藤井聡太二冠に学ぶ次の一手(5) 相手の技を敢えて受ける
藤井聡太二冠は、相手が仕掛けてくるであろう技を敢えて受けることがある。
その手筋がよく見えるのが「大石直嗣 七段 vs. 藤井聡太 二冠 第14回朝日杯将棋オープン戦本戦」(2021年1月17日) のある局面。
第1図 59手目 ▲7七角まで
先手大石七段が▲7七角と8八の角を逃した場面。持ち駒は、先手桂1歩2、後手桂1歩3。
ここで後手藤井二冠が指した手は驚くなかれ、△7四飛・・・。
第2図 60手目 △7四飛まで
すぐにわかるように、飛車銀取りを掛けてくださいと言わんばかりの手。実際、先手が▲6六桂と応じたのが第3図↓
第3図 61手目 ▲6六桂まで
これに対して後手は、△7六歩と角取りに歩を打つ。その後、先手が飛車、後手が角を取り合い、先手がと金を金で払った次の一手が第4図。
第4図 66手目 △6八角打
取ったばかりの角で飛車金取り。どうにも逃げづらいところにいた飛車を先手が諦めて別の手を指す間に後手は飛車をあっさり取り返してしまうのだった。
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実は第1図の局面に至るまでに布石がふたつあったのでした。
その1:53手目に先手は▲7四歩打と7三の飛車がこれを取れば第3図の桂打に出る仕掛けを行なったが、この時は後手は飛車を7一に引いている。
その2:先手の桂打(61手目)を受ける前に△8六歩、▲同歩、△8七歩打、▲7七角と、先手の角を7七に誘導している。
布石1があったから第3図の桂打は後手にとって想定内であることは自明で、おそらく当然来るであろう相手のその手を受けるつもりで△7四飛を指し、それによって飛車を取られても、相手の角を取り、その後にさらに相手の飛車を取ってしまう手筋を組み合わせてしまうところが藤井二冠の恐ろしさ。
私のような素人でも第1図からであれば藤井二冠と同じ手をもしかしたら思いつくかもしれない。だが第1図の局面に誘導することなど思いもよらない・・・。ため息が出るばかりである。