折々のチェスのレシピ(33)
白に選択権があるので白からの視点で見てみます。
白は駒得しており、ここから無理やミスをしなければまず勝つことができます。一方で、まだ相手にも大駒が残っていて、そんなに簡単にメイトまで辿り着けるわけでもありません。
黒のクイーンがいなくなったほうが指しやすいという自信があれば、この局面でエンドゲームに持ち込んでしまうことも、選択肢としてはあり得る場面です。具体的には、g4の地点で駒を捌きあってしまいます。すると、
白は駒得をしていたので、ここで駒の損得は無くなりましたが、ここから白は特に何もしなくてもいい局面になります。局面を悪くしない手待ちの手を指しておきます。
例えばこんな風に。黒はプロモーションできそうなポーンが存在しないことからやはり手待ちの手しか指すことができません。しかし、黒にとってはどの手待ちの手を指したとしても局面を好転させることができません。
一方で白には例えばfファイルのルークが別のファイルに移動した時にはe5とポーンを突く手が残されています。
このあたりまで読むことができれば第1図の時点でエンドゲームを選択しても負けることはないでしょう。第1図の局面で、hファイルが素通しになっており、なおかつgファイルにポーンが迫っていて、白としてはちょっと嫌な感じがすると思います。実際はそんなに脅威ではないのですが、自分のキングを先に安全にしてしまうという意味では第1図において駒を捌いてしまってもそれはそれで悪くはありません。
何回か前にエンドゲームに適した駒組みは?という問いに対して答えを保留していましたが、これがいくつかある答えの一つでした。エンドゲームというとどちらが速くプロモーションできるかの競争を思い浮かべるかもしれません。それももちろん重要なことです。が、自分が相手よりも速くプロモーションできるのであれば、エンドゲームに至る前によりいい駒組みにできていることも実は少なくありません。
要は、いつも書いているのですが、序盤から一手もおろそかにせず、最低でもややいいぐらいで中盤を迎えることができれば、チャンスが巡ってくるということです。第1図の局面で白に選択肢が生じたのは、序盤から中盤にかけて優勢な駒組みを作ってきたからに他なりません。
今回ご紹介したような、相手が何もすることがない状況という局面においてエンドゲームに持ち込むのも一つの手ではあります。ただ、読み切ることがなかなか難しいのも事実です。