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折々のチェスのレシピ(538)少しだけ高度な知識をあなたに
AI(エンジン)に掛ければ下の局面は白がかなり優勢と判断するところですが、黒が仕込みをしており、白はそれを見抜いた上で次の手を決める必要があります。
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時間があって冷静に局面を見ればクイーンを逃しておかないといけないわけですが、クイーン - ビショップの筋が効いている感じがしてクイーンを動かしたくない気持にもなりそうです。
そこで、
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この対局を採録した実戦では上のように指していました。これはかなり悪手で、
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次にこうされると、クイーンの逃げ場所がかなり狭いです。というか、二択しかないのですが、
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どちらに逃げたとしても、
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ルークを捌いてきます。
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チェックが掛かっているので反射神経でこれを取ってしまうと、
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勝負が決まってしまいます。
という具合にやや長い手筋を経て白は窮地に陥るため、気がつきにくいかもしれませんが、優勢である白からも直線的な寄せ筋がない段階であり(第1図)、「もうちょっと時間がかかるな」という感覚を持っていれば、易々と相手の策にハマることはなかったのではと思われます。
この「もうちょっと時間がかかるな」という感覚ですが、こういう見通し(大局観)を養うことができると、局面を冷静かつ正確に把握することができるようになります。
ある程度スコアが高い相手と対局するようになると、少々形勢を損ねてもこうした仕込みをしてくる老獪なプレイヤーが一定割合で存在します。見抜けるかどうかで勝者と敗者が今回の例のように分かれてしまうこともあります。
逆に言えば、形勢が思わしくない時には、こうして相手が間違えそうな手筋を作っておくと逆転が転がり込んでくる可能性もあるわけです。チェスは心理戦の側面もあるわけですが、実際のところ、今回の例で白はクイーン - ビショップの筋に頼った手を作っており、黒が仕掛けた罠にハマりやすい心理状態だったと思われます。