ってこない。海外の事例や効果のあった治療法の体験談は見つからない。
同じ症状や気持ちを共有できたのも、いち早く情報を知る事が出来たのもSNSからだった。
コロナ禍前は知らなかった慢性疲労症候群という病気を知り、食生活や栄養の事を見直す機会にはなった。
今後は海外の様に日本も早期検査、隔離、治療ができるようになっている。治療薬の候補が出た時も、今後罹患した人達はすぐに治療薬が服用できれば後遺症が残らなくなる。
そう思っていた。
でも未だに全国の病院でできる確立された治療法はない。
後遺症外来が出来ても、地方には当然ない。
効果があると言われている治療を行なっている耳鼻科すら見つけるのは難しい。
他の地域でも陽性でないと受診できない病院も多かった。
日本の基準では酸素吸入が必要になるまでは軽症の扱いだった。
それに急性期は軽症や無症状でも、後になって後遺症がどうなるかはわからない。
後遺症がどんな人に残るのか、長引くのかもはっきりわかっていない。絶対に大丈夫なんて事はない。
後遺症になれば普段出来ていた事が出来なくなる。食事も制限される。
中々症状が無くならないので、通院、サプリ、食べ物にもお金もかかる。薬も飲み続ければ副作用もでてくる。
ストレス、動き過ぎたり、身体に合わない食事で簡単にぶり返す。
自分に合った治療法を見つけて完治するのは困難な道のりだ。
2022年1月現在の体調は、数ヶ月前に体調を崩してからは、また手足の怠さや背中や腰の痛みを感じやすくなってしまった。完治までは長い。
いつか新型コロナウィルスが終息する。
罹っても直ぐに治療され、後遺症も残らない。
後遺症が周囲や医師に理解され、どこの病院でも治療が出来、快復する。
そうなる日が来るまでは、新型コロナウィルスを軽く考える事は出来ない。
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