vol.20 対症療法から予防医療の時代へ
私はトレーナーとしてこれまで数多くの慢性障害のリハビリ、運動療法をしてきました。その中で自分の活動は日本の医療費削減、そして、そこから派生する医療制度を救う一端を担っていると感じ始めています。
毎年めまいや偏頭痛などの不定愁訴で1週間近く休みを貰っていた女性が、私のジムに通い生活スタイル、勤務時の姿勢など日々の行動とセルフケアを実践し続けることで、年に2回出ていた症状が、僅か1回、しかも1日で快復したというケースもあります。
企業からするとミドルエイジの社員に1週間離席されるのは、経済損失であり、大きな打撃となります。
現代はこのような鬱、頭痛、関節痛、PMS、アレルギー、更年期など色々な健康に関する問題が個人を悩ませていますが、コロナ以降、リモートワークも普及し、人々はますます歩くこと、運動することからはどんどん離れて行っています。
国際ヘルスラケットスポーツクラブ(IHRSA)の2018年の調査ではアメリカのフィットネス参加率は20.3%。それに比べて、日本は、わずか3.33%とされています。ここにはマンションなどの一室で行うようなパーソナルトレーニングは含まれていない事から実際はもう少し多いと思いますが、それでも先進国諸外国と比較すると圧倒的に少ないですね。この習慣と意識の差は一体どこからくるのでしょうか。
AIなどの導入により、人にとってAIが仕事を担う時代がやってきています。社会が劇的に変化していく中で、職業人として生き残っていくためには、クリエイティビティの高い独自の仕事を自ら生み出せるような生産性の高さがより一層求められます。一人ひとりの創造性を引き出していくためにも、身体性を高めていくことが人財育成の重要な軸となる必要性があると私は見ています。
これまでの時代は、病気に対する対症療法の時代。これからは、病気になる前の『未病に対する予防医療の時代』です。
ここで必要になるのは、運動の恩恵です。定期的かつ継続的な運動がヒトに与える恩恵は身体性を始めとし、その個人の社会的立場、自尊心、自己肯定感にまで影響を与えるとされています。
⚫︎集中力を高める
⚫︎ストレスへの耐性が高まる
⚫︎疲労と戦う体力が向上する
⚫︎気分を高める
⚫︎創造性を高める
⚫︎記憶力を向上させる
⚫︎良質な睡眠への誘導となる
⚫︎慢性疾患、関節痛を予防する
⚫︎脳の老化を予防する
運動が身体性に及ぼす恩恵について、簡単にまとめても、これだけの要素を上げることができます。
これら全ては個別に存在しているのではなく、密接に関わり合っています。睡眠を取る事で、脳は不必要な物を洗い流しリセットされます。必要なものは記憶として残されます。睡眠が不足すると脳震盪を起こした人と同じ症状が出たり、酩酊状態に似た状態になるとされています。その睡眠を良好にするには日中の体温上昇、太陽の光が効果的でありそれはウォーキングや運動によって得られます。
病気になってから薬を飲んで対症療法をするのではなく、一見健康に見えるが不具合が生じている「未病」の状態から対処する。それには薬の処方ではなく、適切な運動の処方が最も効果的ではないでしょうか。
病気、鬱、PMSに対して休暇を付与する手厚い制度を設けても、企業側にとっては、大きな経済損失が生まれています。今は従業員にとってやさしい制度を企業側は整備していますが、企業側にとっても、従業員側にとっても、これらの制度は「対症療法」でしかないのです。
例えば、Google本社では、トレーニングを仕事の一環とするような制度が既に取り入れられています。
経済損出という選択ではなく、経済価値を生み出す選択をしているのは、一体、どちらでしょうか? そもそも、前提として、人財育成費用にかける費用は、アメリカ企業と日本企業とでは大きな差がありますが、会社の価値を生み出す人財に何が必要なのかを合理的に理解することは、人的資本がこれだけ重要とされる時代において、「健康であること」をどのように維持するかは、今後、マストの選択肢になってくるのではないでしょうか。
日本においても、症状が出る前に未病の状態に理解を示し、予防を前提としたトレーニングの機会を整備することこそ、企業が行うべき対応だと私は考えます。
参考文献、資料
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17167157/
https://hbr.org/2023/05/to-improve-your-work-performance-get-some-exercise
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnhum.2013.00824