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冬眠していた春の夢 第13話 縁日の夢
その夜、私は縁日の夢を見た。
ヨーヨー釣り、綿菓子…たこ焼きや焼きとうもろこしの美味しそうな匂いまでしてきそうな、現実味のあるワクワクする光景。
金魚柄の浴衣で一生懸命に金魚掬いをしている小さな女の子。
全然取れないし、浴衣の袖が濡れそうで、そばにいるお母さんのフォローが大変そうだけど、お母さんは満面の笑みで楽しんでいる。
……お母さん?
お母さん?!
驚いて目が覚めた。
夢の中で小さな女の子と楽しそうに笑っていたのは、今よりもだいぶ若い私の母だった。
という事は…あの薄い髪の毛を無理矢理ツインテールにしている小さな女の子、金魚柄の浴衣を着ていたあの子は…私?
祖父母に預けられる前の、幼い頃のアルバムの中に、浴衣を着ている写真はなかった。
それでも、あの薄い髪の毛のツインテールは見覚えがあった。
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なんで急にこんな夢を見たんだろう?
自分の子供の頃、しかも祖父母に預けられる前なんて記憶にないから、夢を見ることもなかったし、もし見ていたとしても気づくわけがない。
それにしても…母のあの笑顔。
私に向けられた、あんなに愛しそうな顔。
それは私の憧れ。
望んでも得られないから、夢で見たのかもしれない。
なんだか泣けてきた。
こんな時、猫のおもちがそばにいてくれたらいいのに…。
と思っていたら、LINEの通知音がして、ビクッとして枕元のスマホを手に取ると、なんと!橋本さんからだった!
そうだった!昨夜帰り際にLINEを交換したんだった。
ドキドキしながら見ると、「おはよう!昨夜は楽しかったね」「夏休みは殆どバイトしてるから、よかったら仁美ちゃんと遊びに来てね」とあって、カフェのサイトが添付されていた。
それと、気づかなかったけど、仁美からもLINEが届いていた。
「昨夜は凄かったね」「橋本さん、花火よりも美月をガン見だったよ」
そして牛がウッシシと笑うスタンプが添えられていた。
私は2人からのLINEに激しく動揺した。
ついちょっと前まで、夢の中の母の笑顔に、泣きそうになっていたのに。
……?!
「金魚柄の浴衣、懐かしいね」
昨夜の橋本さんの言葉が蘇った。
…えっ?!
金魚柄の浴衣を着た、夢の中の幼い自分を思った。
第14話に続く。