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薄曇りの日の支援職(15):和風ジョブ型その1
近年ジョブ型雇用制度を導入する企業が増えてきました。グローバル競争時代、人事制度も欧米に合わせる必要が出てきたことや、日本人の若者の志向も職種別に雇用されることを好む傾向を反映しての動きだと思います。
しかし、人事ジャーナリスト海老原嗣生氏の『人事の組み立て 脱日本型雇用のトリセツ』を読むと、日本企業が導入したとしているいわゆる"ジョブ型"がおかしなものであることが詳細に分析されています。
氏によれば、ジョブ型とは欧米では
組織効率ありきでポストを定め、かつその定員を定める組織構造のこと
です。日本企業のいくつかの誤解について丁寧に説明している。よくあるのはJD(ジョブ・ディスクリプション)を明確にしたからジョブ型だというもの。
JDは1980年代くらいに欧米ではすでに重要ではなく、この不透明な時代にJDを明確にすることなどできない。そうではなく、ポストに対する仕事内容を明確化し、かつそのポストの定員が決まっているのがジョブ型とのことです。
僕も知る範囲の日本の企業で多いのが、職務等級制度を導入すること=ジョブ型と言い張っているケース。確かに等級が定められ、それぞれの役割も定義されています。しかし各等級の定員は決まっておらず、いくらでも増やせるのです。また、等級と課長・部長のようなポストは1対1の関係ではない。課長のレンジの中でも等級が異なる人が共存します。
欧米ではこのようなことはない、等級=ポジション=給与というシンプルなテーブルが普通です。
日本の”ジョブ型”がおかしいのは、本来等級がそのジョブを表すべきなのにその定員が決まっていないこと。例えばアプリ開発会社でグレード4のジョブが「開発のプロマネができ、各メンバーのプログラム内容も品質管理できること」とします。その場合組織の効率性からは1名とか2名とか定員が決まるべきです。プロマネが5名も6名もいて、今後もいくらでも増やせるとなると非効率になります。
流石にそれはまずいと思ったのか、日本企業では課長・部長のようなポスト数を縛る方策を取ることが多い。しかし同じグレード4で課長の人と非管理職の人が同時に存在する組織が効率的でしょうか?非ラインのグレード4は何の仕事をするのでしょうか。
また最悪なのが優秀な人材を引き上げたいがポストが埋まっている場合に、部長1名に対し、副部長を3人にするなどのケースです。これは不思議なことに上位職になる程見られる傾向です。本部長1人に対し、副本部長4人とか、、逆に副課長、副係長がというのは聞いたことがありません。ここから考えても副**システムは優秀な人材を社内に留めておく苦肉の策なのです。当然この副**システムは労働生産性を落とす要因になります。また本来実力のある人を副**として現場から遠ざけ腐らせる問題もあります。
海老原氏によると欧米では、ポスト数が決まっておりそこに上がれない人は諦めるか転職を選択するということです。それは合理的なシステムですね。例え優秀な人が多くいてもポストを複数にしてしまったら生産効率が落ちるのです。だから最も優秀な人を引き上げて他の人は諦めてもらうしかない。
海老原氏はジョブ型という分類ワードがよろしくないと言います。ポスト型と呼ぶべきであると。というのもジョブ型が欧米風であるとイメージしてしまうと、日本企業が職務等級を作り、各ジョブの定義を明確にしただけで自分も欧米風になった気になれてしまうからです。定員というルールを設けいていないにも関わらず、、、、、妙な欧米風魔改造により組織の弊害が出ています、それは等級の昇格連発による人件費の高騰と、生産効率の低下です。
企業としては優秀な人を他社に逃げられたくないので等級は上げます。しかしポストは埋まっている。そこで副**を連発します。その結果生産効率は下がり人件費は高騰する。そもそも優秀な人材とは何でしょうか?日本的評価基準自体が能力のポテンシャル評価なので、その意味では優れた人は結構います。他社に行って欲しくない気持ちもわからんでもない。しかし欧米では能力のポテンシャルで評価しません、ポストの仕事に対する評価です。
だから日本企業はよく考えるべきなのは、他社に出したくないような人材は本当に”今の自社”に必要なのかどうかです。もちろん能力のポテンシャルは間違いなくあるでしょう、しかしポストに対する仕事という点では不要なのです。サッカーで言えばエースストライカーが何人もいても試合には勝てない。サイドやボランチなど勝つために効率的なシステムが必要なのです。今の日本企業は、エースストライカーを4人も5人も試合に投入してしまい、11人を超えて20人くらいで試合をやっているようなもんです。その時点でルール違反で敗退ですね。
人件費についていうと昔であれば、人件費を抑制していたのは女性の短大卒の一般職採用、寿退社、出産後退社、非正規雇用。要するに女性を外部コスト化して切り抜けてきたのです。しかし時代的にそうもいかなくなった。そうなるとできることは、管理職の毎年のグレードの見直しと、役職定年によるポストオフ、定年後嘱託契約による大幅な賃金カットです。女性を外部に追い出してきたベクトルをシニア層に向けました。僕はここにまだ年功序列システムの残滓を見ることができると思っています。例えばアメリカには定年制度がありませんが、それは年齢による差別になるからです。しかし日本では昔は年功序列、今は年齢が上だと排除するということでベクトルは真逆ですがどちらも年齢というパラメータを人事制度に組み込んでいる点では変わりないのです。
もし時計の針が戻せるのならば、ポスト(部長・課長など)と職務(グレード)と給与を1対1にし、かつポストには定員を設けることで、欧米風ジョブ型(ポスト型)が実現できたと思います。しかしその場合はポストにつけない層が大幅に滞留することになる、その結果として転職市場が必然的に活性化していたと思います。また現在OECD最下位レベルの日本の労働生産性も向上していた可能性があります。
ただしその場合、失業者率は増加していたかもしれません、海老原氏も言いますが人事制度はトレードオフであり、絶対の正解はありません。
『人材版伊藤レポート2.0』でも言われる通り、経営戦略と人事戦略は連動する必要があります。人事制度だけいじって会社の戦略全体が改善するわけではありません。日本企業は一度足を止めて、経営戦略を具現化するのに最適な組織構造(階層と定員)を定義するべきです。その際には優秀なメンバーの顔を思い浮かべてはダメです。性別を考えても年齢を考えてもダメです。あくまでも生産性が最適化され、イノベーションを起こせる組織構造の話です。その際には副**は無くなるでしょう。それが最も筋肉質な企業の理想像です。
じゃあメチャクチャ余剰人員が出るのでは?どうするのか?クビにするのか?正直ここでは答えが出ないです。ごめんなさい
ただ一つ言えることは、経営戦略的に理想の組織構造(階層、定員)をまず認識しようということです、辛いけどそこを直視する。その上で全くの新規事業分野へのアサイン、ポストにつけない人を滞留覚悟で残す、早期退職勧奨、自発的転職、というようなルートを会社ごとに考えるべきでしょう。